第7話 黄瀬蓮凪・1-2
※
橙色の西日差し込む教室は、打って変わりひっそり静まり返っている。
大半の生徒が絶賛部活動に参加中だ。校庭では野球部が汗を垂らしながら白球を追いかけている。音楽室からは吹奏楽部が気の抜けたような音色を響かせている。その他、サッカー部やバスケットボール部、テニス部や卓球部など以下省略。みんなそれぞれ青春を謳歌している。
一方の私はというと、いずれにも参加しない帰宅部だ。貧相な体では運動部のハードな練習に耐えられない。かといって、文化部に入ろうとしても選択肢はたったの二つだけ。先述の吹奏楽部と美術部のみだ。しかも、そのどちらも用具の購入が必須。残念ながら、我が家にそんな資金はない。なので、放課後は教室か図書室で読書に
一人孤独で静かな時間。
しかし、今日はちょっと事情が違う。
何故か朝音ちゃんも居残っているのだ。緩い癖のついた黒髪を揺らめかせ、じっと黙りこくっている。
視線を感じて振り返るも、すぐに顔を伏せられてしまう。読書に戻るとまた見つめてくる。その繰り返しだ。ずっと
座りが悪い。
沈黙に耐え切れない。
そっと本を閉じると、私は席に着いたまま口火を切る。
「とも……じゃなくて、鷹居さん。確か、美術部だったよね。部活は行かなくていいの?」
「それはその、大丈夫、です。あたしの居場所、元々ないんで」
「……そっか、うん」
会話終了。
それからすぐ、沈黙の時間が再び訪れる。
気まずい空気がじわりじわり、
生来、私は陰気な性格で、おしゃべりは苦手な部類に入る。ましてや、初対面と大差ない相手なんて、何を話せばいいのか困ってしまう。天気の話題くらいしかない。話題の引き出しは空っぽだった。
金属バットの
それから、たっぷり十五分ほど経過した頃合いだった。
朝音ちゃんがそっと席を立つ。さすがにもう帰るのか、と思ったがその予想は外れらしい。真っ直ぐ私の席に歩み寄ってくる。
「あの、その。ありがとう、
眼前の朝音ちゃんは、ぺこりと控えめにお辞儀をする。
「え、急にどうしたの」
「だって、あたしの味方になってくれたから」
「ああ、休み時間のこと」
まさか、ずっと感謝を述べる機会を伺っていたのか。まぁ、言いづらい気持ちは分かるけど。見知らぬ人に声をかけるのって勇気がいるよね。心の中で何度も頷いてしまう。
「どうして助けてくれたんですか?」
「それは、まぁ。同じだったから、かな」
かつて私も、彼女と似たような立場にいた。
だから助けたくなった。理由としてはそんなところだ。
でも実際は、悩みに悩んでようやく動き出しただけの臆病者。褒められ感謝されても、後ろめたくて
それに、自分の過去、そして現在の裏の顔を知られたくなかった。なので、語尾を
実に
案の定、秘密はすぐに露見してしまう。
翌日。
女子グループの悪意は、朝音ちゃんだけでなく私にも向けられていた。いじめに割り込んだのが彼女達の逆鱗に触れたらしい。理不尽だけれど想定通りの展開だ。全ては歯向かった自分が悪い。
しかし、想定外だったのは、その攻撃方法だった。
「黄瀬
給食後の昼休み。
有無を言わさぬ呼び出しに従い階段の踊り場へ。ついでとばかりに朝音ちゃんも連行されていた。
人目がなくなった途端に牙を
リーダー格の女子が胸倉を掴んできた。新品のセーラー服に深く
「昨日は随分と調子こいてくれたじゃん」
「私は、別にそんなつもりじゃ。ただ、朝音ちゃんとお話がしたかっただけです」
「うちらが楽しくやってるところに割り込んできたじゃん。その辺について謝罪はない訳?」
「楽しくって。勝手に絵を破いて、お金を
「人聞き悪いこと言わないでほしいんだけど。何それ、自分が一番正しいと思っているかんじなの。ねぇ?」
正義の味方を気取るつもりはないけど、善悪で語るのなら、いじめは絶対悪のはずだ。どんなに私を責めてもその事実は揺るがないだろう。
とはいえ、これ以上正論を語ったところで、待っているのは鉄拳制裁だ。
さて、どうやってやり過ごそう。
このまま昼休み終了まで持ちこたえるのは難しい。多勢に無勢、力では敵わないだろう。かといって、言葉の応酬だけで済むとも思えない。矛先が朝音ちゃんに移る可能性だって大いにある。
八方塞がりだ。嵐が過ぎるのを待つしかないのか。
なんて考えあぐねていると、リーダー格の女子が
「どうせ、気持ち悪い宗教の教えでやってるだけでしょ。神様の言うことが全てですぅ~……ってかんじぃ?」
ずきり、と。
胸の内に
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