緊急企画 リクの一人喋り
『ドミソ~ラジオ。ソラジオ~』
ラーメンが食べたくなるようなジングルを鳴らした後、俺はため息をついた。自分で用意してきたロシアンウイスキーボンボンでだいぶ酔ってしまった奏空はすやすやと眠っているので、起きるまで俺だけで進行しないといけないからだ。
「まさか本当にチェンジになるなんてな……」
『次はリク選手の攻撃です(`・ω・´)キリッ』
『お、りっくんの一人喋りくるー?』
『アシスタントリクの~ためになる~はなし~』
『おう、アイテム絶許マンさんは後で屋上な』
「コメント欄もこんなだし……まあ、このまま何もしないよりは俺が何か喋ってた方がいいか。という事で、緊急企画で俺の一人喋りをしまーす」
とは言ったものの、何を喋れば良いのかはわからない。ソラジオという前身の頃からパーソナリティーをしている奏空とは違って俺はペーペーの素人だ。だから、本気で困ってはいるのだが、どうすれば良いのだろう。
そう考えながら奏空を見た時、ふとある事を思い付いた。
「……そうだ、それなら俺と奏空のこれまででも話せば良いのか」
『おっ!? ソラリクのエピソード!? Σ(゚Д゚)スゲェ!!』
『おいおい、マジで神回か?』
『リク氏ー、これはアーカイブ残るでござるかー?』
「アーカイブ……ああ、配信を後から観れる奴か。ソラの事だから残すと思う」
それを聞いてリスナー達が沸き立つ。
『アーカイブ確定演出キター(゚∀゚)ー!』
『ソラジオ始まって以来の再生回数来るだろ、こりは!』
『やべぇ……俺、伝説の瞬間に立ち会ってるよ……!』
『伝説って?』
『ああ!』
「そこまで期待される物でもないけどさ。そうだな……まず、俺と奏空は中学の時に出会ったな」
俺は少しずつ奏空との出会いを思い出していった。
「アイツって初めましての時からあんな性格ではあったな。見た目は少しミステリアスな感じでおとなしそう、だけど口を開けばみんなも知ってる通りの活発な感じで歯に衣着せぬ言い方しかしない。そして何かと周囲を勘違いさせるような言動ばかりする。悪い言い方をすれば、トラブルメーカーって感じだけど、アイツが好きだっていう奴は多かったな」
『事実、ソラタソガチ恋勢は多いからね、ちかたないね』
『たしかに独特のセンスやあの中性的な声に撃ち抜かれる奴って多いよなぁ……まあ、中には作品を読んでファンになってここに来た結果、更にドハマリするパターンもあるけど(シジミ)』
『しじみがトゥルルって頑張ってんだよ!』
『なんだかここ暑くないですか?』
「そういえば、狂いながら歌うともその頃出会ったな」
狂いながら歌うのコメントがすぐに表示される。
『だなぁ。ソラってその頃から色々不思議な奴ではあったから、その雰囲気にやられていった奴ばっかだったよな』
「そうそう。そんなんで誰もが驚くような事ばっかし始めるから巻き込まれる俺達は困ったのなんのって」
『お、ソラタソ武勇伝か?』
『でんでんででんでん?』
コメント欄が期待し出すのを見て、俺はクスリと笑う。
「そんな大層なものでもないかな。例えば……小説で読んだから校庭に魔方陣を作りたいとか座敷わらしと写真撮りたいから岩手に行くとか本当に突然そんな事ばかりを言い出すんだ。それも実行日の前日に」
『お、おう……』
『ソラタソ、学生時代からヤバすぎな件』
「そして俺達はそれに巻き込まれるし、先生からソラの保護者扱いされる。それが俺達の学生時代だよ」
『けど、楽しかった事ばかりだし、これからも付き合いは続けていきたいんでそ?』
それを見て俺は笑みを浮かべた。
「まあな。さっきも言ったけど、コイツのみんなを笑顔にしてしまう才能はスゴいし、本当に尊敬してる。だから、飲みに行ったり遊びに行ったりする友達は多いんだけど、本当に酒には弱いから俺が何かと駆り出されるんだ。酔い潰れたコイツを運んでやる要員としてな」
