とびっきりの恋に落ちる、ということ

 父は生まれた時にはいない。母とは赤ちゃんの頃に生き別れになった。叔母の母乳で育てられた。叔母といとこ達には感謝している。だけど、いつもお腹を空かせていた。そのせいか、大人になってからの食べ物への執着心は尋常じゃないと思う。


 食べている途中に、勝手に片付けられると、店員に怒りをぶつけてしまう。勝手に下げないでと。大声で。爪でひっかいたことや、嚙みついたこともある。もうすぐ三十路を越えるのに、彼氏もいない。デートのディナーで彼の分まで食べてしまって、喧嘩になったりすることもしょっちゅうだ。


 小さな交差点、盲導犬が話しかけてきた。

(あの、できたら僕と友達になってくれない?)

(どうして私なの?)

(理由なんて必要?)

(ええ)

(一目惚れ)

(陳腐ね)

(そうだね)

(でも、悪くないわね)

(恋は盲目っていうだろ)

(盲導犬が言うと皮肉に聞こえるわね)

(猫に言われるとなおさらだね)

彼と一緒にいた女性がくすっと笑った。

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