Ep.14 -「…なんか欲しいものとかあるか葵?」-

「…梨帆が、自殺した…?」

 唐突に知らされた事実だった。

 梨帆の母親から電話で唐突に告げられ、私は一瞬、理解が追いつかなかった。


 何十分も、その場に立ち尽くしていたような気がした。通話時間はまだ、数秒しか経っていない。

「なんで…」

 分からなかった。

 あいつの―――梨帆の結婚相手が、病気で死んだ事は知っていた。

 梨帆の口から直接告げられた事だから、それは知っていた。


 …まさか、それが原因で…?

「…すみません、また掛け直します」

 スマホの通話終了のボタンをタップして、通話を切る。

 何処に行くわけでもない。私は近くの自販機で飲み物を買って、近くの公園のベンチに座る。


 気持ちを落ち着かせるために、買った飲み物の蓋を開けて、一気に口の中に流し込む。




 梨帆の葬式には勿論出席した。


 それまで、全く周りを気にしていなかった。


 ただ、梨帆の死を嘆いていた。


 それが一瞬であいつの無責任さへの怒りに変わる。


 梨帆の母親が胸元で抱いていた、赤子。


「―――なんて無責任なことを…」


 梨帆の息子だ。


 親友に向けた、最初で最後の怒り。無責任さへの、呆れ。


 子供がいるのに、どうして自殺した。自立なんて程遠い赤子を置いて、なぜ死んだ。

「…藍音さん…」

「葵ちゃん…」

「その子は…?」

「…梨帆の、子よ」

 予想通りの返答。


 ………あぁ、クソ…。

「藍音さん…その子…私が育てます」

「…え?」

「藍音さんは、昔から体も弱かった、そうでしょう?」

「え、えぇ…」

「なら、無理をさせるわけにもいきません。…もし、梨帆の心残りが、その子なら。…心残りを無くすのも、親友の仕事ですから」

「………少し、時間を頂戴」

「…はい」


 何を言っているんだ。私は。




「…じゃあ、お願いできる、かしら…」


 数日後、家にやってきた梨帆の母親はそう言って私に響谷を託した。



 そんで、今。

「なあ響谷、飯まだ?」

「今作ってるから待て」

「うい」

 …まあ、なんだかんだ言って楽しく暮らしている。響谷には恋人もできたことだし、万々歳じゃねえのかな。


「…どうした?そんなに俺のこと見て」

「いやぁ…私が居てよかったなって」

「…あぁ、そうだな。それに関しては感謝してるよ。って言うか急にどうした」

「いや、別に何でもないんだが…なんか急に思い出してな」

「ほーん…」

 本当に唐突に思い出してしまった。

「…なんか欲しいものとかあるか葵?」

「なんだよ急に」

「いや、特に何でもないけど…ほら、なんか恩返しできないかなぁって」

「別に、毎日こうやってご飯作ってくれるだけでも恩返しは十分だと思うんだがな」

 …欲しいもの、か。後で考えとこ。



「欲しいもの決まった?」

「ん?だからなくていいって」

「そう?」

「あぁ、今で十分恩返しされてるよ」

「…人生詰みを回避させた恩が5年くらい飯作り続けるだけで返せるのか…」

 俺の人生って飯5年分位ってことか?…まあ、いいか。多分俺が感じてる恩が大きすぎるだけなのかもしれない。

「恩返しなんて考えなくても、私は私の親友のためにやっただけだからな」

「なんだツンデレかおめー」

「べっ…別にあんたのためじゃないんだからねっ!…慣れない事はやるもんじゃねえな」

「なんかちょっと鳥肌立った」

「私も…」




「そういえばさ、葵って俺の事どう思ってんの?」

「どうした唐突に」

「いや…葵が俺に欲情云々の話する時あるから気になってさ」

「…因みにだが、万が一だが、好きって言ったらどうするつもりだ?」

「迅速に距離をとる」

「だろうと思ったよ」

「で、結局どう思ってんの?」

「…そうだな…いざ言語化するってなると…難しいところはあるな。家族みたい、って言うのもなんか違うと思うし…何なんだろうな?保護される側?」

 いや、俺に言われても。

 分からないから聞いたまでなんだけどなぁ…。

「…まあ、ともかく、私は響谷の事を大切には思ってるぞ。なにせ梨帆―――親友の子供だからな」

「ほんと、母さんの事好きだな、お前」

「まあな、だって親友だし。ついでに聞くが、お前は私のことどう思ってる?」

「保護者」

「だろうな」

 むしろ逆に聞きたい。保護者以外に何と答えればいいのか。

 家族じゃない。だって葵の養子になってないから。

「あー…同居人?」

「自殺した親友の子供の同居人?」

「あぁ…うん。もう保護者でいいよ」

 長いしなんかその肩書嫌だわ。俺の肩書じゃないけど。

「っていうか、改めて列挙してみると結構カオスだな自殺した親友の子供の保護者って」

「…まあ確かにな」

「…私があの時、梨帆の母親からお前を託されなかったら、お前は一体どんな人生を歩んでいたんだろうな」

「…さぁな。っつうかそれは気にする事じゃ無くね?」

「それもそうかもな」

「お互いに軽口叩ける間柄ってのも、結構いいよな」

 …母さんは…軽口叩くような人じゃないんだろうな。多分。

 優しい性格だったって聞いてるし。

「…まあ、響谷は恋人出来たわけだし、良いんじゃねえの?私もそろそろ婚活しようかな」

「お前もうとっくに婚期逃してるだろ」

「うっせぇあと私はまだ40いってねえよ。まだ36だ」

 めっちゃ現実的な数字。

「…とはいえ、見つからねえし見つける気もねえんだけどな」

 なら何故言った。


――――――――

作者's つぶやき:葵さんは結婚というか恋愛に対しての意欲が殆ど0なので、誰かと結婚したりとか、付き合ったりとかって言うのは無いです。

これも全部梨帆さんの所為…なのでしょうかね。


次回か次々回、シーズン1最終回です。シーズン1が終了したら前々から出す出すと言っていた『魔王と勇者は今日も仲良く平和ボケ中』を投稿します。シーズン2は魔王と勇者は今日も仲良く平和ボケ中』が完結してから投稿します。

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