Ep.26 -「えへへ…捕まえた」-

「響谷くん、なんでさっきから目を閉じてるの?」

「…いや…なんでって言われてもな…」

「お風呂場で寝たらだめだよ。響谷くん」

「それは分かってるけど…」

「私の裸なら、響谷くんは何回か見たことある、でしょ?」

「そういう問題じゃないんだよなぁ…」

「じゃあ、どういう問題なの?」

「せめてタオルを巻いて欲しかったなぁって」

「それは嫌」

「………」

「…響谷くん、目、開けて」

「嫌だ」

「どうして?」

「…それは…なんていうか…」

「…やっぱり…私とお風呂に入るのは嫌、だった?」

「それは嫌じゃない」

「じゃあどうして?」

「人は時に言語化できない思考をすることがあってさ…」

「…むぅ」


 目を閉じていても結華が拗ねてるんだろうなという事が分かる。

 けど、結華みたいな控えめに言っても美人な異性の体を見て理性を保てるほど俺は精神を強く持っていない。

 まあ、結華としたこともあるけど、やはり節度ってものがある…。


「…響谷くんが目を開けるまで、お風呂から出さない」

「えっ」


 唐突に結華から地獄のような耐久レースのスタートを告げられる。

 どっちにしろ無理だこれ。そう判断した俺は恐らく結華が視界に映らない方向に顔を向け、目を開いた。


「開けるの、早かったね」


 結華の顔が視界の横から覗く。結華の白磁の肌が、淡いピンク色に染まっていた。


「どっちにしろ無理だと思ったからな…」

「でも、目を逸らすのもダメ」


 結華が俺の両頬に手を当て、自身の方へと向ける。

 反射的に目を閉じようとしたが、そうしたらまた耐久レースが始まってしまうので、俺は大人しく受け入れることにした。


「…響谷くん」

「なに…?」

「どう?」

「どう、って…綺麗だと…思います、はい」

「……今日も明日も、親は帰ってこないから…ね」


 風呂は心の洗濯…なのだが、この状況は男子高校生にはあまりにも刺激が強すぎる。


 そして、結華の足が浴槽の水面に触れ、沈んでいく。


「あの…結華さん?」

「なに?」

「…何をしようとしているので…?」

「私も、寒いから」

「…俺もう着替えとこうか?」

「ダメ。ちゃんと浸かってて」


 結華の脚と俺の足が触れる。あまりにも妙すぎる感覚に思わず変な声が出そうになる。

 そして、結華が俺と向き合う形で浴槽に浸かった。

 …マジ…?


「…温かい、ね」

「……あぁ、うん…そうですね…」


 結華が俺の耳に顔を近付け、吐息交じりの艶かしい声で囁き始める。


「響谷くん」

「っぅ…!?」

「ふふっ…大好き」

「ちょっ…やめ…」

「かっこいいのも、好きだけど…今日はちょっと、かわいいね」

「っくぅ…」

「愛してるよ…響谷くん…♡」

「っ…」



 …案の定、というか、なんというか。


「…~♪」


 ソファに座った俺達。上機嫌の結華が、俺に肩を預けてくる。


「きもちかった、ね」

「…そうだな」


 まあ、なんか結華が上機嫌だし…いいか。


「響谷くん、一緒に寝よ」

「あぁ、分かった」

「…じゃ、ベッド行こ」

「おう」



 結華の部屋は全体的に白やピンクなど明るい色が多く、可愛らしい印象を与える。

 …なんか、改めて緊張するな…。


 結華は一足先にベッドに寝転がり、掛け布団を持ち上げる。


「響谷くん…来て」

「おう」


 結華に言われるがまま、隣に寝転がる。

 持ち上げていた掛け布団を俺にも掛けて、結華が抱き着いてくる。


「…狭くないのか?」

「狭かったら、響谷くんといっぱい密着できるから…いいの」


 結華が脚を絡めながらそう言う。


「えへへ…捕まえた」

「…捕まった」

「…んっ、おやすみ。響谷くん」

「あぁ、おやすみ。結華」


 俺とキスをした結華が、ニコっと微笑んでゆっくりと目を閉じる、その後すぐに寝息を立てて寝始めた。

 …あんまりこうして、まじまじと結華の顔を見る機会なんてないからな…。さっきのお風呂は例外な。

 …俺も寝るかぁ。



「あー…」


 暇、クッソ暇、とんでもなく暇なんだけど。こういう時に限ってなんも予定が無いのは何なんだ…マジで。水香飲みにでも誘うかぁ。

 スマホを手に取り、水香のスマホへと電話を掛ける。

 あいつ仕事終わってんのかな…。


『はぁーい、こちら水香さんよー』

「水香~、飲み行かね~?」

『別に構わないけど…というか、そう言うと思ってもう準備してるわよ?』

「…何で分かった?」

『勘よ、勘。知ってるでしょ?私の勘は良く当たるって』

「よく当たる…よく当たる、なぁ。正直もう怖ぇとしか言えねぇわマジで」

『ところで、葵から電話かけてきたって事は、響谷くんはどこかに行ってるんでしょ?』

「あぁ、恋人ん家に泊まり行ってる」

『へぇ、そうなのね。…だから暇と』

「そーゆーこった。暇潰しがてら飲もう」

『今日は葵の奢りよ?』

「わーってるって」

『いつものところで良いかしら』

「あぁ、私もすぐ向かうから待っててくれ」

『りょうか~い』


 水香との電話を切り、自室に行って鞄とモバイルバッテリーを取る。

 意外と、響谷がいないと寂しいもんだな。つーか静かすぎる。慣れねぇなマジで…。


「行ってきます」


 響谷の靴がない玄関から私の靴も消え、家は完璧な無人となる。

 しっかりと鍵を掛けて、水香といつもの飲み屋に向かった。


――――――――

作者's つぶやき:暇潰しに友人と飲みに行くってどうなんですかね…。ちなみに水香さんと葵さんが飲んでるお店は居酒屋というよりバー寄りです。

なんか知りませんが葵さんはカシスオレンジを飲んでるような気がしないでもないです。

というかお酒をあんまり知らないので何とも言えませんが。

水香さんはウイスキーを嗜んでそう、そんな気がしませんか?

――――――――

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クラスの姫(通称)は俺にだけ微笑む ますぱにーず/ユース @uminori00

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