第3話 古海栄徳・1-2
店内には俺と久谷の二人だけ。吐き気がするほど居心地が悪い。
湧き上がる劣等感に
――――この程度の英語ができないとか、社会人として失格じゃないっスか。
久谷は腕を組み
弁解の余地なし。言葉の
――――マジ無能すぎてイラつくし。生きてる価値ないでしょ?
そして、とどめの一撃。
俺は久谷に劣る。
生きる価値がない。
悔しいがその通りなのかもしれない。
何も
「もう終わりにしたいな、こんな人生」
いつも以上に重くなった扉を開け、安住の地に帰還する。築何十年のおんぼろアパートだ。俺の部屋は二階の端に位置する。どんよりとした空気で満ちており、
シャワーを浴びて汗を流さないと。小腹を満たす夜食を作らないと。やるべきことは数あれど、起き上がる気力は残っていない。ただ、普段の癖だろうか。漫然とスマホを取り出していた。
漆黒の画面が鏡面となり、冴えない俺の顔を映している。
「アニメでも見るか」
動画サイトを開き、絶賛放送中の作品一覧に目を通す。だが、サムネイル画像を見ても、指先は空を切るばかりで再生しない。三十分弱の時間でも、視聴するのが
おかしな話だ。
幼少期より漫画やアニメが一番の癒しだった。悪を倒す痛快なヒーロー、遥か宇宙を駆け巡る巨大ロボット。ありもしない空想の世界に思いを
「……そうだな」
ふと思い立ち、試しに“自殺”と打ち込み検索してみる。
ほんの出来心だ。今すぐ死にたいとか、苦しまずに
すると、『一人で悩まないで』という簡素な文字と、相談先の電話番号が表示される。恐らく“自殺”そのものや死を連想させる単語に反応し、自動的に表示される仕組みなのだろう。テレビ番組でもよく見る光景だ。ウェルテル効果――報道による連鎖的な自殺を恐れ、とってつけたように相談窓口を伝えている。「ちゃんと対策していますよ」と言いたげだ。事務的な対応に腫れ物扱いされているようにも感じてしまう。
第一、大の男が泣き言を打ち明けて何になる。電話口の相談員も困惑だ。情けないと邪険にされかねない。それこそ生き恥を晒すだけだ。玉の輿のような逆転手段がない以上、弱音を吐いても無意味で無価値。最底辺の人生に変わりはない。
「他に良さげな動画は……ないか」
スマホの画面にずらりと並ぶサムネイルの大行列。俺の視聴傾向を分析し選出された動画達だ。しかし、そのいずれも再生する気になれない。好きだったはずのコンテンツが無味無臭。感性という名の感覚器官がお
そんな中、一つの動画が目に留まった。
白黒カラーの少女が真っ黒な背景に
とはいえ、動画サイトではタイトル詐欺が往々にしてある。視聴者の興味を少しでも引こうと必死なのだ。思わせぶりな表紙には何度も釣られた。おかげで何事にも疑う癖がついた。普段なら
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