Ep.17 -「…きゃ、えっち」-

 放課後、俺は結華、森谷、そして森谷の彼女の篠宮と共に家に帰っている最中だ。

「そういばさー、姫はどーして月守くんの事が好きなのー?」

 森谷と手を繋いだ篠宮が結華にそう聞いてくる。

「…好き、だから?」

「それ、理由になってないよー」

「私にも、分からない」

「へー、そうなんだ」

「…篠宮さんは。森谷さんのどこが好きなの」

 俺の腕に抱き着く力を強めた結華が、篠宮に向かってそう質問をする。

「どこが好きーっていうか、どっちかというと相性がいいだけなんだよねー。こう、森谷といるとしっくりくる、みたいな?ねー」

「あぁ、まぁ好きな所もない訳じゃないけど、一番は相性がいいからだな」

「そういうものなんだな」

「そういうものみたいなんだよねー」

「…なんか、響谷くんが他の女子と仲良くしてるのはやだ…」

 もっと構って、そう言わんばかりに結華が抱き着く力をさらに強める。いい加減痛いよ。


「…結華、痛いからちょっと緩めて…」

「あ、うん…ごめん」

「なんかさー、姫って意外と嫉妬とかするんだねー」

「そういう篠宮だって、結構嫉妬深いだろ?」

「えーそうかなー?」

 篠宮、無気力そうに見えるけど、結構森谷の事好きなのかな。

「俺が他の女子と楽しそうに話してるの見た日は、露骨にスキンシップ増やしてるの分かってんだからな」

「それは…楽しそうに話してる森谷が悪いでしょ…。一応、私は森谷の彼女なんだしさ…」

 頬を赤く染めて、篠宮が森谷に向かってそう言った。

「まぁでも、こうやってずっと一緒に居たいって思えるのは篠宮だけかなぁ~」

「…そう?…なら、いいんだけど…」



「っと…それじゃあ、俺の家はこっちだから。んじゃ、また月曜にな」

「おう、じゃあな」

 森谷と篠宮と、交差点で別れて、それぞれの家に帰る。


 玄関の鍵を開けて、家の中に入る。

「たっだいまぁ」

「お邪魔します」

 洗面台で手を洗って、荷物を部屋に置いて私服に着替える。それからリビングに戻ると、着替え中だったのか下着姿の結華と目が合う。

「…きゃ、えっち」

 全くの無表情のまま、俺にそう呟いて下着を腕で隠す。

「絶対思ってないだろ」

「うん」

「…っていうか早く着替えて」

「…やだ」

 いや、『やだ』じゃなくてさ。

「…襲わないの?」

「うん」

「私は、魅力ない?」

「そんなことは無い」

 っていうか魅力がありすぎるからこそ早く服を着てほしいんですが。

「お願いだから服着てくんね?」

「…分かった」

 なんか少し残念そうにしながらも、結華は私服に着替える。そして、着替え終わるや否や、俺は結華に抱き着かれる。俺に抱き着いて、体の色々な所を俺に押し当ててくる。

「…どう?柔らかい?」

「…うん…」

 あといい匂いもする。



 …響谷くんに抱き着いて、私の体を響谷くんに押し当てる。胸や、脚や…体中を。


 ただ響谷くんに触れてほしい。


 ただ響谷くんに触れたい。


 少しでも、響谷くんに私を感じてほしいから。


 ただそれだけの理由。


 響谷くんが傍にいる。

 その事実だけでも申し分ないほど幸せなのに。こうして抱き着いて、触れ合えている。幸せ過ぎないかなと思う。


 響谷くんが私の背中に手を回して、より抱き締めてくる。それに応じるように、私も抱き締める力を強めた。




 響谷くんと一緒にいると、幸せで、生きていてよかったと思える。

 生きているだけで儲け者だなんて思えないけれど。

 自分が生まれてきたことが幸せだなんて思えないけれど。

 響谷くんといるこの時間は、私は自信をもって幸せだと言える。


 鼓動が煩くて。


 響谷くんで頭がいっぱいになって。


 ただ幸せで。




 いっそこのまま、一線を越えてしまってもいい。


 響谷くんと『いっせーので』で、一線を越えるなら。


 響谷くんになら、何をされてもいい。


 こうして抱き合ったり。

 添い寝をしたり。

 膝枕をしたり。

 響谷くんに殺されるのも、悪くないかもしれない。だけど、死にたいかと問われたらNOだし、響谷くんが逮捕されてしまうのは嫌だ。



 夜、私は響谷くんのベッドで響谷くんと添い寝をしていた。響谷くんを背中から抱き締めて、抱き寄せる。

 響谷くんの寝息が聞こえる。


「…おやすみ、響谷くん」

 私は眠れるかな。

 こんなに好きな人と至近距離なのに。

 鼓動が高鳴る。

 顔が熱い。


「ゆい、か…」

「っ…!!!」

 響谷くんを起こさないように、悶えたくなる気持ちを心の中で抑える。

 寝言で私の名前を呼ばれた…。

 …嬉しい。



 それから、結局私は一睡もできなくて、気が付けば空は白み始めていた。

「…眠れなかったけど…幸せだったからいいかな」

「…ん…ぁ、結華…おはよ…」

 目が覚めた響谷くんが私に挨拶をする。

「うん、おはよう。響谷くん」

 それに返して、私は響谷くんに抱き着いていた手を離す。

「…ん~…、…さて、朝ご飯作らなきゃ」

「私も手伝うよ」

「ありがとな結華」

「ううん。全然大丈夫だよ」

 ベッドから起き上がって、キッチンに向かう。

「そういえば葵さんは?」

「さぁ、知らない。ま、ほっとけばフラッと帰ってくるよ」

「そうだね」

 そんな会話をしながら、私たちは朝ごはんを作り始めた。


――――――――

作者's つぶやき:いやぁ、結華さんの響谷くんへの愛はすごいですね。

して、このカップルはいつ一線を越えるんでしょうかね。

というか、こんなに長い話を書いた気がするのに、今のところ姫ほほの話数はギシカノの1/2程度だという…正直驚きです。

ネタが無い無い言いながら書いてたのに、なんだかんだで本編30話書いてますからね、ギシカノって。

最初の作品なのでリメイク対象です。いつか、ですけども。

――――――――

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