Ep.6 -「放課後屋上に来て欲しい」-
「月守くん、おはよう」
教室に入って、右隣の席から久しぶりにそんな声が聞こえる。
隣には微笑みかける白峰さん。
「おはようございます。白峰さん」
「うん、おはよう。…体調は大丈夫?」
「あはは…体調は元から悪くないので安心して下さい」
「そう…なら良いけど」
そう言って再び本を読み始める白峰さん。
「よう響谷。珍しいな、お前が休むなんて」
「そうか?俺だって休む時は休むぞ」
「まあそりゃそうなんだろうが、相変わらず幸せ者だな」
「何がだよ」
「姫から心配されるなんて幸せ者だなってこった」
「…あぁ、そう」
■
…今日、月守くんが登校した。
風邪ではないようだけど…。
「…あの、白峰さんどうしました?」
「…ずる休みは、良くないよ」
彼をじっと見つめながらそんな事を言う。
「…あはは…。でも仕方ないですよ…誰にだって、休みたくなる時ってあるでしょう…?」
そう言って遠い目をする彼に、私は数日ほど前に彼に両親の話題を振ったことを思い出す。
…もしかして、あれのせいかな。
「…ごめんね、月守くん」
「いえ、気にしないでください」
「…うん。でも、元気そうでよかった」
彼に微笑んだ後、また本を読み始める。
■
「…よお、梨帆。来てやったぞ。…お前の息子は来てないがな。私だけでも墓参りに来てるだけましだろ?」
『月守家之墓』と書かれた墓石の前に立って、そう呟く。
墓に水をかけて洗った後に、花と水を替える。線香に火をつけて線香立てに立てる。
線香独特の香りが鼻腔をチクリ刺すように刺激する。…好きじゃないんだがな、線香の香り。
暫く手を合わせて目を瞑った後に顔を上げる。
「…盆にはまた来るからな」
そう言って踵を返して駐車場に向かう。
車に乗って、エンジンをかける。
セルモーターが回る音がした後にエンジンがかかる。
シフトレバーを
駐車場を出た後に、赤信号で一時停車した隙にカーナビを響谷の家に設定して案内を開始する。
カーナビ通りに走って、響谷の家のガレージに駐車する。
車から降りて、家の扉の鍵を開けて家の中に入る。
「ただいまぁ…って、学校行ってんのか」
スマホを充電スタンドに置いて、ソファに倒れ込むように寝転がる。
…あー…この時間に響谷が居なくて私だけなのは、意外に新鮮かもな。
「…昼飯作るかぁ…」
食材勝手に使うけどまあ良いだろ。
■
昼休み、俺は森谷と白峰さんと一緒に昼食をとっていた。
「…ねえ、月守くん」
弁当を食べていると、不意に白峰さんが口を開く。
「どうしました?」
俺がそう聞くと、彼女は俺に耳打ちをする。
「放課後屋上に来て欲しい」
「…分かりました」
俺がそう返答すると、彼女はニコッと微笑んだ。
そして放課後。
言われた通りに屋上に向かう。
ここの学校は屋上は生徒のみで出入り可能で、放課後はよく告白スポットで使われることが多い…らしい。
…まあ、何が行われるのかはなんとなく察しているが…。いざこう…屋上に来てみると妙にソワソワする。
「…月守くん」
そんな声と一緒に、屋上と4階を繋ぐ階段から白峰さんが来る。
俺の前に立って、俺の左手薬指に指輪を付ける。
「…付き合って、月守くん」
「それはいいですけど。…
「…?指輪だけど…」
「いや、分かってますよ。質問の意図は
「…特に理由はないけど…強いて言うなら、私の月守くんへの思いの強さの代弁」
…え?なに?結婚したいって?
「ねえ、月守くん」
「どうしました?」
「今日、月守くんの家に行っていい?」
「え?…あぁ、多分大丈夫だとは思いますけど」
「…じゃあ」
そう言って、白峰さんは自身の指を僕の手に絡ませてくる。
「これで本当に恋人繋ぎ」
俺の家に到着する。
家のドアの取っ手に手を掛けると同時に、家の内側からドアが開かれる。
「…おっと、響谷おかえりぃ…と、誰?」
「…あぁ、えっと。とりあえず葵はステイ。白峰さん、説明は後でするから取り敢えず家に入って」
「分かった」
「…響谷の彼女?」
「っ…なんでこういう時だけ無駄に鋭いんだお前は」
「…まあ、簡単に言うと葵は俺の保護者」
「そうなん、ですね」
「あぁ、いいよ敬語。上下関係とかないし、そもそも私はそんなに尊敬される人間じゃない」
「自覚あったんだ」
「流石にないとまずいだろ」
「それもそうか」
「…月守くんと、仲良いんだ」
「まあ、そりゃな。保護者なんだから」
「仲悪いとやってられんわな」
「じゃあ、ここは葵さんの家なの?」
「ん~…まあ一応そうなるんかな」
「一応?」
「…あぁ、一応言っとくがあんまり深く詮索するな。人には必ずしも誰にも見せられない闇があるんだ」
「…分かった」
「…で、まあ一応って言うのは私はこの家にほとんど居ないから。名義上買ってるのは私だが、使ってるのは響谷が9割ってとこだ」
「…その、月守くんの親、じゃないんだよね?」
「あぁ、養子じゃないし。単純に保護者ってだけだ。
「…話を振っておいてだけど…親の事はあんまり言わないほうが良いんだよね…?」
「あぁ…うん」
――――――――
作者's つぶやき:さて、ついにくっつきましたね2人が。
『恋人なんていいものじゃない』とか言ってるくせにやけに告白を受けるのが早いなと思いませんでした?
まあ、母親と同じ轍を踏まなければOKっていうことで。
――――――――
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