シーズン:2

Ep.16 -「…響谷くん、寝てる…?」-

 今、私は響谷くんの家にいる。響谷くんから合鍵を貰っているから、例え響谷くんが寝ていたとしても家の中に入ることができる。

 …今みたいに。


「…響谷くん、寝てる…?」

 ダイニングテーブルに突っ伏して眠っている響谷くん。その横には参考書やノート、ワークが置いてあった。

「勉強、してたんだ」

 眠っている響谷くんの前髪をそっと除ける。

 …相変わらず、かわいい寝顔。…悪戯したくなっちゃうな。

「…っ…ふふっ」

 響谷くんの頬に軽く口付けをする。その後に、スマホで響谷くんの寝顔を撮る。


 その後、ソファに畳んであったブランケットを響谷くんにそっと掛ける。

「お休み、響谷くん」

 そう耳元で囁いた後、優しく響谷くんの頭を撫でる。



 暫くして、響谷くんが起きた。寝る前には掛かってなかったブランケットに気付いて、周囲を見渡して、私と目が合う。


「おはよう、響谷くん」


 何度も響谷くんと交わした言葉。だけど今日は、なんだか少し特別に感じる。

 寝起きの響谷くんに言うから、なのだろうか。


「あぁ…。結華、おはよう」

「うん。よく眠れた?」

 私がそう言うと、響谷くんは時計を眺める。

「…40分くらい寝てたかな」

「そっか、お疲れ様。ココアでも淹れようか?」

「…んじゃあお願い」


 …今も、前も、変わらないけれど、ただ漠然と、響谷くんの事が好きだと感じてる。

 一挙手、一投足。その全てに釘付けになってしまいそうな程に。


 運命の人だから、とか。


 見た目が好みだったから、とか。


 優しいところが好きだから、とか。


 全部当てはまらない。




「はい、ココア」

「ん、ありがと結華」

 マグカップに入れたココアを響谷くんに渡す。

「勉強、見てあげようか?」

「ん、いや、今日の分はもう終わったから大丈夫」

「そう?」

「うん」

 私は響谷くんの隣に座って、彼の左手をそっと触る。


 少しでもいい。


 こうしてずっと、1秒でも、1分でも、1時間でも、少しでも長く、響谷くんと触れていたい。



「おっす響谷」

「あぁ、森谷。おはよ」

「おう。相変わらず眠そうだな」

「…まぁな」

 生徒たちが続々と教室にやって来て、喧騒が教室中を包み込んでいく。その中で、今日も結華は変わらずに本を読んでいる。

 …というか、その本ってもう何回読んでるの?

 俺が知る限りもう5回以上読み終わってると思うんだけど…。

「…ねぇ、結華」

 結華に声を掛けると、読んでいたページに栞を挟んで閉じ、俺の方を向く。

「どうしたの、響谷くん?」

「いや…いっつも同じ本を読んでて飽きないのかなぁって」

「飽きたりはしない、かな」

「そうなのか?」

「うん」

 結華が俺の手にそっと触れる。そして、そのまま指を絡めた。


「お前らなぁ…イチャつくのは家でやれよ…」

「…やだ」

「ほら、姫もこう言ってるし」

「…なんかさぁ、姫って響谷関連になるとちょっと子供っぽくなる時ない?」

「ない」

 …結構あった気がするけど。



 それから、午前の授業を終えて昼食の時間。俺と森谷と結華はいつも通り、教室で弁当を広げる。

「…そういやさ、森谷の彼女はどうしたん?」

「あぁ、今日は友達と昼飯食べるって言ってた」

「…仲良いの?」

「う~ん…それなり?二人程じゃないけど、それなりに仲良くなってきた」

「そうなんだ、良かったじゃん」

 まぁ、森谷と彼女さんもうまく行ってるみたいで良かった。話題を振っておいて『別れた』なんて返ってきたら空気が凍り付くところだった。

「そのうちお前らにも会わせようかな~って、今二人で相談してんだ」

「へぇ、付き合い始めた時からは想像もできんな」

「あぁ、それは俺もそう思う。我ながらよくここまで持ってこれたもんだ」

「何か、きっかけでもあったの?」

「いや、単純にデート行ってみたら、意外と相性が良かったってだけ」

「そういう事もあるんだなぁ」

「あるんだよなぁ」




 そんな感じで午後の授業も終えて、放課後。

「おーい森谷~、一緒にかえろ~」

 教室のドアを開き、入ってきた女子生徒が森谷の名前を呼ぶ。そして、結華と目が合った。

「…ほーん、ねぇ森谷。言ってた『姫』ってこの子の事?」

「そうそう、美人だろ?」

「ねぇ~、嫉妬しちゃいそう」

 そう言いながら、彼女は結華と距離を詰める。

「私、篠宮しのみや琴音ことね。よろしくね、お姫様」

「白峰結華。よろしく」

「へぇ、抵抗ないんだ、お姫様って言われても」

「呼び方なんて分かればそれでいい」

「わぉ、冷たいね」

 …俺以外にはこんな感じなんだよなぁ。

「んじゃ、俺たちも帰るか、姫?」

「…姫って言わないで」

 結華は今無表情だけど、拗ねてることは案外ちゃんとわかるものだ。…なんか、圧を感じる。

「はいはい、分かってるよお姫様」

「分かってない…」

「へぇ、仲良いんだね。名前なんてーの?」

「月守響谷」

「あぁ、森谷の友達の…。そうだ、折角だしさ、このまま4人で帰ろうよ。私今日は森谷の家に泊まるし~」

「…って、言ってるけど。二人はそれでいいか?」

「いいんじゃない?」

「響谷くんが良いなら」

 そう言いながら、結華は俺に抱き着くように腕を組んでくる。

「…歩きにくくないか?」

「大丈夫」

「…俺らも手くらいは繋ぐか?」

「あ、いいねそれ。さんせーい」


――――――――

作者's つぶやき:姫ほほが帰ってきたぞー!

…はい。久しぶりに書いたので結構時間がかかりました。まぁ、何時もの様に結華さんと響谷くんのイチャイチャ具合を楽しんでいただけたらと思います。

ちなみになんですが、響谷くんが普通なのになんかすごい美人な人から好意を寄せられるのは、主人公パワーってやつですね。まぁその代償として、両親とは関われませんけど。代わりに葵さんがいるので大丈夫でしょう。

ちなみに1話に出てきた篠宮さんとは別人です。

――――――――

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