Ep.2 -「はい、これ。返さなくても大丈夫だから」-

 一緒にお昼食べようと誘ってみたは良いけど…誘いを受けた白峰さんは俺の隣で黙々と食べ進めてるんだよなぁ…。

 …迷惑だったなら断ってくれても良かったんだけどな。


「…月守くん」

「はい?どうかしましたか?」

「…やっぱり、なんでもない」

 どうしたんだろ、なんか言い出しにくい事でもあったのか?

 …まあ、本人が言わないなら追及しないほうが良いか。



 俺の友人、月守つきもり響谷ひびやは、姫によく笑顔を向けられる。


 何でかは知らん。本人にも分からんことを他人が理解するは無理だ。


 …ただまあ、姫と話してる時のあいつは、俺と話してる時とテンションは変わらん。敬語にはなるが。

 …ずりぃよなぁ…。

 響谷にも隠れファンが多いのは良く分かる。教室中からちらちらと響谷を見る視線があるし。

 響谷も、顔立ちはそこそこ端麗だし、性格も悪いってわけじゃない。モテるのも分かる。


 …ただ、だ。

 響谷以上の奴は、うちの高校には少なからずいる。イケメンもいるし、性格だって、響谷より気が利くやつだっているはずだ。

 …なぜ、響谷にのみ、姫が笑みを見せるのか。


 好きなら、なんで好きなのか。聞いてみてえ。

 …俺?俺は諦めてる。だって、追いかけられもしなけりゃ、振り向いてくれたりも絶対ねぇし。


 まあ、取り繕って言うなら、『タイプじゃない』ってところだ。可愛いのは認めるがな。

 そんな自嘲じみた事を思いながら、俺は購買で買った菓子パンをかじる。



 …月守くんと食べるお昼ご飯…。

 いつもと変わらない弁当なのに、なぜだか少し、前よりもおいしいような…、そんな気がする。


 月守くん、私は、貴方の事が好き。


 そう言えたら…彼は、貴方はどんな反応をするの?月守くん。

 でも、言えない。何故だかは分からないけれど、言えない。

 でも、貴方に触れていたくて、貴方の傍に居たくて。

「月守くん」

「はい?」

「お昼、誘ってくれてありがとう」

 微笑んで、彼にそんな事を言う。月守くんの左手の中指から手首までを、指でなぞる。手首までなぞった後に、両手でそっと握る。

「…あの…白峰さん」

「どうしたの?月守くん」

「それ…弁当食べられなくないですか?」

 ………。月守くん、嫌がってる………?


 私は、月守くんの手を離して、食事に集中する。



 昼食が終わって、授業を要点だけノートにまとめながら右から左に聞き流し、放課後。


 俺は今、学校の校舎入り口で頭を抱えていた。


 予報で雨が降るって書いてたのに傘持ってくるの忘れた…。


 あぁ、もう…。

 なんでこういう時に限って予報が当たるんだよ…。


「…?月守くん、どうしたの?」

 外は大雨、その声は、大雨よりもはっきりと、透き通る声。

「あ、白峰さん」

 手首に傘を二本かけた白峰さんが、僕の後ろで立っていた。

 …なぜ二本も?


「はい、これ。返さなくても大丈夫だから」


 そう言って、白峰さんは微笑んで僕に傘を差し出してくる。

「…えっとぉ…なんで?」

「…直感?」

「直感かぁ」

 …いや、全くもって意味が分からん。何?ストーカーなの?

 まあ…いいか、白峰さんのご厚意に甘えよう。

「ありがとうございます、白峰さん」

 そうお礼を言って、白峰さんから傘を受け取る。飾り気なんて何一つない、ただの黒い布傘。


 留め具を外して、根元にあるボタンを押して傘を開く。『返さなくても大丈夫』…ね。

「…じゃあ、月守くん、また明日」

「はい。また明日」

「…それか、今日の夜に」

「…え?ちょ、それってどういう―――」

 俺がそう言い切る前に、彼女はニッコリと微笑んで校門を出ていく。

「…今日の夜?…何かあったっけ…」

 そんな事を考えながら校門を出ると、俺の隣に一台、車が止まり、運転席のサイドガラスが開く。


「よぉ響谷。傘忘れたと思って迎えに―――って、お前傘持ってきてたの?」

「…まあ、色々あったんだよ、察してくれあおい

 この人は嘉山かやまあおい。両親が居ない俺の…保護者、らしい。本人曰く、母親の親友らしい。

 あと、女性らしい。


「…まあ、学校の事はどうでも良いんだけど…あんまり長話すんのはやめてくれよ?ここ駐禁だから」

「はいはい」

 後部座席側のドアを開いて、乗り込む。俺がシートベルトを着けたのを葵が確認して、車が発車する。


「…ったく、世話焼けるなぁ、本当に」

「恩の押し売りだって話するか?」

「おう、正論でパンチするのは止めような、普通にクリティカルだから」

「正論パンチでクリティカル食らうような言動する葵が悪い」

「…つか、傘あんならそのまま帰っても良かったな」

「じゃあ何しに来たんだよって話になるぞ?スマホで確認取れるだろ」

「いやぁ…車の運転中にスマホ弄るのはちょっと…なぁ」

「…そこら辺の常識って葵にもあったんだ」

「港から海に飛び込んでやっても良いんだぞ」

「その前にサイドガラス突き破って脱出するわ」

「それで車検通らなかったらどうするんだよ。車のサイドガラスって結構高いんだぞ」

「じゃあ最初から飛び込もうとするな」

「へいへい。…っと、ちょっとコンビニ寄ってって良いか?」

「別に良いけど…何買うの?」

「ん~?ちょっと飲み物でも買おっかなって」

 俺の了承云々以前に、もう既にコンビニに駐車しようとしてるろお前。


 …まあ、いいや。ついでだし俺もなんか買って帰ろっと。


――――――――

作者's つぶやき:後半のマシンガントークはとても書きやすかったです。

葵さん、またまた唐突な登場ですし、なんかさらっと両親が居ないという事実が語られましたし…後半、少々情報過多な気がします。

それはそうと、白峰さんは響谷くんの事をストーカーしてないんでしょうか。本当に、ただの直感なんですかね?

――――――――

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