第16話 古海栄徳・2-2
光の破片を
夏真っ盛りな景色の中で、
生白い少女と小麦色のチャラ男。
清純なお付き合いのはずがない。雰囲気という名の波にさらわれ、遥か先の沖へと辿り着く。後戻りできない大人の階段だ。純真無垢な
ああ、最悪の展開だ。
脳裏を
「まさか、行きませんよ。
だが、どうやら
心底ほっとした。
こんなに純粋な少女が悪い虫に
「あと、あんまりアウトドアって得意じゃないんです」
「そ、それなら、俺も苦手な方かな」
「古海さんもですか。良かったぁ同志がいて。なんていうか私、割と
意外な共通点にびっくりして心臓が跳ねる。
しかも、同志と呼んでもらえるなんて。本来なら並び立てる立場じゃないのに、不意打ちの好意で無性に小躍りしたくなる。
こんなの、いつぶりだろうか。
インドア派はずっと虐げられてきた。
世間一般では、根暗イコール犯罪者予備軍と
しかし、本当に危険なのは、陽気なアウトドア派ではないか。と、世間に問いただしたい。少なくとも久谷が当て嵌まるはず。女子高生を
なのに、俺のような日陰者ばかりが糾弾される。反抗しないのをいいことにサンドバッグ扱いだ。罪悪感が湧かない相手だからとやりたい放題。もはや人間と思われていないのかもしれない。
「あ、デブって意味じゃないですよ。まぁ、美味しいお店を食べ歩くとかなら、喜んで行くタイプなんですけど」
かといって、その恨み憎しみで仕返しをする気にもなれない。
似たような経験をした末、女性嫌いを発症し
だが、あんなのと同類なんて思われたくない。俺はまだ正常だ。その気になれば真人間の道に戻れるはず。そう自身に言い聞かせるしかない。もっとも実態は、どこにも所属できぬはぐれ者でしかない。そして、俺の人生がV字回復する見込みはなきに等しいのだ。
自身を弱者と認めたくないが故に、誰よりもみじめな最下層にいるのではないか。
「やっぱり、人それぞれ向き不向きがあるっていうか。長所短所を認め合って、お互いにとって適度な距離感を保てるのが一番かなって。どっちかの趣味嗜好を押し付けるより、その方がきっと平和なんです。なんて、ちょっと綺麗事っぽいですよね。……ってあれ、古海さん。聞こえてます?」
ぬぅっと。
文字通り、目と鼻の先に塔村の顔が現れた。
驚いた拍子で我に返る。意識が負の奥底へと沈んでいた。悪い癖だ。自ら進んで鬱々と落ち込もうとするなんて。百害あって一利なし。せっかく無戯星ルゥラのおかげで持ち直したというのに。
「ご、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
「あはは、いいですよ。大した話はしてませんですし。それよりも大丈夫ですか。体調が悪かったらいつでも言って下さいね」
ああ、塔村は本当に良い子だ。
これまでの人生、こんなに俺を気遣ってくれる女性がいただろうか。否、絶無と断言できる。そもそも、女性と触れ合う機会がなかったのだ。おかげで免疫は一切ない。全身の血液が溶岩と化して流れている。
恋愛経験なし。
ついでに言えば、性体験もない完全無欠の童貞だ。
それでも、女友達の一人くらいはいるはずだ。などと、一般人なら指摘するだろう。だが残念なことに、同性の友達すらいない無縁の極み。人間関係は定期的にリセットしている。職場を変える度、スマホの電話帳から削除し着信拒否の設定をする。おかげで、現在登録されている連絡先は十件程度しかない。
人と繋がるのが怖い。だから、何もかも断ち切ってしまうのだ。
しかし、結婚願望がないというのも嘘になる。
かつては――少なくとも学生時代までは――漠然と、幸せな家庭を築きたいと思い描いていたはずだ。平々凡々な人生計画。世間一般で普通とされるイメージを抱いていた。
その普通が難しいと、今では痛いほど理解している。
目標を達成するには、幾つもの壁を乗り越えなくてはならない。
恵まれた頭脳や肉体、あるいは
仮に、血の
なんて、また悪い癖だ。
いつまでも改善せぬ自分に心底
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