第3話 うまい棒、好きですか?

 僕は、ぼおっと授業を聞いていた。

 担任が何かを熱弁しているが、耳に全く届かない。

 どこか白昼夢を見ているようだ。


「ねえ君」


 僕は声のした方を見る。ポニーテールにシュシュといった平成ファッションに身をつつんだ少女がコンビニの袋を持っている。


「君ってさ、明太子ボーイだよね。くぅう、痺れるぅ、みたいなさ」


 何を言っているのだろうか。頭がおかしくなったのか。

 ちなみに僕の隣にいるその女子高生の名前は、佐藤花。

 佐藤は、授業中にも関わらず忍んでお菓子を食べる不埒ものだ。

 そして僕のことをときどき、その不埒な行動に誘ってくる。

 ちなみに僕は、『不恋愛体質』というものを

持っていて、異性から都合よくこき使われたり、ものすっごく嫌われたり、いじめられたりする。

 一生、恋愛というものは出来ない。それが僕の体質だ。

 よって、この佐藤からのからかいも『不恋愛体質』の副産物だろう。


「明太子ボーイってなに?」


 すると佐藤はコンビニの袋から、うまい棒明太子味を取り出した。


「これをね、格好良く食べるの。それが明太子ボーイ。それは名声よ」

「どこが名声だよ。そんなので盛り上がれんのは小学生までだわ」

「そうかしら」


 佐藤はどうしてか不思議そうな顔で見つめてくる。いや、不思議ちゃんキャラやめてくれ。


「だって、私、明太子味食べられないんだもん」

「どうして」

「誰にも言わないでよ。恥ずかしいんだから」

「はいはい」


 佐藤は明太子味を握り続けたままで、ボソッと、


「すっごく辛いんだもん」

「へ?」


 佐藤は僕に向けて睨み付けてきた。


「じゃあ食べてみなさいよ。明太子ボーイならば、こんなの一口で食べられるでしょ」

「長さ的に一口だと食道に詰まって死ぬわ‼ 馬鹿なことを言うのよせよ」

「じゃあ普通に」


 そう言って僕に明太子味のうまい棒を渡してきた。

 ペリペリと鋪装を外した。香ばしい匂いが教室中に広がる。

 ガリっと齧ると、隣の佐藤は目を輝かせた。


「さすが、明太子ボーイ。くぅうう、痺れるぅう‼ 私も頑張って食べてみる」


 そして佐藤も恐る恐る明太子のうまい棒を食べ始めた。

 そしたら額から汗がつぅうと垂れてきて、手で顔を仰ぎながらうまい棒を食べていた。

 どこかそれは、官能的だった。・・・・・・なぜそう思うんだ?


「佐藤、飯島、見えてるぞ。ふざけるなよ。ちょっと廊下に行って反省してこい」


 担任の叱咤に、粛々と頭を下げながら僕たちは廊下へと向かった。

 そして廊下で、ボソッと佐藤は言った。


「飯島くんのおかげで苦手が克服できた。ありがとうね」

 僕はその言葉を聞いて、恥ずかしすぎてなにも答えられなかった。

 ああ、自分いま、すごい青春してるな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る