第2話 古海栄徳・1-1
路地を漂う空気は季節外れに
ぽつぽつ等間隔に並ぶ街灯が弱々しく点滅する。両脇から迫る家屋の影が、疲労
それがどうした。
俺の場合、そんな次元をとうの昔に超えてしまった。生きる意欲が湧かず、人生の全てに身が入らない。致命的な末期症状を迎えている。
「なんで生きているんだろうな」
ふと、考えてしまう。
生活のため、身も心も
その一、夢を叶えるため。
ありがちな話だろう。幼き日に思い描いた将来に向けて努力する。美談としては普遍的な部類に入るだろう。だが、俺の場合は皆無。生まれてこの方、夢や理想を抱かぬ無味乾燥な日々。目標が存在しない空虚な人生だ。人として大事な部分が欠落している。目指す道標もなく
その二、誰かの役に立つため。
具体的な目標がなくとも、誰かのために生きるのなら評価されるだろう。しかし、尽くす相手がいない。恋人はおろか友達とも無縁の人生。両親すら既に他界している。父は病死、母は自殺だ。親孝行すらできない
その三、後先考えず
結局のところ、生きる意味が見い出せないのだ。
いっそのこと、母のように自殺するのも一つの手だろう。
ロープの輪で首を
だが、それでいいのだろうか。
自ら命を絶ったところで、底辺を這いつくばる男が一人消えただけ。きっとろくな報道もされず忘れ去られてしまう。いや、それならまだマシだ。「自殺するのは心が弱い証拠」とか「負け組なのは自己責任だ」とか。死後も変わらず
もしかすると、死ねば異世界に転生できるかもしれない。誰もが
死にたくてたまらない。
己の証明を何一つ残さず消えてしまいたい。
これ以上生き恥を晒すくらいなら、自ら幕引きを図るのも悪くないだろう。
「駄目だ、思考が悪い方に入っている」
かぶりを振って
仕事終わりはいつもこうだ。疲弊により生まれた心の隙間を狙い、死神が我が物顔で居座ろうとする。
こんな時は、職場のあの子を思い浮かべるに限る。
二人で仕事に打ち込むかけがえのない時間。その日常を
――――
頭の中で反響するのは、もう一人の同僚からの叱責だ。
別に「年上だから敬え」と言うつもりはない。俺自身、尊敬されるほどの人間でないのだから当然だ。しかし、限度というものがある。どんな誹謗中傷も甘んじて受け入れられる器じゃない。
思い返されるのは、つい先ほどの職場での出来事だ。
レジ打ちをしていると西洋系の外国人がやってきた。何か質問をしているようだったが、機関銃の如き英語は全く聞き取れない。学生時代、リスニングをまともに学ばなかったせいもあるだろう。しかしそれ以上に、コミュニケーション能力ゼロなのが問題だ。手をこまねくばかりで、にっちもさっちもいかなくなった。
そんなピンチに割り込んできたのが久谷だった。「助かった」という安堵と感謝、「お前に何ができる」という
チャラチャラした大学生と思いきや、語学
外国人の客は対応に満足したらしく、にこやかに去っていった。
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