Ep.3 -「奇遇だね、月守くん」-

 コンビニで飲み物を買って家の近くで葵に降ろしてもらう。

 鍵を開けて家の中に入る。

「ただいま」

 当然、家族なんて居ないので言う意味はないけど。


 それから私服に着替えて冷蔵庫の中を確認する。

「…あ、買い物行かないと」

 そう思った俺は、財布と、白峰さんから借りた傘を持って家を出る。


 スーパーの自動ドアを潜る。

 買い物カゴを持って、食品を吟味し始める。

「―――あ、月守くん」

 そんな声が僕の後ろから聞こえる。振り向くと、白峰さんが立っていた。

 長くて銀色の髪をポニーテールにまとめて、無地のTシャツとジーンズにスニーカー。

「奇遇…ですよね?」

「うん、奇遇だね、月守くん」



 …月守くんと会うなら、もうちょっとお洒落して来ればよかったかも。

 私が来ている服は、無地のTシャツとジーンズ。髪はポニーテールにしているだけ。


 …まさか、月守くんと『このタイミングで』会うなんて。

 帰り際くらいにすれ違うくらいだと予想していたのだけど…。

「…折角会ったのだから、一緒に買い物しない?」

「…分かりました」


 それから、私たちは一緒に買い物を済ませてお互いの家に帰った。



 翌日、何時もの様に登校する。

 教室のドアを開いて、自分の席に着く。

「おはよう、森谷」

「おぉ、おはよう。お前にしては随分と早いな」

「そうか?」

「あぁそうだとも、姫と一緒に登校でもしたか?」

「ねぇって」

 そんな会話を続けて、ホームルームまで時間を潰す。


 そして、ホームルーム。

「はい、じゃあ席替えするぞ~」

 そんな先生の声に教室中が歓喜の声に包まれる。

『姫の隣、姫の隣、姫の隣…』そんな小さな願望の声が密かに聞こえる。


 箱の中からくじを引いて、数字と対応する位置に自分の席を移動させる。

「…って、またかよ響谷」

 俺の左隣には森谷。右隣には―――。


「月守くん、よろしくね」


 そう言って微笑む白峰さん。

「…お前、とことん運いいよな。俺にもその運の良さくれよ」

「無理だって」

 …まあ、知ってる人で良かった。




 3、4限目の調理実習、俺は森谷と白峰さんとグループを組むことになった。

「よし、この二人がいるなら俺は仕事しなくても―――」

「森谷さん」

「はい誠心誠意働かせてもらいますすみませんでした」

 …おぉ、怖。


 そんな事がありつつ、正直森谷も結構料理できるみたいだ。



 …なんか、姫怖くね?


 響谷に迷惑かけるなってことか?

 …って言ってもなぁ、俺料理そんなにできないし…。昨日調理実習あるから親に作り方聞いておいてよかった…。

「…ん、良い感じじゃない?」

 よし。

 響谷にこう言われたら大体大丈夫だ。



 …調理実習、月守くんと同じ班だから少しだけ張り切ってしまった。


 味噌汁は森谷さん。お米は私。主菜は各班オリジナルで、私たちの班の担当は月守くん。

 お米も、良い感じに炊けている。


 机の上を片付けて、消毒用のシートでさっと拭いた後に、器に味噌汁とお米、主菜をそれぞれ盛り付ける。




「「「いただきます」」」

 主菜は月守くんが作っただけあって、とても美味しい。

 塩加減がちょうどよくて、ご飯が進む。

 …月守くん、いつも弁当にはこれくらいの美味しさのものが入ってるのかな。少しだけずるい。


「月守くん」

「どうしました?」

「美味しい」

 そう言って、彼に微笑む。

「それは良かったです」

 月守くんが微笑み返してくれる。

「…あのぉ、俺の作った味噌汁は?」

「うん、美味しいけど」

「…なんか、姫素っ気なくね?」

 ちょっと、味噌が薄いような気がするけど。



 調理実習が終わって、放課後。

「あ、白峰さん」

「どうしたの月守くん?」

 教室を出ようとする白峰さんを引き留める。

「傘、返したいので、今から家に来てもらっても良いですか?」

「…分かった」


 そうして、白峰さんと一緒に校門を出て、俺の家に向かう。

 一応、車道側を俺が歩いて、白峰さんには歩道の内側の方を歩いてもらう。

「…ねえ、月守くん」

「どうしました?」

 俺がそう聞くと、白峰さんは何も言わずに手を繋いでくる。

 …これ、所謂恋人繋ぎってやつなんじゃ…。




「着きました。ちょっと待っててください」

 俺はそう言って、家の鍵を解錠する。ドアクローザーで閉まらない角度までドアを開けて、白峰さんが家の中に入るのを待つ。

「お邪魔します」

 そう言って俺の家の中に入っていく白峰さんを確認して、ドアを閉めながら玄関で靴を脱いで家の中に入る。


「とりあえず、適当な所に座っててください」

「分かった」

 冷蔵庫を開けて、2ℓのペットボトルに入ったお茶をコップに注いで、白峰さんに渡す。

「どうぞ」

「ありがとう、月守くん」

 …っていうか、傘返すだけだったのにさらっと家に入れちゃったな。


「ねえ、月守くん」

「どうかしました?」

「…その、聞いて良い事か分からないけど…両親は?」

「…あー…取り敢えず、今は居ない…し、もう帰ってくることもない…って、だけ」

「…そう…」

 …まあ、そう言う反応になるよな…。




 …葵は、俺の母親の親友で、俺の母親の事は『優しい良い奴』って言ってたけど。

 …どこがだよ。…何が…。

 …あぁ、クソ。


――――――――

作者's つぶやき:なんか、視点の交代が激しいですね。

それはそうと、響谷くんはどうやら両親の事をあんまりよくは思ってないみたいですね。

それもそのはず。父親は病死だから仕方ないとして、響谷くんがいるというのに自殺した母親に関しては良い感じはしないですよね。

…本当に、葵さんが居なかったら響谷くんの人生はとっくに詰んでるんですよね。

――――――――

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