口の悪い、地底人

豚を運んで六十年、ようやく一人前の豚運び屋だ。豚を育てるのはカミさんの仕事。俺は運ぶだけ。育った豚は屠殺場で解体されて、精肉店に並ぶ。生まれたての豚はかわいい。だが名前をつけちゃぁいけないって、カミさんが言うもんだから、番号で管理している。


 今日運ぶ豚たちは五十番台。俺の息子と同じ頃に産まれた。まだ二十年なのに、ずいぶんデカくなるもんだ。五十番台を幌付き荷台に乗せて山道を走る。いつもの下りのカーブ、ハンドルが利かない。ブレーキを思いっきり踏み込んだ。反動と遠心力で豚たちは崖下に落ちてた。幸いにも俺と車は、大丈夫だった。なら問題ない。


 豚たちには困ったら多数決で決めろと教えてきた。考えさせちゃぁいけない。食われるってのはそういうことだろ。崖下に落ちた豚たちは必ず養豚場に帰る。豚は変化を嫌う。


 お、一頭こっちに向かってくる、五十一番だ。たまにいるんだよな、多数決の反対が自分の意思って考えてるバカが。

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