小休止 ロシアンウイスキーボンボン
『ドミソ……ラジオ……ふあぁ……』
少し眠たそうなジングルの後、奏空は笑みを浮かべながら口を開いた。
「はい、ここまで色々なコーナーをやってきたので、ここらで小休止しまーす」
「小休止するラジオなんて中々ないだろうけどな」
「まーねー。ここでは少し休憩しながらコメントや新しく送ってもらったふつおたを拾ってくよ。でもさ……」
「ただ読むだけじゃつまらないって事か?」
「さっすがー! なので、今回はこんなものを用意しましたー!」
奏空は小さな箱を取り出す。蓋が開くと、中には4×4でおさめられた美味しそうなチョコが入っていた。
「美味しそうだけど、こんな時間にチョコ食べると体に良くないんじゃないか?」
「普通ならね。でも、これは違うよ。何故なら~?」
「何故なら?」
「これはウイスキーボンボンが混じっているからです!」
その瞬間、コメント欄が大きく動いた。
『間接的な飲酒配信キター(゚∀゚)ー!』
『乱れたソラタソが見られるんですか!?』
『ラジオだから聞けるだろ。まずはもちつけ』
『ぺったんぺったんつるぺったん』
『いまぴっかんぴっかんつるぴっかんとか言ったかー!』
『また髪の話してる』
コメント欄の混沌具合を見ながら奏空は楽しそうに笑う。
「という事で、小休止用ゲームのロシアンウイスキーボンボンを始めるよー」
「ロシアンって事は、幾つか紛れてるからそれを当てないようにする感じか」
「そゆこと。この4×4の16個の内、ウイスキーボンボンは2個あります。それ以外はしっかりと美味しいチョコだよ」
「1/8か……」
確率的にはそんなに高くはない。ただ、運が悪かったらどちらかが二つとも引く可能性はある。それは少し避けたいところだ。
「そうだね。ところでさ、分数って上が分子で下が分母って言うよね?」
「そうだな」
「ある時思ったんだよね。分数の上が攻めで下が受けっぽいなぁと」
「せ……は?」
長年の付き合いでわかる。これは本気でヤバイ時だ。
「そして、上が子供で下が母……これってた──」『ア・テンポ!』
「──でのぼ──」
『アパッシオナート!』
「それで1:8だからこれはもうきゅ──」
『アレグロモデラートー!』
「スリーアウトチェンジだ! お前、それはやりすぎだ!」
スリーアウトな発言をして奏空が満足げな顔をする中、コメント欄は更に混沌になっていた。
『そ、ソラタソー!? ヽ(; ゚д゚)ノ ビクッ!!』
『え……待って、思考が追い付かない。ソラママが分母で、りっくんが分子で……?』
『も、もまえら! まずは素数をかずえるんだ!』
『五字ってるお前がもちつけ』
『オマエモナー』
そんなコメント欄をよそに奏空は話し始めた。
「今から私とリクで一つずつコメントかふつおたを順番で拾っていきます。そして拾ったらこの中から一つを選んで食べる。全て無くなるまでこれを続けて、多く食べた方が負けって感じだよー」
「コメント欄を無視するな。まあやらないといけないんだろうからやるけどさ」
「ありがと。それじゃあ私が先攻でいくよ」
「どうぞ」
俺の返事を聞くと、奏空はふつおたを一つ呼び出した。
「えー……ソラジオネーム、可憐な焼け野原さん。ソラさん、リクさん、こんばんは。お二人の仲睦まじい様子をまじまじと聴いております。さて、もうすぐお二人は結婚式を開くとの事ですが、私は乱入してソラさんを連れ去ろうと考えています。ソラさんはどんな文句で連れ去られたいですか? との事でーす」
「……この人はどの世界線から迷いこんだんだ?」
「私達がラブラブな世界線だよ。どんな文句で、かぁ……ここはもうストレートにあなたを拐いに来た、が良いかなぁ。回りくどい言い方をされるよりは直球勝負の方が私はキュンとします」
「お前って結構そういうとこあるよな。因みに、連れ去るのはオススメしないな。コイツに手綱をつけるのは苦労するし、慣れてないと疲れ果てて自分から手放したくなると思うので、とりあえず俺がどうにかしておきます」
「これからもよろしくー。という事で、1個食べまーす」
奏空はチョコを一つ摘まんでそのまま口に運んだ。そして美味しそうに咀嚼すると、にこりと笑った。
「はい、当たりを引きましたー!」
「早いな。場所を知ってて、わざと選んでるとか無いよな?」
「私だって知らないよ。だって、見た目を同じにしてランダムに入れてったから」
「……ん? もしかして、これってソラの手作りか?」
「うん」
