コーナー② フリートーク
『どみそら!』
日常物アニメのタイトルのようなジングルが流れた後、奏空は一息置いてからコーナーのタイトルを口にした。
「フリートーク!」
「フリートークのコーナーか。また俺もツッコミ疲れたし、少し休憩したいかな」
「まだ色々コーナーはあるからね。さて、オープニングトークから始まり、さっきのギリギリ大喜利までやってもらったわけだけど、リクは楽しめてる?」
「まあ楽しいは楽しいけどな。あ、そういえばさ、一個気になってたふつおたがあるんだけどせっかくだから取り上げても良いか?」
「いいけど、どれ?」
俺はふつおたのコーナーで取り上げた内の一つを呼び出した。
「この狂いながら歌うさんのふつおたなんだけど、俺は今日からアシスタントになったのに、まるで俺の事も知ってるような口振りなのがさっき気になってな」
「ああ、それはそうだよ。だって、私達の共通の友人からのふつおただもん」
「は!?」
「因みに、さっきの寝言を教えてくれたのもこの狂いながら歌うさんだね。だから、寝言を聞いてた内の誰かって事になるね」
「いや、この寝言は泊まりをした時に聞かれたものだったはず。となると、アイツか……!」
狂いながら歌うの正体がわかり、少しだけ怒りが込み上げてくる中、奏空はクスクス笑った。
「おーい、き──」
『アッラルガンド!』
「だから、個人名を出すな。というか、それはマジで言ってるのか?」
『リク、それはマジ』
狂いながら歌うからのコメントが表示されると、コメント欄が沸き立った。
『本人降臨! 本人降臨! ゥォー!ヽ(゚д゚ヽ)(ノ゚д゚)ノ ウォー!』
『【速報】狂いながら歌う氏のふつおた、身内の犯行だった』
『は? 狂いながら歌う氏、裏山なんだが?』
「アイツ、何してんだよ……」
「因みに、私の著書のファンでもあるよ。ふふ、うれしいもんだね」
「それはそうだけど……はあ、まあ良いや。あとで本人には電話しておこう。それで、他に話題はあるのか?」
奏空はニコニコ笑いながら頷く。
「あるよ。右下でもお利口さんにしてるハスキー犬のムーンなんだけど、なんとこの度、次の著書に登場する事になりました」
「へー、そうなのか。でも、そういうのって終わり際の告知とかでするもんじゃないのか?」
「待ちきれなくてね。担当の編集者さんもこのラジオを聞いてくれてるんだけど、ラジオ内でお知らせして良いですよってさっき言ってくれたから早速お知らせしたくてね」
「そうか。ソラの編集者さん、ありがとうございます。ソラの件で何かあったらここのコメント欄でも良いのですぐに言ってください。ちゃんと解決まで付き合うので」
すると、一つのコメントがコメント欄に表示された。
『ありがとうございます、リクさん。ソラさんの担当編集です。普段からソラさんの奔放っぷりには私達も驚かされていますが、このラジオで楽しそうにしている姿はとても安心しています。今後ともよろしくお願いします』
『担当編集氏! 担当編集氏じゃないか!』
『今回はいつも以上の神回かな』
『今北産業』
『新アシスタント就任。二人の共通の友人が降臨。ソラタソの担当編集氏も降臨』
『サンガツ。これは祭りかな』
コメント欄が更に沸き立つ中、それを奏空は嬉しそうに見ていた。
「いやあ、盛り上がってるねぇ」
「そうだな。それで、どんな話なのかも説明して良いのか?」
「うん。シベリアンハスキーの子犬、ムーンは敏腕刑事として活躍していたお爺さんのお家で飼われる事になるの。ただ、お爺さんはもうあまり長くなくて、奥さんも若くして亡くしてる上に親戚や息子夫婦達はお爺さんの遺産狙いでその死を待ち望むだけ。だから、お爺さんは最期を看取ってくれる存在としてペットショップで売れ残っていたムーンを買い、信頼出来る家族として迎える事にしたって感じかな」
「そのお爺さん、だいぶ辛いだろうな。刑事時代の知り合いとかは出てくるのか?」
「うん。むしろ血の繋がりのない人達の方がお爺さんの事を親身になって考えてくれるし、お爺さんが逮捕した人達もその男気に惚れて改心した結果、まっとうに生きたりしてるからそういう人達とのふれ合いも作品の見所かな」
