骨まで愛して、美しく

 目が覚めた、いつもどおりキッチンから弁当を作っている音がする。何事もいつもどおりが美しい。「おはよう」と妻に声をかける。僕の妻は美しい。同い年、今年で五十を迎える。美魔女というやつか。


 いつもどおり、コーヒーがでて、こない!美しくない。

「ねぇ、美しい妻。コーヒーがないようだけど」

「うぐヴヴヴ」


 妻の様子が変だ。獰猛な犬のような声。ソファーからキッチンの方へ目をやる。美しくない。妻が、生肉を食べている。非常に美しくない。


「どうしたの、それは、生肉だよ」

「ヴぁたすぃ、ゾんBにナッタみたい」

妻はゾンビになったと言う。美しくない。


「それは美しくないよ」

「ヴぉめん、ナズァイ」


 妻は食べかけの生肉を置いた。僕はキッチンに目をやった。美しくないが計画通りだ。あの生肉は例の間男だ。骨までは食えないのか、ゾンビでも。


「骨まで愛さなきゃだめだろ」と妻にお説教したあと、まだ寝ている息子を連れ、二階から美しく家を出た。

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