その瞬間、コメント欄が再び騒がしくなった。
『て、手作りチョコ!? Σ(゚Д゚)スゲェ!!』
『て、てづく……あばばばば……』
『おーい、こっちに担架寄越してくれー』
『あれは手遅れじゃね?』
『草通り越して大草原』
『それ森だろ』
『元気もぉ~りもり!』
コメント欄がカオスになっていく中、俺はそこから目をそらしてふつおたを一つ拾った。
「えーと、ソラジオネーム、リアリクさん。ソラさん、リクさん、こんばんは。楽しいラジオをありがとうございます。お二人の会話を聞いていると、何故かリクさんに親近感が湧いてきます。リクさんはソラさんに振り回されている現状についてどう思っていますか?」
「おおー、よかったね」
「そうだな。現状についてか……まあ振り回されているのは中々大変だし、コイツマジかと思った事も何度だってあるな」
「まあそうだろうね」
「けど、楽しくなかった事は不思議と無かったな。コイツはいつだってみんなを笑顔にしてきたし、その才能は正直尊敬してる。コイツがいなかったらつまらない事ばかりだったと思うから、大変だけどこれからも付き合いは続けていきたいな」
「リク……」
奏空が軽く目を潤ませながら見てくる中、俺は気恥ずかしさからコホンと咳払いをした。
「それじゃあ俺も一つ食べるか」
「あれやる? 萌え萌えキュンってやつ」
「やらんでいい。それじゃあいただきます」
俺はチョコを口に入れた。噛んだ瞬間、ほろ苦い味わいとまろやかな風味が口の中に広がる。舌触りもなめらかで口の中で味わえば味わう程にその濃厚なチョコの味が舌を通じて脳を刺激し、こんな時間ではあるけれど紅茶やコーヒーが欲しくなるような逸品だった。
「へー、美味いな。お前にこんな才能があったなんて思わなかったよ」
「ふふん、そうでしょそうでしょ。ほらほら、遠慮せずにどんどんお食べー」
「それだとゲームにならないだろ。ほら、続けるぞ」
「はーい」
そうして俺達はコメントやふつおたを読みながらロシアンウイスキーボンボンを続けた。しかし、初めに奏空が引いて以降はまったく当たる事はなく、遂に残り二つになってしまった。
「意外と残るもんだね」
「だな。ほら、ソラの番だぞ」
「オッケー。それじゃあ……お、双葉音子さんのコメントがあるからこれにしようっと」
「ああ、名物リスナーの一人か」
「えーと、今度家凸っていい? もちろん、リクの」
「……は? どういう事だ?」
突然の事に驚いていると、奏空は何か知ってる様子で頷いた。
「あー……これはあれかな。前々からリクの話をここでしてた時にちょっと個人情報を話しちゃってたんだよ。それで凸っていいって聞いてきたんだね」
「いや、何してんだよ!? 本人の与り知らぬところでプライバシーが流出してるとか恐怖でしかないぞ!?」
「それに関しては本当にごめん。双葉音子さん、家凸は出来る限り止めてあげてね」
「出来る限りじゃなくて絶対にだろ! はあ、もう……」
「ごめんって。お詫びにキスしたげるから」
「だから、コメント欄がカオスになるような事を言うな! お詫びはまた違う形でしてもらうけど」
「うん、絶対にするね。それじゃあ……こっちを貰おうかな」
奏空はチョコを一つ摘まんでそのまま食べた。そして幾度か咀嚼すると、残念そうな笑みを浮かべた。
「当たり引いちゃった」
「結局お前がどっちも引いたか。それじゃあ決着はついたし、このチョコは俺が……」
その時、奏空は俺の腕を掴んだ。見ると、目がトロンとしていて、俺はやってしまったと思った。
「そうだ……コイツ、酒にとても弱いんだった……!」
「ねえ、リクぅ。それ、ソラに食べさせてー?」
「わかったわかった。ほら、あーん」
「あーん」
ソラは俺が摘まんだチョコを指ごと口に入れた。そしてソラの舌はザラリザラリと俺の指を撫で、慌てて離すとソラは残念そうに少し唇に垂れていたチョコ色のヨダレを艶かしく舐めとった。
「はあ……リク、美味しかったぁ」
「語弊がある言い方をするな! お前はとりあえず水でも飲んで落ち着いとけ!」
「え~? ソラもみんなとお話したい~」
「吐息多めで言うな! えー、とりあえずロシアンウイスキーボンボンはソラの負けでした。ソラはかなり酔ってるので、しばらくは俺が進行します。よろしくお願いします」
奏空の状況とそれに対してのコメント達にため息をつきながら俺は次のコーナーの準備を始めた。
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