Ep.9 -「そう…。響谷くんも結構な苦労人よね」-
『月守家之墓』と書かれた墓石の前に立ち、目を閉じて手を合わせる。
「…なあ、母さん。…本当に、最悪だよ。あんたが自殺した所為で俺の人生は詰みかけたんだ、葵に感謝しろよ。…俺はもう、ここには来ない。別れを言いに来ただけだから、次来るときは俺が死んだ時だ。…母さんと同じ墓なんて死んでも
…って、応えてくれるわけもない、か。
死人に口なし。…都合がいいなあ。
「…まあでも、最後に一回くらい聞いておきたかったよ。
それから、駐車場に戻り、車に揺られながら家へと帰る。
「ほんじゃ、私はちょっと用事があるから」
「うい、りょーかい。何時くらいに帰る?」
「予定だと20時、夕食はいらん」
「了解した」
車が発車するのを見送った後に、鍵穴に鍵を差して解錠し、家に入る。
「ただいま」
■
「…もうそろそろか?」
久しぶりに会う友人との待ち合わせ場所には、予定時刻の10分前についていた。
ショッピングモールの立駐に車を置いて、一回で彼女の到着を待つ。
暇だな、アイスでも買ってこよっと。
「待ち合わせ時間の10分前って、すごいわね葵」
買ってきたアイスを食べ終わり、ごみ箱に捨てると同時に、私の後ろから声が聞こえる。振り返ると、友人が立っていた。
「ははは、なんせ久しぶりに会うからな」
「あぁ、そう言えば結構久しぶりね」
「だろ?」
「…それで?響谷くんとは上手くやってるの?」
「ん?…ん~、まあまあ?」
「そう…。響谷くんも結構な苦労人よね」
「まぁ、な」
「…父親は病死、母親は後を追って自殺。だったかしら?」
「そうだな」
「なんというか、気持ちは分からないでもないわね。愛する人を失った辛さは、多かれ少なかれ私も経験しているものだし…私が自殺を踏み止まったのも、
そう言う意味では、お前よりも夫への愛が深かったのかもな。
…もしくは、響谷のことがどうでもよかったか。
私にはわからん。人の思考回路なんざ考えたって理解できるものじゃない。
「…私は恋人とかいたことが無いから分からんが、やっぱり辛いのか?」
私がそう彼女に聞くと、彼女は遠い何かに視線を向けるように上を向いて言葉を紡ぎ始める。
「…えぇ、まあ、そうね。…正直、最初は私も、どうすればいいのか分からなかった」
「…そうなのか」
「えぇ。辛かった…いえ、辛いわよ、今も。最初は私も後を追って…なんて事を考えたりしたわ」
「でも、しなかったのは彼方のお陰か?」
「えぇ、そうね。私は、あの人の全てを愛すと誓ったのだから、私とあの人との子供も、そのすべての一つ。だから、愛すのよ。…ま、きっかけはそれだけだっただけで、今はただの親バカだけれどね」
「なんだ、自覚あったのか」
「あるわよ、自覚くらい。…だから、響谷くんの母親は、選択を決めるための要素を見落としていただけなのよ。多分ね」
「…もし、もしだ。あいつが…響谷の母親が、響谷の事を嫌っていたとしたら?」
「優しくていい人、だったのでしょう?」
「…結婚して、子供を産んで。それで人が変わることもザラにあるだろ?」
「えぇ…まあそれはそうね。人が変わったように虐待を始めることも、或いは…あるかもしれないわね」
■
『もしもし、月守くん』
「はい、もしもし。どうしました?」
『特に用事は無いけれど…声を聞きたくなって』
「そうですか…ちょっと待ってくださいね、スピーカーにするので」
『うん。わかった』
スマホを耳から離して、通話メニューからスピーカーに切り替える。
「…でも、話題なんてないですよ?」
『その、月守くん両親の事、聞かせて欲しいなって』
「…あはは、残念ですが、俺は両親の事はなんにも知りませんよ」
『じゃあ、葵さんと月守くんが今みたいになった経緯…とか?』
「良いですよ」
…承諾したものの、どこから話そうか。
「…物心ついたときから、俺に両親は居ませんでした。気が付けば、葵に引き取られていました。最初は、疑問だらけでした。『なんで俺には両親が居ないのか』だとか、『葵は親じゃないのか』とか。葵が居なかったら、俺は人生詰みでしたから、葵には感謝しかないですよ」
『そうなんだ』
「はい。…両親が居ない俺にとって、葵は親じゃない。ただの保護者で、親にはなれない。それは、俺と葵が話し合って出した結論です。…って、こんなの話して何になるんですか?」
『…私が、月守くんの事をもっと知りたいから。理由はそれだけ。駄目だった?』
「いや…別に良いんですけど」
知りたい…。
じゃあ、それなら。
「じゃあ、白峰さんの事も教えてください」
『え?…良いけど、面白みなんてないよ?』
「別にいいですよ。俺だって何一つ面白くない話しかしてませんし」
『…そう…。…私は…誰かと関わることが、嫌いなの。皆が、私に理想を着せて、それに無意識に答えようとする自分も、嫌い。だけど、月守くんの事は好き。なんでかは分からないけど…。…こんな感じかな?面白くないでしょ?』
「まあ、そうですね。でも…まあ、お互いの事知れたし良いんじゃないですか?」
『そうだね。…あ、じゃあね。また』
「はい、また」
――――――――
作者's つぶやき:後半はもう99.9%脳死で書いたので何書いたのか自分でももう覚えてません。これ書いてるの本文書き終わった瞬間に書いてるんですけどね。
それはそうと、葵さんが話してた相手、誰だかわかりますよね。
ヒント1、愛する人を失った人
ヒント2、愛する人を『あの人』と呼ぶ人
ヒント3、息子の名前は彼方
これできっと察せる筈です。
――――――――
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