Ep.15 -「…うん、おはよう。響谷くん」-

 スマホのバイブレーションと着信の音が、薄れていた意識を現実へと引き揚げる。

「あれ…いつの間に…寝てた?」

 まだ完全には覚醒しきっていない意識のまま、ローテーブルに置いたスマホに手を伸ばす。


「…もしもし?」

『あ、やっと出た。響谷くん』

 スマホのスピーカー越しに聞こえるのは結華の声。

「…ごめん、何回電話かけた?」

『これで3回目』

「…ごめん、めっちゃ寝てた」

『うん、大丈夫。葵さんから、響谷くんは寝たらちょっとやそっとじゃ起きないって言われてるから』

 …あいつ、いつの間に結華にそんな事を吹き込んだんだ。

 いや、まあ事実だけども。

「…それで?」

『響谷くんとイチャイチャしたい。家行っていい?』

「随分とストレートな要求の仕方だことで。OK、いいよ」

『分かった。じゃあ今から家向かうね』

「あぁ、うん。迎えに行くわ」

『お願い。じゃあ、またね』

「うん、また」




 玄関でスニーカーを履いて立ち上がると、外側から扉が開いて、丁度家に帰ってきた葵と目が合う。

「あ、おかえり葵」

「おう、ただいま。どっか行くのか?」

「結華迎えに行く」

「あぁ、そう。私はすぐ家出るから」

「了解」

「気ぃ付けろよ」

「わーってる、行ってきます」

「あい」

 葵と入れ違いになるように家を出て、結華の家の方に向かう。


 結華の家への道中、結華と合流した。

 …結華、ナンパされてるけど、ね。

「わ、私恋人と約束が…」

「え~?俺と来たら気持ちい事とかできるよ?いいの?」

 そう言って結華の腰に手を回す。

「…あの」

「あ?」

 俺がそう言うと、結華をナンパしていた男はこちらを睨みつける。

「その人、俺の彼女なので」

「…はっ!こんな奴がこの子の彼氏ぃ?ヒーロー気取りかぁ?」

「…いや、あの、事実…」

 駄目だ、こいつ。話聞いてない。


「―――はぁい、そこまでそこまで。おにーさん、ちょっとこっち来てくれる?」

 女性の声。振り返るとスーツ姿の女性がこちらに近付いてくる。

「…おにーさんって、どっち?」

「…えっとぉ…チャラそうな方?っていうか響谷くんじゃない方」

「…え?」

 え?今…この人俺の名前…。

「…あぁ、葵の友人よ、私」

「あぁ、そういう…」

「…で、おにーさん、さっきその子の腰に手を回してたけど…その子は?」

「えっとぉ、俺の彼女…」

「てことはおにーさん、迷惑防止条例違反で現行犯ね。ちょっとこっち来てもらうわ」



「…なんか、疲れたね」

「そうだね…」

 警察署での事情聴取やらなんやらを受けて気付けば時間は夕方。


『…おーっす、やっぱり嫌な予感が当たったみたいだな』

「葵?」

『いや、なんか友人が嫌な予感がするっていうからさ』

「あぁ…うん。おかげで助かったわ」

『そうか?そんならよかった。…じゃあ、私は今日どっかで泊るから』

「そりゃまたどうして」

『その友人と飲みに行く。酒強いから終電逃しは覚悟の上ってわけだ』

「あぁ、そう…まあ、気を付けろよ」

『おう、サンキュ。じゃな』

 通話が切れると共に、肩をトントンと叩かれる。

「響谷くん」

「ん?どうしたの結華」

「葵さん、なんて?」

「あぁ、今日はどこかに泊まるってさ」

「そう、なんだ…。…二人きり…」




「ただいまぁ」

「お邪魔します」

 …なんか、疲れたな。っていうか眠い。

 そんな事を考えながら、靴を脱いでリビングに向かう。

 俺がソファに座ると、結華もその隣に座る。頭を俺の肩に乗せて、体重を預けてくる。

「…ねぇ、響谷くん」

「ん?」

「…今って、二人きり、だよね」

「そうだね。………あー、如何わしい事はしないよ?」

「うん、それは分かってる」

「………ねむ…」

「眠いの?」

「うん、すっごく眠い」

 俺がそう答えると、結華は俺の肩から頭を退けて、ソファの端の方に座る。

「…はい、膝枕」

「…ありがと、結華」

 結華の脚に頭を乗せる。普通の枕とは違う、弾力があって柔らかい感触と、体温。

 すぐに眠気が湧き出てきて、俺の意識を微睡みへと引っ張る。抵抗なんてする訳もなく、俺は眠ってしまった。



「…ふふっ、可愛い寝顔」

 小さく寝息を立てて眠っている響谷くんの頭をそっと撫でる。

 撫で心地の良い、サラサラの髪。

 いつまででも見ていられる、可愛い寝顔。…ギャップ、というものだろうか。

 いつもは見せない表情だから、いつにも増して魅力的に見える。

 扇情的で、無防備で…だから少しだけ、いや、かなり邪な感情が心の奥から湧き出てくる。


 響谷くんの髪を撫でることに集中して、邪念を振り払う。

 ―――あれ、なんだか、私も…眠く…。




 ―――ん…。

「…あ、結華。おはよう」

 視界の右側に映る、響谷くんの顔。…あれ…私、これって…。膝枕?

「…うん、おはよう。響谷くん」

 …頭を撫でられる感触。なんだか少し恥ずかしいけど、でも嬉しくて、幸せに感じる。

 …あ、髪のセット、崩れちゃうな。

 でも、寝ちゃったから今更、かな。それに、響谷くんになら、何をされたって―――。

 思考を介さず、彼の首に手を回して―――唇を重ねる。


「―――っ…結華?」

「…これからも、よろしくね。月守くん」


――――――――

作者's つぶやき:はい。シーズン1は終わりでございます。『姫ほほ』シーズン2は平和ボケした魔王と勇者のお話が終わってからですね。GSMワールドは…まあ、はい。

それはそうと、まあ結構なバカップルですよね。

あ、それとこの世界とギシカノは同じ世界線ではないです。ギシカノじゃない瀬戸家です。葵さんの友人は勿論、水香さんです。

…今度SS集の方でアオ×響谷ヒビ書きましょうかね…。

ケンカップル?みたいな感じになりそうで 面白そうですよね。

あ、書くときは別世界線の2人なので白峰さんは悲しみませんよ。


『魔王と勇者は今日も仲良く平和ボケ中』はこちらから↓

https://kakuyomu.jp/works/16818093080291071436

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