2話 拾ったもの。

「っ!?」


 僕は咄嗟に物音がした方を振り向く。

 すると、そこには割れた透明な筒と漏れ出た緑色の液体が散乱していた。


 緑色の液体はいつの間にか光を失っており、代わり内側から白い光源が露出していた。どうやら、液体はこれで明るくなっていたようだ。


 そして僕はさらに気になる物を発見する。


 白い光が漏れ出た鉄の物の中心、そこには一本のファルシオンが落ちていた。


 緑色の液体で濡れたファルシオンは、持ち手や刀身が黒く鈍く光っており、特に刀身には血管を彷彿とさせるような特徴的な凸凹がある。

 またつばの部分は何やおわん程のサイズの小さな丸い半球が付いているようで、デザインにしては少し振り回しづらそうだ。


「誰も、いない。取って大丈夫な奴だよね?何か、魔女の呪いにかかったりしないよね」


 僕は周りをしつこいほど見渡し、そのファルシオンを手にする。


「おっも……誰が作ったんだ」


 ファルシオンは庶民も手が出せる武器だが、そんな安い武器がなぜ丁寧に保管されていたかは分からない。

 しかし、こんな建物を作るお金持ちが大切に保管するような物なら、まず間違いなく何かがあるんだろうな。


 その何かはさておいて、僕はこの建物を出ることにした。


 道中命を狙われるのではないかと、手に入れたファルシオンをずっと構えていたが、結局は徒労に終わった。

 腕が余計に疲れただけである。


 僕は帰って早々にファルシオンやら何やらが入った籠を置き、今日食べる物の調理の準備に入った。

 こういった大変だった日は、日頃の家事もしたくないものだ。


 「ぶはぁ……もううごぎだぐなぃ……」


 しばらくして調理を終えた後、僕は木材の床に寝っ転がってそう言う。

 ここまで濃い体験をしたのは久々で、大分疲れてしまった。


「んみゅ……」


 すると突然、強烈な眠気が僕に襲ってきた。


「や……まだも少し……」


 まだ家事があるので寝てられない。

 そう思い必死に身体を起こそうとするも、中々起きない。


「zzz――」


 おまけに眠気は強くなる始末で、気付けば僕は流されるように眠っていた。




…………


………


……





「ん……」


 僕は手で目を擦りながらゆっくりと起き上がって長座の姿勢になる。

 遠目でガラスのない格子窓から外を覗くと、外はすっかり夕暮れ時になっていた。


 流石にこの時間帯で家事は出来ないので、なくなく僕は今日分の家事をサボる事にした。


「コトンッ……」


 何はともあれ夕暮れ時でお腹が空いたので、先ほど茹でていた山菜を木の皿に盛り、木製のテーブルに置く。

 ついでに取ってきたファルシオンも気になるので、テーブルに持ってくる。


「はむっ」


 特に挨拶もせず、僕は黙々と山菜を食べ始める。

 その間、目でファルシオンを観察し続ける。


 ファルシオンらしくしっかりとした重量があるが、持つには少し厳しい重さで、まるで鉄のインゴットを持っているようだ。

 成長したら、武器として自由に振り回せる日が来るのだろうか。


「戦闘とか戦争とか御免ごめんだし、使う日は来なさそう。棚の肥やしかな」


 僕はそう言いながら、山菜を食べ終え、皿を持って立ち上がる。

 そして皿を洗うため外に出た後、家の裏に回り込み、バケツに汲んでいた水で皿を洗う。


 しばらくして皿を洗い終わった後、皿についた水気を切って、両手で持ち、家の中へと入る。

 すると、先程までテーブルに置かれていただけのファルシオンの様子が変わっていた。


「っ……?!」


 僕は皿を急いで棚に戻し、ファルシオンの様子を見に行く。

 ファルシオンは鍔から赤黒い血管のような触手を生やしてテーブルに取り付き、脈を打っている。


「グシャァ……」


 唖然としたままファルシオンを眺めていると、突如としてテーブルが崩れ落ちる。

 テーブルはまるで木が腐ったように崩れ落ち、床に破片が散乱する。

 ファルシオンも重力に従って落下するが、落下した後も、鍔からは触手が出ていた。


 僕は何が起きているのかと、ファルシオンを持ち上げようとした時――


「クチャァ」


 突如として鍔にあった黒い半球がゆっくりと開き、赤く濁った色の瞳孔をした眼球が露わになる。それに驚いて、僕は急いで手を引っ込めた。

 やがて半球が開ききった後、その眼球はまっすぐこちらを凝視する。

 そしてお互いに凝視し合うこと約3分。


「ドロッ」


 突如、ファルシオンは原型を失うように溶け、ファルシオンの形を取るように張り巡らされた、赤黒い触手が出てくる。

 ファルシオンのような物を覆っていた硬そうな黒い鉄は、滑らかな液体となって床に広がる。

 そしてそれは地に足をつけるように二本の触手で立ち、目で僕を見つめる。


 あれは触れてはならない物だったのだと、僕は今となって理解する。


 「あっ……やっ」


 本能に従って一歩ずつ下がっていくが、それに合わせて触手の塊はにじり寄ってくる。


「ミ゙ィ゙ィ゙ッ゙ッ……」


「あっ……」


 触手の塊は金切り声のような音を鳴らした時、僕の腰が抜けてしまう。

 異常な姿をしたその触手の塊の前に、僕は力無く座りながら、ただ見つめることしか出来ず――


「プスッ」


 無抵抗のまま、何かを首に刺され意識を飛ばされてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る