Ep.18 -「嫌いなものは…母親?」-

前書き

今回からちょこっと、響谷くんor結華さんの過去編的な回想シーン的なものを出します。

――――――――

 生まれた時から、母親も父親も居なかった。俺を育ててくれたのは、俺の母親の親友…葵だった。

 5歳くらいまで、葵が俺の親だと思ってた。

 けど、違ったらしい。


「お前の親は私じゃない」

 葵は俺にそう言った。

 周りの人は皆、母親や父親がいるのが普通だった。普通じゃない、血縁の居ない俺は、周囲からなんとなく距離を置かれていた。

 嫌がらせをされている、とかじゃない。

 周りから意図的に避けられている、とかでもない。

 ただ、周りと話が合わせられなかった。それだけの事だ。

 例えば…そう、家族に向けた作文とか。…父親は知らん。母親は憧れでも何でもない。葵は…家族じゃなくて保護者だし。


『お前の父さんってなにしてんの?』とか、『お前の家の母さんって怖い?』とか。そんな質問には答えられなかった。

 …だから、だろう。多分周りからは、どう扱ったらいいのかがわからなかったんだと思う。


 何度か、葵に母親になってよと言ったこともある。

 だけど、その度に返ってくる言葉は決まっていて。

「私には母親なんて出来ない。荷が重すぎるからな」

 そんな言葉だけが返ってくる。


 俺が小4の時、葵から俺に宛てられた母親からの遺書を見せられた。


 あまりにも、無責任すぎる。

 謝罪や、後悔だとか。

 そんな事に関する言葉は一切書かれてなくて。


 ただ真ん中に、『響谷だけは幸せになって』って。


 感情も何一つ乗ってない。プリンターで機械的に印刷された字で。

 冷たさも、温かさもなかった。





 何が幸せだ。






 俺を置いて勝手に死んだくせに。









 夫を愛した?だから何だよ。








 じゃあ俺はどうなんだよ。







 その愛した夫との子供なんだろ、俺は。







 なら愛してくれよ。






 愛した夫の形見だから。






 そんな理由でも良いからさ。








 せめて生きててくれよ。









 …選択としては、間違ってなかった…のかも、しれない。

 それは今になって考え始めた事だ。

 辛いことからは逃げたくなる。ましてや愛する人の死ともなれば。


 こんな風に死んだのは間違ってる…そんな事は、、誰にもそんな事言われなかっただろう。

 そう、俺がいたから、間違ってたんだ。

 …でも、間違ったままで居させたかった。選択を誤らせたままにしたかった。

 何がどうして、無責任に死んだ母親の間違いを正さねばならないんだ。













 あぁ、まあでも。悲しかったさ。

 俺は母親も、父親の声だって、顔だって知らない。遺影だって見たことは無い。母さんの実家にも、帰ったことは無いから。


 まぁ、目の前で親が自殺した光景を見せられるよりかは…こうして死んだ方が、心の傷は浅くて済む。






 でも、そうしたら今度は葵が心配になる。


 もし今、葵が死んだら?


 正直俺は、生きていける気がしなかった。






 葵だって、親友を失って悲しいはずだ。辛いはずだ。






 でも葵は、逃げなかった。






 ちゃんと向き合った。






 俺の母親とは大違いだった。






「あんな奴の二の舞にはなりたかないからな」

 葵はそう言った。

「それに、私にはお前の面倒を見るって仕事があるし」

 付け足してそうも言った。





 無事志望校の受験に合格して、入学式を終えた。


 張り出された紙の中から自分の名前とクラスを確認して、自分のクラスに向かった。


 扉を開けると、教室には担任の教師と数人の生徒がいた。




 先生、生徒が自己紹介を始めて行く。…そして、俺の番のいくらか前。一人の女子生徒の自己紹介。


「白峰結華。…よろしく」

 そう簡単に終わらせた生徒がいた。第一印象で言うのなら…まぁ、綺麗だなとは思った。


 それから数人自己紹介をして、俺の番が来る。

「…えっと、月守響谷です。…好きなものは…特にないです。嫌いなものは…母親?まぁ、よろしくお願いします」

 嫌いなものは母親、そう言った瞬間に、クラス中で少しざわつきが起こる。

 自分で生んだ子供を育てずに自殺したんだ、…そんな母親、好きになれるわけないだろ。


「えーっと、俺は森谷和也。好きなものは…そうだなあ、ギャルゲ?あとはぁ…あっ、彼女募集中!よろしくな!」

 森谷のそんな自己紹介に、教室から笑いが起きる。…何が面白いのか全く分からんけど。




 そんなこんなで学級委員なりなんなりが決まり、ひとまずは自由時間。白峰さんの周りには沢山の生徒達が集まっていた。

「いやぁ、モテるねぇあの子」

 俺の席の机に腰かけて、俺にそう話しかけてきたのは…。

 …えっと、誰だっけ。

「…えっと…」

「ほら、俺だよ俺。森谷」

「…あぁ、おう…初めまして」

「あぁ、初めまして。っでさ、白峰さん?だっけ、めちゃくちゃ人気だよな」

「…あぁ、だな」


「いいなぁ~、俺もあんな子が彼女になってくれたらなぁ~」

「告白すれば?」

「いやいや、負け戦はしたくねぇよ」

「そう…」

 …ま、好きにすればいい。どうせ俺は蚊帳の外―――。


「…月守くん」

「………」

「月守くん?」

「…ぇぁっ、俺ですか?」

「うん」

 蚊帳の外だと思ってたけど、どうやら俺は蚊帳から出られないらしい。

「…えっと、白峰さん…ですよね」

「うん。…月守くん、何か話そう」

「何かって。何をですか?」

「何でも良い。聞かせてほしい。月守くんの事」

「…嫌ですよ」

「どうして?」

「…だって、面白くないですから」


――――――――

作者's つぶやき:…う~ん、今からは想像もできないような関わり方してますね…。

まぁ、このころから結華さんが響谷くんに対して好意を抱いている事はなんとなくわかりますでしょうか。

森谷さんとの絡みもなんかこう…素っ気ない感じしますよね。面影は感じますけど。

――――――――

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