第8話 サファイアのもの(!?)
「殿下、申し訳ありません!」
スタッグはサファイアの前で膝をついた。先日の二人きりの時とは違う、忠誠を誓った臣下の礼の形である。それを見た団員たちも一斉に膝をつき頭を垂れる。
「隣国との情勢がまだ落ち着いていない中、騎士団としてこのような腑抜けた態度を見せるなどもっての他です。全ての責任は団長である私にあります。いかような罰もお受け致します」
「ふぅん……いかような罰も、と。二言は無いね?」
そう言うサファイアの目は妖しい色に煌めいたのだが顔を伏せているスタッグには見えていない。ただ、その口調があまりにも王子らしさに嵌まっていて、サファイアが先週までは女性だったとは信じられない程である事にスタッグは(殿下の順応性の高さは恐ろしいな)と思いはしたが。
「……でも、騎士団長にだけ罰を与えても彼らには響かないと思うのだけれど。またこういう騒ぎを起こすんじゃない?」
「いえっ、彼らには私から指導します! 何卒っ」
「ダメだよ。ここは
そう言いながらサファイアはスタッグに触れるほど近くに立った。そしてスタッグの日に焼けた顎に、細い白魚のような指が添えられる。
「!?」
「皆の者、面をあげよ」
騎士団長の顎をくいと持ち上げると同時にサファイアは団員達に命令した。頭をあげた彼らの目に映るのは、元王女……今は王子にアゴクイされたまま跪いているデカ女の図である。
「騎士団長、罰として僕の脚にキスを」
「へっ……!?」
スタッグは言われている意味が一瞬わからず呆然とする。サファイアはにっこりと悪意の欠片も無いような笑顔で言った。
「できないの? さっき二言は無いかと聞いた筈だけど」
「い、いいえ! 仰せのままに!」
スタッグは不思議に思う。以前のサファイアはこんな辱しめを他人に強要するような人間ではなかった筈だ。が、いかような罰も受けると言った以上、ここは拒否や問いただすことはできない。
「団長!」
団員の叫びにも近い声を後ろに聞きながら、スタッグは深く頭を下げてサファイアのブーツにキスをしようとした。ところが、先程よりも更に強い力で顎をぐいと上げられる。
「何をしてる? 僕は
「え……」
その言葉の意味を理解するのに数秒を要し、そして目の前に差し出されるようにあるサファイアの脚……半ズボンから覗く白い太腿を見てスタッグは真っ赤になった。
(え、ええっ、ここにキスをしろと!?)
「早く!」
「ははは、はいっ! 失礼します!」
思わず両手をサファイアの脚に添えたが、その時触れた肌はしっとりと指に吸い付くような滑らかさ。なんだかいい匂いもする。スタッグはくらくらと頭の芯を抜かれたようになった。
(これは罰! 罰だから……!)
スタッグは自分に言い聞かせ、震えるくちびるでサファイアの脚に触れた。
ちゅっ、と間近でしか聞こえない程の小さな音がそのくちびるから発せられる。
「ん、良くできました」
サファイアの脚から離れても、なお耳まで真っ赤にして小さく震える女騎士団長の頭に、少年王子はポンポンと手をやる。そして団員たちには目をやった。
彼らは見てはいけないものを見てしまったような気まずさに顔を赤らめているが、サファイアは目を逸らすことを許さない。
「
(えっ)
「は、はいっ!」
「失礼致しました!」
(えっ)
「では各自持ち場に戻るように。騎士団長は僕についてきて」
サファイアはすたすたと歩きだす。スタッグは目を丸くして、ただその小さな背中を追った。
少年王子が私室に戻ると、控えていた侍女が「殿下、滞りなく」と小さい声で報告する。
「うん、では僕と騎士団長にも茶を」
こうして二人は向かい合わせに茶を飲み、もくもくと菓子を食べた。だがいつまでも話を切り出さないサファイアにスタッグは焦れていく。遂に我慢できず口を開いた。
「殿下、お伺いしてもよろしいでしょうか」
「なに?」
「その、いくら団員たちの暴走を止めるためとはいえ、先程のあれは……」
「本当の事を言った方が良いじゃない。騎士団長は僕のものだってわからせただけだよ?」
「なっ!……どうして」
そういう話になるのかと言いかけたスタッグに対し、サファイアはやはり無垢に見える笑顔を見せる。にっこりと。
「だって他の男と結婚するつもり? もしもレイ様がベッドの中で突然男に戻ったらどうするの?」
「!?」
なんとなく、男の時から自分は生涯独身かもしれないと思っていたスタッグは、自分がどこかに嫁入りし、そして魔法が解けた時のグロテスクな図を想像してティーカップを取り落としそうになった。
「その点僕なら安心でしょ。魔法が解けるのは同じタイミングなんだから、元に戻っても男と女のままだもの」
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