コーナー① ギリギリ大喜利
『ドミソラッジオー!』
元気の良いジングルが流れた後、奏空は上機嫌で再び話を始めたが、俺はさっきの曲紹介のダメージが残っていた。
「ぐっ、ああぁ……」
「いやあ、良い曲だったねぇ」
「どこがだ! 若気の至りの極致だろ、あんなの!」
『自分自身の若さ故の過ちは認めたくないよな……』
『どこぞの赤い大佐もそう言ってたな』
『その頃は少佐定期』
「尚、リクの顔はリンゴみたいに真っ赤です。という事で、次はこちらのコーナー!」
奏空は手元の台本を見てからコーナーのタイトルを口にした。
「“ギリギリ大喜利”!」
日曜夕方の大喜利番組を彷彿とさせるBGMが流れると、奏空は楽しそうに話し始めた。
「はい、こちらのコーナーはリスナーから送られてきたお題に沿ってギリギリな答えを出していくというコーナーです」
「……ギリギリな答え?」
嫌な予感がする中で奏空は楽しそうに頷く。
「そう。相手に止められないギリギリセーフな答えを私が出していく感じだね。普通の大喜利なら秀逸な答えを出すところだけど、それじゃあ普通の大喜利コーナーと同じでつまらないからさ」
「普通の大喜利で勘弁してくれ……まあコーナーをポシャらせるわけにはいかないからやるけどさ」
「うん、ありがとー。という事で、例題から始めようか」
「えーと……例題が“アパートの大家さんの闇を教えてください”か。なんかこの時点で色々ギリギリな答えが出そうじゃないか?」
「まあそうだね。それじゃあ私からいくよ」
「どうぞ。えー……アパートの大家さんの闇を教えてください」
ドラムロールが流れた後、奏空はにこりと笑いながら答えた。
「“部屋全部がじ──”」
『アジタート!』
「はい、アウトー。言うとは思ってたけどさ」
「まあこんな感じでダメだと思ったら止めてもらえたらいいよ。因みに、もう一つ考えてたのが“大家さんの部屋番号が104”かな」
「え? ギリギリですらないんじゃないのか?」
「さあ、どうだろうね」
奏空の言葉にピンと来ないままでいると、コメント欄がざわつき始めた。
『104……え、(ll゚Д゚)怖ァ……』
『リクさん……アパートとかって部屋番号で4と9は飛ばすもんなんですよ』
「え?」
『4は『死』を、9は『苦』を連想する不吉な数字という事で飛ばすもんなんすよ……』
『つまり、大家さんはこの世の者じゃ……』
『いや、わざわざ生者でも104にしてる可能性があるからそれはそれで闇が深いぞ……』
コメント欄のざわつき具合を見ながら背筋がゾッとしていると、それを気にせずに奏空は進行し始めた。
「さあ、そろそろ問題にいこうか」
「いや、平然と続けるなよ。怖いって」
「これはあくまでも例題だから。サクサク進めないと」
「それはそうだけどさ……はあ、まあ良いか。それで、問題は?」
奏空は笑みを浮かべてから送られてきたお題を読み始めた。
「これだね。ソラジオネーム、塩むすび塩抜きでさん」
「どんな注文だ」
「“カッコ悪い寝言を言ってください”だって」
「カッコ悪い寝言……可愛い寝言とか怖い寝言ならすぐに思い付くけど、カッコ悪いのをって言われるとすぐには来ないもんだな。それもギリギリセーフのって……」
「そういうもんだよ。それじゃあ思い付いたからいくね」
「ああ。カッコ悪い寝言を言ってください」
ドラムロールが流れた後、奏空は答えを口にした。
「“むにゃむにゃ……俺はぶら──”」
『アンダンテ!』
「待て! それはギリギリでもなくアウトだ!」
『お?』
『ペロ……これは黒歴史!』
『ソラ、それについてkwsk』
「リスナーもちょっと待て!」
悪ノリを始めたリスナーを制止していると、奏空はクスクス笑い始めた。
「これは学生時代、それも少し中二病だったリクのリアルの寝言の一つだね。といっても、流石に私は直接聞いた事はなくて、共通の友人から聞いた寝言だよー」
「誰だ……この寝言をソラに吹き込んだのは……!」
「この頃のリクはスゴかったね。学校では普通にしてたけど、それは仮の姿でその正体は黒きころ──」
『アレグロモデラート!』
「だから止めろって!」
俺がすかさず止めると、コメント欄は少し加速した。
『リク丶(・ω・`) ヨシヨシ』
『イタタ……』
『頭が、頭が痛い……!!』
