第15話 古海栄徳・2-1
コンビニ店内は学生達でごった返している。
ホットスナックを買い食いし、駐車場で踊り狂って馬鹿騒ぎ。人目を気にせず迷惑極まりない連中だ。腹立たしくて仕方ない。理由はもちろん邪魔で喧しいから。そして何より、当時の俺と正反対に青春を謳歌しているからだ。
どこからともなく湧いてきやがって。害虫に遭遇したような不快感に苛まれる。営業スマイルをしようにも、怨念で
そんなこんなで、害虫御一行は飛び去り台風一過。客が粗方
頭痛を覚えながら、黙々と原状復帰に努める。何故あんな奴らの尻を拭わないといけないのか。散々虐げられてきたのだ、むしろこっちが尽くしてほしいくらいである。だなんて、以前なら悪態をつく余裕すらなかった。死人のように思考停止で職務遂行していただろう。有り難いことに、「殺したい」という憎悪が
「うわぁ。凄い荒れっぷりですね。私も手伝います」
隣にしゃがみ込んできたのは、バイト仲間の塔村咲だ。ちょうど出勤したばかりらしい。学校の制服を着たまま商品を並べ替えている。
彼女は高校二年生なのだが、同年代と比べて豊かな肉付きをしている。かといって、決して太っている訳ではなく、実に健康的な体格だ。丸っこい童顔も相まりとても愛らしい。浮かべる笑顔は格別だ。口元より覗く八重歯がキラリと光る。
世の学生が皆、彼女のような子なら良かったのに。先ほどの害虫達とは大違いだ。荒んだ心が徐々に潤いを取り戻していく。
「そういえば、古海さん。この前より雰囲気が明るくなりましたね」
「うぇっ!?」
不意の問いかけに素っ頓狂な声が漏れてしまう。
返事をするだけなら容易なはず。それなのに、金魚みたいに口をパクパクするばかり。言葉をさっぱり紡げない。
彼女の笑顔を前にするといつもこうだ。心臓がバクバク暴れ出し、耳の先までかっかと熱くなってしまう。普段通りではいられない。
「あ、ごめんなさい。急に変なこと聞いちゃって、失礼ですよね」
「そ、そそ、そんなこと。ちょっと、び、びっくりしただけで」
返答が遅れたせいで、彼女に気を遣わせてしまった。
もはや何度目の失敗だろうか。同じ
「えっと、その。明るくなったように見えるのは、多分だけど、新しい趣味を始めたから、かな」
「へぇ、いいですね。良かったら、どんな趣味なのか教えてくれませんか?」
「た、大した趣味じゃないよ。推したくなる動画投稿者に、出会えたってだけだから」
とあるVTuberに心を奪われてしまったから、だなんて正直に言えるはずがない。
虚構の存在に一目惚れしたと伝えたら、十中八九軽蔑されそうだ。美少女キャラに入れ込む男なんて気持ち悪いと拒否されること必至。そのため、
だが、その相手が無戯星ルゥラと伝えたらどうだろう。
都市伝説として語られるVTuber。どんなに検索しても辿り着けず、偶然の遭遇でのみ彼女の動画を視聴可能。動画はいつも文字化けしており、ストイックにお悩み相談のみを配信する。
まさにミステリアス。謎に好奇心をくすぐられるのが人間だ。
もし、無戯星ルゥラとの繋がりを話せば、塔村はどんな反応を示してくれるだろう。もっと知りたい、教えてほしいと話題に食いつくかもしれない。それをきっかけに、俺自身にも興味を持ってくれて、ゆくゆくは――――いやいや、何を考えているんだ。ふざけるのも大概にしろ。現役高校生に好意を向けてほしいなんて、一歩間違えれば犯罪だ。存在価値がマイナスに振り切ってしまう。
「でもよかったです。古海さん、ここのところずっと暗い顔をしていましたから」
「そ、そうだったかな」
「そうですよ。久谷さんと同じシフトの時なんてもう真っ青。ううん、群青です。次の日になってもゾンビみたいで、足取りもフラフラだったんですよ?」
見ていられないほど酷い有様だったらしい。
彼女に心配されて嬉しい反面、申し訳なさが胸中で渦巻いてしまう。
久谷主水とは反りが合わない。仕事中はまさに針の
同じバイトという立場でも、塔村とは雲泥の差だ。月とスッポン、天国と地獄。比べるのも
「ほら、久谷さんって、結構グイグイ来るところあるじゃないですか。だから、古海さんとはちょっと、相性が悪いのかなって」
「やっぱり、そう見えるよね」
「あ、そうそう。グイグイといえばなんですけど。実は久谷さんから、この夏は一緒に海へ行こう、って何度も誘われているんですよ」
「え、行くつもりなの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます