第8話 花火大会、迷う少年心

 あれから、佐藤は学校に来なくなった。

 空席の机を度々見やってしまう僕。

「ねえ、佐藤さんに何かしたの?」

「してねえよ」

 伊藤が僕のことを睨みながらそう言ってくる。

 机の下で、僕は握りこぶしを作った。

 ああ、苛々する。

 燦々と輝く太陽に、僕は目を背けた。


 それから一ヶ月後。

 終業式が終わり、僕は山手線に乗っていた。

 今日は花火大会で、だからなのか浴衣姿の女性が車内に多かった。

 僕はぼんやりと車窓から見える景色を見つめていた。


 どこか、気持ちがもやもやする。

 そんなときは、佐藤ではないがお菓子を食べて気分を変えようか。

 僕は新宿で降りて、改札を通り駅と隣接しているコンビニの中に入る。

 そこに売られてあったポッキーの赤い箱を手に取りレジへと向かう。

 購入したあと、僕は佐藤と初めて会った新宿御苑へと目指した。

 佐藤と初めて関係を持ったあの場所に、帰りたいと思った。

 するとぱらぱらと雨が降ってきた。

 僕は慌てて走る。そしてガチャンと二百円を払って改札を通って、屋根付きベンチを見る。

 そこには傘を持った少女が立っていた。その少女は見覚えがあった。


「佐藤・・・・・・」

 僕の声に目を丸くして驚いている佐藤。

 僕は彼女から距離を取って、ベンチに座った。

「どうしてこんなところにいるの?」

「それはこっちの台詞だよ」

 彼女は傘を差して、この場から離れようとした。

 僕はそれを見て反射的に声を出していた。

「待ってくれ‼」

 彼女は儚い顔でこちらを見つめてくる。

 でも、うまく弁が繋がらなかった。

 それを見た彼女は、悲しそうな顔をした。

「変わったね。飯島くん」


 そして彼女は去っていった。


 そのあと、さぁあと晴れてきたので、先程の雨は天気雨だったことを知る。

 でもそれを知ったところで僕は花火大会に行くのか?


 佐藤もいないのに。せっかく誘ってくれたのに。

 

 今日という日は、自分という存在がとても腹立だしく思えた。


 でも、このまま何も行動しないのか? それで僕はいいのか?


 いや、違うはずだ。僕は佐藤のことが好きなんだろ?

 だったら決まっているはずだ。行動するしかないってことを。

 僕は震える指先で女子である伊藤に連絡を掛けた。


「何ですか」

 やっぱり言葉の端々に僕に対する嫌悪感を感じる。

 それでも、僕は行動しなくてはならない。

 傷つけてしまった、彼女のために。

「佐藤って、今日の花火大会行くのか」

「行くらしいですけど。一人で出店を回るそうです」

「ありがとう」

「はいはい。じゃあもう電話を切りますね」


 ブツっと一方的に切られた。


 それから僕は走った。花火大会の会場へ向けて。

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