『衛生兵! 衛生へーーーい!!』
『大丈夫だ、まだ傷は浅いぞ!』
「な、なんかコメント欄でもダメージ受けてる人がいるような……あ、怪人人面疽さんありがとう」
怪人人面疽さんにお礼を言っていると、奏空はニコニコ笑った。
「通るべくして通る道なんだよ、きっと。因みに模範解答は“○○! このままな──あ、間違えて元カノの名前を……!”みたいだね」
「たしかにカッコ悪いし、なの時点で止めてるからギリギリセーフだな。」
「相手の気分としてはガン萎えだね」
「だな。それじゃあ次だな」
「はいはーい。ソラジオネーム、斜向かいのhshsお化けさん」
「またクセのあるラジオネームだな」
ドミソラジオのリスナーのクセの強さを改めて感じる中で奏空は楽しそうに問題を読み始めた。
「“こんなたけのこの里はイヤだ”だって」
「こんな○○はイヤだシリーズか。正直、きのこの方じゃなくて助かったな」
「そっちの方がやりやすいけどね。でも、このままいってみようかな」
「わかった。それじゃあ……こんなたけのこの里はイヤだ」
ドラムロールの後、奏空は答えを口にした。
「“きのこの山をセット出来る”」
「きのこの山をセット……まあ、セーフだろ。ギリギリでもなんでもないし」
「ふふ、それはどうかな?」
「え?」
疑問を抱いていると、コメント欄にコメントが流れていった。
『タケノコ掘り♪ (ノ*゜∀゜)ノξξξξξξ』
『えー……しっくり来ていないリクさんに説明すると、たけのことはお尻の穴の隠語です』
「……は?」
『そしてきのこは男のアレをイメージさせるので、それをたけのこにセット出来るという事は……』
「……オーケー。そういう事な。なんかそう考えるとタケノコ掘りっていう単語もなんだかアウトに聞こえてくるな……」
「因みに、たけのこ剥ぎだと性風俗のぼったくりの手口の一つになるね。基本料金は安いけど、服を脱ぐみたいな細かい行為に追加料金が発生して、結局大きな出費を強いられる的な感じだよ。リクも気を付けなね」
「いかないからな。そもそも行く気はないし、それを聞いたら尚更行きたくなくなるって。奏空だって俺がそういうとこに行ったって聞いたらなんかイヤだろ?」
奏空は少し考えてから頷いた。
「まあそうだね。なんかモヤッとするかな」
「そうだと思った。それで、模範解答は?」
「模範解答はね……“超低確率でピンクの物が入ってる”だね」
「ピンクの物? それもまだ別におかしくはないんじゃないのか?」
「たけのこって、色素が原因で変色したりするんだ。それで水煮なんかもそうなんだけど、中には傷んでピンクとかオレンジになってる物もあるようだから、そのイメージじゃないかな?」
「うわ、それはたしかにイヤだな。どんなものでも早めに食べたりするのが一番って事だな」
「そうだね。さて、今回はここまでかな。リク、このコーナーはどうだった?」
奏空からの問いかけに俺は頷きながら答える。
「面白いとは思うけど、かなり頭を使うなと思った。そもそも大喜利自体が難しい上にギリギリなところを攻めないといけないわけだからさ」
「でしょ? でも、中々楽しいし、頭の良い運動にはなるよ」
「それはな。はあ、それにしても……なんで何回も黒歴史を掘り返されないといけないんだか」
「掘るならたけのこの方が良いよね」
「……それ、食べ物の方のたけのこだよな?」
「ふふ、どうでしょう? さて、次のコーナーに行く前に曲紹介に行こうかな。リク、紹介よろしくね」
「はいはい。えーと……」
今度の曲自体は何の変哲もないデュエットの歌謡曲だったので、俺はそのまま曲紹介をした。そしてイントロが流れ、そのままAメロに入った瞬間、俺は驚きから咳き込んでしまった。
「ゴホッゴホッ……!」
「大丈夫?」
「大丈夫? じゃねぇよ! なんでウチの父さんと母さんのデュエットなんだよ!」
「前にご両親とカラオケに行く機会があったから録音させてもらったんだ。因みに、本人達からの許諾済み」
「あの二人は……!」
父さんと母さんのノリのよさ、そしてその歌声に対するリスナー達のコメントとニコニコ笑う奏空の笑顔を見ながら俺はまた頭が痛くなったような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます