Ep.2 -「はい、これ。返さなくても大丈夫だから」-
一緒にお昼食べようと誘ってみたは良いけど…誘いを受けた白峰さんは俺の隣で黙々と食べ進めてるんだよなぁ…。
…迷惑だったなら断ってくれても良かったんだけどな。
「…月守くん」
「はい?どうかしましたか?」
「…やっぱり、なんでもない」
どうしたんだろ、なんか言い出しにくい事でもあったのか?
…まあ、本人が言わないなら追及しないほうが良いか。
■
俺の友人、
何でかは知らん。本人にも分からんことを他人が理解するは無理だ。
…ただまあ、姫と話してる時のあいつは、俺と話してる時とテンションは変わらん。敬語にはなるが。
…ずりぃよなぁ…。
響谷にも隠れファンが多いのは良く分かる。教室中からちらちらと響谷を見る視線があるし。
響谷も、顔立ちはそこそこ端麗だし、性格も悪いってわけじゃない。モテるのも分かる。
…ただ、だ。
響谷以上の奴は、うちの高校には少なからずいる。イケメンもいるし、性格だって、響谷より気が利くやつだっているはずだ。
…なぜ、響谷にのみ、姫が笑みを見せるのか。
好きなら、なんで好きなのか。聞いてみてえ。
…俺?俺は諦めてる。だって、追いかけられもしなけりゃ、振り向いてくれたりも絶対ねぇし。
まあ、取り繕って言うなら、『タイプじゃない』ってところだ。可愛いのは認めるがな。
そんな自嘲じみた事を思いながら、俺は購買で買った菓子パンをかじる。
■
…月守くんと食べるお昼ご飯…。
いつもと変わらない弁当なのに、なぜだか少し、前よりもおいしいような…、そんな気がする。
月守くん、私は、貴方の事が好き。
そう言えたら…彼は、貴方はどんな反応をするの?月守くん。
でも、言えない。何故だかは分からないけれど、言えない。
でも、貴方に触れていたくて、貴方の傍に居たくて。
「月守くん」
「はい?」
「お昼、誘ってくれてありがとう」
微笑んで、彼にそんな事を言う。月守くんの左手の中指から手首までを、指でなぞる。手首までなぞった後に、両手でそっと握る。
「…あの…白峰さん」
「どうしたの?月守くん」
「それ…弁当食べられなくないですか?」
………。月守くん、嫌がってる………?
私は、月守くんの手を離して、食事に集中する。
■
昼食が終わって、授業を要点だけノートにまとめながら右から左に聞き流し、放課後。
俺は今、学校の校舎入り口で頭を抱えていた。
予報で雨が降るって書いてたのに傘持ってくるの忘れた…。
あぁ、もう…。
なんでこういう時に限って予報が当たるんだよ…。
「…?月守くん、どうしたの?」
外は大雨、その声は、大雨よりもはっきりと、透き通る声。
「あ、白峰さん」
手首に傘を二本かけた白峰さんが、僕の後ろで立っていた。
…なぜ二本も?
「はい、これ。返さなくても大丈夫だから」
そう言って、白峰さんは微笑んで僕に傘を差し出してくる。
「…えっとぉ…なんで?」
「…直感?」
「直感かぁ」
…いや、全くもって意味が分からん。何?ストーカーなの?
まあ…いいか、白峰さんのご厚意に甘えよう。
「ありがとうございます、白峰さん」
そうお礼を言って、白峰さんから傘を受け取る。飾り気なんて何一つない、ただの黒い布傘。
留め具を外して、根元にあるボタンを押して傘を開く。『返さなくても大丈夫』…ね。
「…じゃあ、月守くん、また明日」
「はい。また明日」
「…それか、今日の夜に」
「…え?ちょ、それってどういう―――」
俺がそう言い切る前に、彼女はニッコリと微笑んで校門を出ていく。
「…今日の夜?…何かあったっけ…」
そんな事を考えながら校門を出ると、俺の隣に一台、車が止まり、運転席のサイドガラスが開く。
「よぉ響谷。傘忘れたと思って迎えに―――って、お前傘持ってきてたの?」
「…まあ、色々あったんだよ、察してくれ
この人は
あと、女性らしい。
「…まあ、学校の事はどうでも良いんだけど…あんまり長話すんのはやめてくれよ?ここ駐禁だから」
「はいはい」
後部座席側のドアを開いて、乗り込む。俺がシートベルトを着けたのを葵が確認して、車が発車する。
「…ったく、世話焼けるなぁ、本当に」
「恩の押し売りだって話するか?」
「おう、正論でパンチするのは止めような、普通にクリティカルだから」
「正論パンチでクリティカル食らうような言動する葵が悪い」
「…つか、傘あんならそのまま帰っても良かったな」
「じゃあ何しに来たんだよって話になるぞ?スマホで確認取れるだろ」
「いやぁ…車の運転中にスマホ弄るのはちょっと…なぁ」
「…そこら辺の常識って葵にもあったんだ」
「港から海に飛び込んでやっても良いんだぞ」
「その前にサイドガラス突き破って脱出するわ」
「それで車検通らなかったらどうするんだよ。車のサイドガラスって結構高いんだぞ」
「じゃあ最初から飛び込もうとするな」
「へいへい。…っと、ちょっとコンビニ寄ってって良いか?」
「別に良いけど…何買うの?」
「ん~?ちょっと飲み物でも買おっかなって」
俺の了承云々以前に、もう既にコンビニに駐車しようとしてるろお前。
…まあ、いいや。ついでだし俺もなんか買って帰ろっと。
――――――――
作者's つぶやき:後半のマシンガントークはとても書きやすかったです。
葵さん、またまた唐突な登場ですし、なんかさらっと両親が居ないという事実が語られましたし…後半、少々情報過多な気がします。
それはそうと、白峰さんは響谷くんの事をストーカーしてないんでしょうか。本当に、ただの直感なんですかね?
――――――――
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