Ep.4 -「…っざっけんなよ…」-
※不謹慎な言動があります。ご注意ください。
――――――――
「…その、月守くん」
「どうしました?」
「…ごめんね」
「…え?…あぁ…大丈…夫、ですよ」
「そう…」
「…あ、傘返しますね」
「別にいいのだけど…」
「そのために呼んだので返されてください」
…まあ、室内で返すのもなんだし、帰り際に返そうっと。
白峰さんが出されたお茶を飲み終わると同時に、「帰るね」と言って鞄を肩にかけて玄関へと向かい、靴を履き始める。
「じゃあ、傘、ありがとうございました」
そう言って、白峰さんに傘を返す。
「じゃあ、また」
そう言って白峰さんが家を出たのを確認して、家の壁をドンっと叩く。
「…っざっけんなよ…」
…行き場のない母親への怒りを家の壁にぶつける。
その時、家のドアが開いて葵が入ってくる。
「おうおう、どうした。いつもは温厚は響谷が………あ~…悪かった。もうちょっとだけ外にいるわ」
「頼む、そうしてくれ。今お前がいると殴りかねない」
「…収まったら教えてくれ」
「…あぁ…分かった…」
「…あぁ…クソ………っ!」
十分ぐらい経っても怒りが収まる気配は一向に無く、地面に叩きつけたい衝動を抑えて、葵に『収まりそうにない』と簡潔に送る。
返答なんて見る余裕もない。スマホを充電スタンドに置いて、そのまま自室へ向かう。
■
「…『収まりそうにない』、ね」
…まあ、仕方ないか。今日は外食してホテルにでも泊まろう。『了解』と返信して、近くにあるファミレスへと歩いて向かう。
…あいつの、響谷の母親は、私の親友だ。
私が知る、あいつの母親…
まあ、響谷からしたら『大嫌いなクソ母親』なんだろうが。
実際、私も同感だ。愛する人が死んで辛い気持ちはあるかもしれないが、それで自殺は…な。響谷はどうするんだって話だ。本当に、育児放棄も甚だしい。
…あの時、もし私が居なかったら、響谷は本当に人生詰んでたぞ。
「………本当に」
こう言うのも不謹慎なんだろうが、せめて響谷が自立できる年齢になってから死にやがれ。
…他人の苦労を考えなさすぎだ。お前の
そんな事を考えている内に、ファミレスに到着した。
店員に案内されて、窓際の席に座る。ナポリタンとドリンクバーを頼んで、ドリンクバーの場所からコップを取ってリンゴジュースを注ぐ。
席に戻ってナポリタンが運ばれてくるのを待っていると、響谷からメールが届く。
『晩飯、いる?』
『今ファミレス』
『了解』
…まあ、収まったならよかった。
■
「…葵は晩飯要らない…」
余った食材は明日使おうっと。
適当に作った食事を盛り付けて、机に運ぶ。
「…いただきます」
両手を合わせた後にそう言って、食べ始める。
正直味なんて良く分からない。まだ怒りが収まってるわけじゃないから。
…本当に、俺がそっちに行ったら5発くらい殴らせろ。
「…ご馳走様でした」
皿にはラップを敷いていたので、ラップと割り箸を捨てるだけで洗い物は無い。
…というかそうじゃないと、この状態で食器洗ったら確実に皿は割るし箸は折ると思う。
■
「…月守くん」
常夜灯が灯る自室で一人、彼の名前を呼ぶ。
「…好き」
体が段々と、熱っぽくなっていく。
どうしようもなく、好きなんだ。
マットレスの上でモゾモゾと体を捩らせ始める。熱を持つ体に身を任せて。
■
「…ただいまぁ~」
「…おう、おかえり」
「収まったか?」
「粗方な」
「ならよかった。…つか、なんでそうなったん?」
「傘返しに家に来てもらった………」
白峰さんと俺の関係って何だろ?…友人?クラスメート?知り合い?
「…知り合い…に親の話題を振られた」
「…あぁ…そういう…」
「…本当に、母親を5発くらい殴りたい」
「やめとけやめとけ、仏壇も無けりゃ墓参りにも行かねぇ。十分親不孝してんだろ」
「そんなんで収まってるなら今の俺はこんなに荒れてねぇんだよ」
「まあだろうな。…葬式してもらっただけありがたいと思っとけ」
「親友に対してその口ぶりは如何なものかと思うぞ」
「お前こそ母親に対して殴らせろは如何なものかと思うぞ」
「…仕方ねえだろ。そうでもしないと収まらねえんだよ」
「………本当に、災難だな」
「誰の所為なんだろうな」
「少なくとも私じゃないだろ」
「当たり前だ」
「…ったく、お前が今も昔も良い子してて助かったよ。おかげで私の家庭力は爆上がりだ」
「良かったな、お陰で俺は葵からその家事力を受け継いだし」
「…両親が居ればなあ」
「…今その話は止めろ。マジで破壊衝動を抑えてんだよこっちは」
「へいへい」
…ぜってえ分かってねえだろ、お前。
「まあ、なんだ。私がいてよかったな、響谷」
「あぁ、本当にな。葵が居なかったら俺の人生はとっくに詰みだ」
「母親から道連れチェックメイトってか?」
「…マジで一発殴って良いか?」
「おぉうバイオレンス。流石に勘弁してくれ」
「今更だが、親戚連中にもまともなのは居ないしな」
「そうなのか?」
「…あぁ、そうだよ。唯一の肉親の祖父母は、俺が母親を自殺に追いやった原因ってことにして虐待真っ最中だ」
「…とことん不幸だな」
「…マジで、チェックメイトとはいかなくても王手ぐらいはされてるかもな」
「チェスの次は詰将棋かあ」
「…早く詰んでくれないかなぁ」
――――――――
作者's つぶやき:…え~、不謹慎多めです。
響谷くんも、葵さんも、何と言うか…少し災難ですよね。
『早く詰んでくれないかなぁ』って言うのもそうですし、本当に不謹慎な発言が多い気がします。すみません。
それはそうと、彼方くんも響谷くんと同じ環境だったらこうなるんですかね。
――――――――
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