「なんか実際にそういう目に遭ったら辛いだろうな、本当に」
奏空は哀しそうに笑う。
「まあね。私は家族からもしっかりと愛情を与えてもらいながら生きてきたし、リク達みたいな良い友達にも恵まれて、担当の編集者さんまでついてこうして小説書きながら動画サイトでのラジオ配信も出来てる。これって本当に幸せな事だよね」
「だな」
「因みに、まだ執筆中だけどタイトルは『じいじとムーン』の予定だよ。これはお爺さんがムーンに対して自分の事をじいじって呼んでるからだね」
「なるほどな。実際にシベリアンハスキー飼ってるお前だからこそリアルな飼い方を描けそうだよな。そういう知識や経験ってやっぱり実際に体験しないとうまくは書けないものだろうし」
「そうかもね。尚、発売は今年の冬ごろを予定していて、通常版とムーンのブロマイド付きの特別版の二つを出す予定だよ」
「売り方がゲームソフトとかアイドルのCDのそれだな。特別版の方が少し高くなる奴」
奏空はクスクス笑いながら頷く。
「そうだね。とりあえず今回も読者の皆さんに楽しんでもらえるように精いっぱい頑張って書いてみるよ。それが私に出来る事だからね」
「そうだな。まあ俺もサポートはしていくから頑張れよ、ソラ」
「うん。頼りにしてるからね、未来の旦那様?」
「さっきの件をまだ引っ張るのか……でもまあ、お互いに目の前の相手と結婚した方が良いって結論にはなりそうだったんだよな。なんだかんだで」
「しとく? 結婚?」
「だから、そういう感じでするもんでもないって。するにしてもやっぱり順序は踏むべきだろ。何回かデートっぽい事をするとかお互いの両親にも話をしておくとか」
そんな話をしているとコメント欄が賑わい始めた。
『\(^▽^\)(ノ^▽^)ノあま~い♪』
『口の中がジャリジャリしやがる……これがこのドミソラジオのスタンド攻撃なのか!?』
『マスター、コーヒーを一杯頼むよ。とても濃く作ってくれ。甘さは足りているからね』
『お二人とも末長くお幸せにー』
「だから、コメント欄も気が早いって。はあ……」
「ふふ、ありがたいもんだね。リクとの結婚生活、楽しみだなあ」
「お前も気が早いからな。というか、編集者さん的にはこういう話題って困らないのか?」
すると、再び編集者さんがコメントをしてくれた。
『男性からのファンレターなども多いですし、明らかに好意を寄せている内容も多いですが、ソラさんが喜んでいて今後の仕事の糧になるのなら問題はありませんよ。先程、編集長も結婚式で読むスピーチを書かないといけないと仰ってました』
『とても大好きな作家さんに結婚の可能性が出てきたのはマジでショックです! でも、幸せならOKです』
『( *'ω'*)و グッ』
『ちくわ大明神』
『(*°˘°*)нарру♡』
『誰だ今の』
沸き立つコメント欄を見ながら奏空が楽しそうにしている姿を見て、俺は不思議と安心感のような物を感じていた。それは学生時代から周りを巻き込みながらも全員を笑顔にしていき、最後には全員と仲良くなってしまうその特徴が変わっていない事への安心感もあったのだろうが、少なくとも奏空にとっては俺が結婚をしても良い相手だと考えてくれていた事への喜びのような物もあるのだろう。
「やれやれ……俺もいつの間にかソラに惹き付けられてたのかもな」
「およ? これは告白タイムですかな?」
「バカ言え。こんな場でそんな事を出来る程に肝は座ってない。とりあえず今度どっか行くぞ。お互いの気持ちについても色々話したいしな」
「……うん、楽しみにしてるね」
「ああ。それで、フリートークの時間はまだ続くのか?」
「ううん、そろそろ次のコーナーの時間だよ。休憩だって済んだでしょ?」
「休憩になったかはわからないけどな。さて、それじゃあジングルを挟んでから次のコーナーに行くぞ」
「アイアイサー♪」
そしてコメント欄がまた沸き立つ中、俺は次のコーナーに向けて意識を集中させていった。
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