第4話:砂漠の漁師体験! 巨影現る。



「速ぇーー! 砂魔石採りの皆が持ってる砂船も漁船と同じなんだなぁ」



 砂漠の漁師さん達と砂魔石採りの若者達とみんなで漁をするということで、とりあえず俺と漁の経験のない若者の何名かが漁師さんの砂船に乗り込んだ。


船は実際に乗ってみるとかなり迫力がある。スピードもそうだが、砂船には砂を弾く魔術の力が組み込まれているようで、時々やってくる砂の大波を弾いて正面突破する事がある。これがかなりスリルのあるもので、それと同時に爽快感もある。


 漁師経験のある若者は漁船から借りた網を使って漁をしている。さっきも言ったが、砂船の基本構造はどれも同じようだ。多分これ自体がかなりエドナイル砂漠に最適化されているんだろう。余計な機能をつければ船体が重くなり、スピードや機動力が落ちたりするのだと思われる。


だとすると、漁師達が近代の魔導兵器をバカにしていたのも納得できる。小型の銃はともかくとして、大砲なんかはとてもじゃないが砂船に組み込むことはできない。銃弾も砂を取り込んだ風とは相性が悪いから、狙い通りの威力を得るのは難しいだろう。


 漁師たちは銛を使っているが、これも船と同じく魔導器だ。使用後に手繰り寄せる魔術を付与したロープがついていて、引き寄せると本当にすぐ返ってくる。漁師の中でもベテランのおっさんは凄かった! 銛の一投で数匹の獲物、サメのようなトカゲやカニのようなサソリを仕留めた。



「うおおお!? と、とれたー! 結構引っ張る力強いんだな。おっさん達、こんなもんを軽々とこなしてるのか……」



 漁を始めて数時間して、俺はやっと初めての獲物をゲットした。俺が網で獲ったのは魚……なのか? 白い鱗に覆われた根魚系の見た目の魚。例えるなら白いフライパンに胸ビレと尾ビレが付いたような感じの存在。



「おおおお!? 兄ちゃん凄いな!! 鏡魚を釣るなんて!! そいつは珍しい魚だぜ。ワシはここ数日、そいつが釣れた所をみたことがねぇ」


「え? そんな珍しいものなのか? へへ、ラッキー! けど凄いって言われても、俺よりもっと凄いのがいるから。ははは」


「おっしゃーー!! とりゃとりゃとりゃー!!」



 気合の入った声で銛を砂漠に投げるディア。投げてすぐに銛は一瞬にして返ってくる。バカでかい獲物を最低4匹を回収しながらだ。一投に一秒もかかってない上に、獲物の回収も三秒ぐらいでディアは行っているため、大体四秒に一回銛を砂漠に投げ入れている。



「ははは、こりゃあ笑うしかねぇな。明らかに人間業じゃあねぇ。おーい嬢ちゃん、そこら辺で嬢ちゃんは休憩な。このままだと乱獲になっちまう」


「あっ! そっか、ごめんなさい。ちょっと夢中になりすぎちゃいました」


「凄いなディアさんは。おれなんて全然獲れなかったのに。まぁでもジャンダルームさんよりは獲れたしいいか」


「おいおい、セピアくん! 俺は珍しい鏡魚を獲ったんだぜ? こいつは珍しいから一匹で100ポイント。セピアくんがあと80匹は獲物を獲らないと俺の勝ちってことで」



 セピア、砂魔石採りの若者のリーダー的な存在の青年。一緒に漁をする内、すっかり打ち解けて名前で呼び合うようになった。



「はあああ!? おれは20匹獲ってる。初心者にしてはかなり頑張ってるだろ! どう見てもジャンダルームさんより上手いだろ!」


「そうだな、お前は筋がいいぜ坊主。初めての漁でこんだけ獲れるのは天才的だ。お前が今まで漁をしてなかったってのが、すげー勿体なく感じるぐらいによ」


「えっ、そうか? そんなにおれって漁の才能ある?」


「おうよ、お前の他の漁経験のない仲間を見てみな。みんな片手で数えられる程度しか獲れてない。けど、いい顔してるぜ。やっぱそうだよなぁ……ワシらの先祖は何千年もこんな漁をやってきたんだ。ワシらは漁が好きな奴らの子孫なんだってことが、活き活きとした、楽しそうに漁をするお前らの顔を見ると実感できる」


「おっさん、年は違うけど。砂魔石採りの若者もおっさんと同じ、エドナイル人だってこと分かったろ? そんな同じエドナイル人が過剰な砂魔石採りを、国の方針に従って行っている。エドナイルは伝統以外の部分で変わりつつあるってことだ」


「なんだジャン、ワシに時代の変化を受け入れろって言いてぇのか?」


「いや、そうじゃないさ。想像して欲しいんだ。若い頃の自分が、漁師でなく他のことをしている。体には漁を愛する血が流れているけれど、他のことをやっている。それはどうしてだろうって。物事には必ず理由がある、偶然にしか見えないことでも、そこに至るまでの流れ、歴史がある。だからもし、砂魔石採りに問題があるとすれば、本当の問題は……砂魔石を採ること自体ではなく、その流れを作る他の何かなんじゃないか?」


「何かってなんだよ……」


「わからないね。情報が少なすぎるし、だけど──知らないから、知るために動くんだ。知らないから見に行くし、聞きに行く。晩飯は俺がみんなに奢るって言っただろ? そこでいっぱい話して、俺達の知らない何かを探ろうぜ!」


「……はぁ、そうだな。お前には勝てねぇよジャン。初めての漁で鏡魚を獲ったラッキーボーイのお願いを聞かなきゃ、きっと漁の神様はワシに怒るだろう。あんだけ、あんだけ、あいつらに怒りの感情しかなかったのに……一緒に漁をしてみりゃ全然みんな、気のいい奴らだった。ワシは知らねぇことを知ったんだな。良いこと──なっ!? 嘘だろ……お前らあああ!! 逃げるぞーーー!! 砂海返しが来たァ!!」


「砂海返し? なんだ、それ──は? なんだ、あの馬鹿でかいサソリ……!?」



 漁師のおっさんが叫んだ。その視線の先には、50mはある巨大なサソリがいた。しかも一匹じゃない、五匹はいる。まだ俺達のところまでは距離があるけれど……こっちに向かってきてる。距離が、詰められている……砂船よりも速いってことだ……



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