第4話 古海栄徳・1-3
ページが読み込まれると、文字化けしていたタイトルが正しく表示される。
『【自己紹介】迷える星々の導き手だよ【無戯星ルゥラ】』
果たしてそれは、予想通りVTuberの動画だった。
見たところ、新人が自身を知ってもらうために撮影した物らしい。投稿されたのはつい最近だ。既にレッドオーシャンの業界に飛び込むとは。無謀というか夢見がちというか。もっとも、挑戦せずに腐る俺とは比較にならないほどマシではあるのだが。
やがて、動画が再生される。
時間はたったの三十秒。
簡潔にキャラクター設定と動画の方針について紹介している。
それだけだ。
それだけなのに、俺は
「……好きだ」
画面の向こう側にいる二次元少女。
その
身に纏う衣装は全体的にサイバー風。肩だしトップスは黒地に
自己紹介通り、電脳世界の深淵より生まれたような出で立ちだ。時折手足にブロックノイズが走る仕様なのも、そのキャラクター性を補強している。それに、拝金主義の臭いがしない。ゲーム実況や歌配信など、数字が取れそうなコンテンツを切り捨てお悩み相談一本ときた。再生回数を稼ごう、広告収入や熱烈なファンの
こんなVTuber、見たことがない。
一目惚れだ。ガワだけではない。彼女のキャラクターそのものに胸を撃ち抜かれてしまった。気付けばチャンネル登録ボタンをタップしていた。
これまで幾度となく推しに裏切られてきた。
学生時代に好きだったアイドルは裏で彼氏を作り、
気持ちを傾けるほど、裏切られた衝撃は筆舌に尽くしがたい。
だが、無戯星ルゥラは違う。
彼女なら、きっと俺の絶望を受け止めてくれる。
根拠はない。だが、そう確信できた。
陳腐な表現になるが、運命の相手に出会えたかのような衝撃だった。
俺を愛してくれるのは彼女だけ。
だから俺も、彼女を全力で応援するのだ。
「過去の動画は……一切なしか」
チャンネルページにてこれまでの軌跡を漁ろうとしたが、ショート動画はおろか生配信のアーカイブすら残っていない。
まさか、生配信限定なのか。
脇目も振らずに配信中の動画へとジャンプする。
画面は黒々とした背景と、無戯星ルゥラのバストアップCGを映し出す。ライブの同時接続数は十三人ほど。人気の配信者と比べたら過疎地だろうが、かつて推していたVTuberよりは遥かに多い。大半の視聴者がチャットに参加しているようで、様々なハンドルネームが下から上へ、ゆるりと緩慢に流れていく。数人が相談事を直接コメントしている。事前にメッセージサービスを通じて募る方針ではないようだ。ルゥラは逐一お悩みを拾い上げて真摯に答えていた。
〇Re:ロイⅡ世
僕は学校でいじめられています。毎朝行きたくなくて布団から出られません。それなのに、親は「学校に行け」と言うばかりです。友達もいじめに巻き込まれないように離れていきました。僕は独りぼっちで生きるしかないんでしょうか。
『Re:ロイⅡ世さん。君の抱える気持ち、よく分かるよ。誰も助けてくれない、それどころか理解すらしてくれない。辛いよね、寂しいよね。でも安心して。何があってもボクが味方になる。君が救われる未来に導いてあげるから』
〇テケりん
かれこれ十年以上引きこもり続けています。もちろん無職です。親族からは
『テケりんさん。そうだよね、周りからずっと責められていると、自分のことを否定したくなるよね。でも、君は悪くない。むしろ、存在価値がないのは、人を責めても心が痛まない方だよ。だから気にしなくていい。君のペースでゆっくりと、できることから始めていけばいいんだから』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます