第7話 花火大会、一緒に行ってくれない?
「ただいま〜」
僕は帰宅して、ナイキのシューズを脱ぐとぱたぱたとエプロン姿の姉が玄関にやって来た。
その姉の表情はどこか綻んでいて、少々気持ちが悪かった。
なぜなら姉はよく僕のことをからかってくる。女友達も、恋人もいない僕のことを見下しているからだ。
いや、伝えていないだけで僕には今、佐藤という女子の友達はいるか。
なぜ伝えないかと言えば、単純に面倒くさいからだ。
「ねえ、今年の夏休みの花火大会は誰と行くの? またお姉ちゃんと一緒に行くう?」
僕は顔を手で覆い、嘆息を吐いた。
姉は飄々と調子づいた声音で語り掛けてくる。それが鬱陶しくて仕方ない。
一応、説明しておくが僕の体質である「不恋愛体質」は恋人同士になる可能性が少しでもあったら相手の女子が嫌悪感を持つのだ。
例えて言うのなら、毎回決まって蛙化現象が起きてしまうということだ。好き、あるいは好きになりかけていたのにひょんな行動ひとつで、白けてしまう。
待てよ、ということはつまり佐藤は僕のことを異性としては見ていないということか。
ズキン。胸が痛んだ。
あれ? どうして今胸が締め付けられたんだ。疑問が脳内にひしめく。
複雑な表情をしていたせいか、姉は顔を近づけてきた。吐息が僕の鼻にかかる。
僕はさっと顔を逸らし、「近い」と呟いた。
「ああ、ごめんねえ。お姉ちゃんで欲情するのお?」
「それだけは絶対にない」
断言する。姉弟の恋愛だけはごめんだ。
姉の湯がいてくれた素麺をすすっていると、
「本当に今年は女友達とか、恋人と花火大会行かないの?」
「多分、ないと思う」
「うん? 多分だってえ?」
「いやいや、絶対ないから」
「ふーん。まっ、いっか。今年はお姉ちゃんは彼氏と行くから轍は勝手に行きなさいよ」
「えっ、まじで?」
「そう。まじで」
姉はどこか勝ち誇った笑みを見せてくる。
だが、特に気にしてはいない。勝手にどうぞって感じだ。
翌日。僕は自転車のペダルを漕いでいた。
カーブを曲がると、町内で一番大きいショッピングモールが見えてくる。
そこの駐輪場に停めると、どこかから声を掛けられた。
「おーい、飯島くん‼」
えっ、この声は佐藤だよな。あいつ、どこだ。
一生懸命首を振って、姿を見ようとするが見えなかった。
「ここだよ」
実は駐輪場は坂を登ったところにあるのだが、坂の中腹の階段のところに、彼女――佐藤花はいた。
階段をリズム良く登ってくる。
「実はね、今日、はあ、はあ、飯島くんに会いたかったの。家に行こうかとも思ったんだけど、偶然見かけて」
息が弾んでいる佐藤。どこか、色香があった。
「どうしたんだよ。一体」
「花火大会、一緒に行かない?」
「花火大会? 行く相手がいないのか?」
すると彼女は頬を赤く染めて、
「そういうわけじゃないんだけど・・・・・・。飯島くんと一緒に行きたいなって」
僕は、このとき昨日の考えが脳裏をよぎった。
「勝手に行けばいいだろ」
「えっ」
彼女の顔が蒼白になった。
僕は罪悪感に支配されて、唇を噛んでショッピングモールへと向かった。
どうせ、恋人になれないんだったら、花火なんて見たって仕方ないだろう。
その考えを抱いてしまったから、僕は彼女に恋をしていることを自覚してしまったんだろう。
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