『うーん、これは……アッシーくんに見せかけたアレか?』
『これはアレだな』
『アレ以外にないだろうなぁ』
「ん、何の話だ?」
俺が疑問を抱く中、コメント欄は慌てたように加速し始めた。
『なんでもないのよなんでも』
『リク氏はそのままでいてくれ』
『その方がセクシーなので』
『ソラタソは色々大変だけど』
「まあ、良いか。さて、それじゃあそろそろ始めるかな?」
俺は奏空を見る。奏空は変わらずスースーと寝息を立てている。
『何が始まるんです?』
『第三次大戦だ!』
『コマンダーニキおっすおっす』
「そんな物騒な物は始まらない。俺に色々押し付けてるタヌキにちょっと言ってやらないとな」
『タヌキ?』
「そうだ。なあ? ソラタヌ?」
それを聞いた奏空の体がピクリと震えると、すぐに奏空は少し気恥ずかしそうな顔をした。
「あはは……流石はリクだね……」
『狸寝入りだと!?』
『ソラタヌさんたら寝たふりをしてアタシ達の話を盗み聞きしてたのね!』
『ソラタヌさんのエッチ!』
「途中から起きてたのはわかってた。コイツ、酒には弱いけど、飲み慣れてきてからは自分の酔い具合をコントロール出来るようになったんだ」
「そこまでお見通しかぁ……いつ気づくかなと思ってたけど、最初からバレバレか」
奏空は座り直すと、笑みを浮かべながらマイクに向かって話しかけた。
「みんなー、ソラタヌだぽーん!」
『ソラタヌー!』
『ソラタヌー! 俺だー! 狸汁にしてくれー!』
『お前がなるんかい』
「あははっ、みんなまだまだ元気だね!」
「元気すぎて困るくらいだけどな。さて、これで俺の一人喋りのターンは終わりで良いよな?」
奏空は笑みを浮かべたままで頷く。
「まあ私が復活したからね。それにしても、リクがいると本当に心強いなぁ……これなら本当にお酒を飲む配信をしてもいいのかも?」
「バカな事を言うな。俺がいるからこそそんな事をさせるわけがないだろ」
『えー!』
『そこをなんとかリク様ー!』
「なんでコメント欄が懇願してるんだよ! するとしても何かお祝い事がある時だけだ!」
なんでもない時にやってたまるかと思っていたその時だった。
『ん?』
『いま、お祝い事があれば良いといいましたね?』
『ソラタソー、言質は取りましたよー』
「え?」
「うん、みんなありがとー」
奏空はにこにこ笑っていた。
「リクが言ってた通り、この配信はアーカイブを残します。そしてリクは何かお祝い事があったらお酒を飲む配信をしても良いと言いました。証拠は残ったよ、リク」
「お、お前達はー……!」
「一度吐いた言葉は戻らない。だからこそ、何かを言う時はそれなりの責任を持たないといけない。良い勉強になったね」
『作家先生らしい言葉だなぁ……』
「……ほんとにな。わかった、今度何かの賞を獲るとかしたらやっても良い。だけど、編集者さんと編集長さんの許可も取ること。良いな?」
「はーい!」
手をピッと上げながら子供のような幼い声で答えると、奏空はにっこにこで話し始めた。
「はい! というわけでリクの一人喋りはここまで。次のコーナーに移る前にここで一曲。リク、曲紹介をお願いね」
「……今度は両親が歌ってたりしないよな?」
「しないしない」
少し怪しみながらも俺は曲のタイトルを言い、そのまま曲をかけた。そして前奏が流れ、Aメロに入った瞬間、俺は崩れ落ちた。
「たしかに両親じゃないけどさ……!」
『おんにゃのこの声?』
「……ウチの妹だ。高校二年生の」
『ファッ!?』
『高二!? 声がめっちゃアニメ声じゃん!』
「かあいいよね~」
奏空がニコニコし、コメント欄がちょっとしたアニメイベントのライブ会場と化す中、俺はノリが良すぎるウチの家族にため息をついた。
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