第12話:三人の英雄
黒煙と砂埃が舞い上がり、視界が悪くなる。
真正面からまともに受けたのなら、いくら勇者であろうともただでは済まないと思う。
「……む? うおっ!?」
そう思っていると、黒煙と砂埃の中から炎の刃が飛び出してきた。
イボエルも驚きと共に迎撃するが、直後には別の何かが飛び出してくる。
「影縫い!」
「ん? 動けない?」
「シャドウ殿か!」
どうやら助けに来たみたいだ。
他の戦場にいただろう、三人の英雄たち。
「あれ? 動ける?」
「おかしいわね~? 死んでないわ~?」
「さっさと戻って勇者様を守りなさい!」
俺の影縫いで動きを阻害された小柄な英雄は困惑気味だったが、魔法を放った巨乳の英雄と、妖艶な英雄が怒声を響かせた。
「シャドウ殿がどうしてここにおるのだ?」
「嫌な予感がしたもので、こちらに顔を出したところでした」
「……ふむ、そうか」
若干疑いの眼差しを向けられたものの、目の前に新たな敵が現れたこともあり、イボエルは深くは考えずに視線を正面に戻す。
「よくもわたくしたちの勇者様を苛めてくれたわねぇ?」
「あらまあ、大きな男性に、くら~い感じの男の子。悪い子ですね~」
「……? ねえ、さっき体が急に動かなく……んー?」
勇者に回復魔法をかけている妖艶な英雄、聖女のシルク・アレバズ。
魔法を放った天然巨乳な英雄、賢者のリンディア・イーボン。
小柄でロリっ子な英雄、剣聖のルミナ・ジョタン。
彼女たちが三人の英雄であり、勇者が言っていたハーレムの正体なのだろう。
「あなたたち、さっさとこいつらを殺してしまいなさい!」
「どうしてあなたが仕切っているの~?」
「んー……んー…………んー?」
目の前に死四天将がいるというのに、何やら言い合いを始めたり、自分の中の疑問と戦っていたり、とても自由な三人だ。
だが、そんな彼女たちが三人の英雄なのだから、人は見た目では分からないものである。
「貴様らは何者だ!」
「わたくしたちは勇者様のパーティメンバー!」
「聖女のシルクちゃんに~、剣聖のルミナちゃん! そして私が賢者のリンディアちゃんで~す!」
「……うん。僕たち、三英雄」
イボエルが怒声を響かせると、堂々とした態度でシルク、リンディア、ルミナが答えた。
「三人の英雄だと? はっ! 聞いたことがないわ!」
「英雄というのは本当ですよ、イボエル様。彼女たちは、勇者召喚と同時に力に目覚めた三人の英雄たちです」
俺の説明を聞いたイボエルは驚きの表情を浮かべているが、やり取りが聞こえていたのか、英雄たちがこちらを向く。
「なんであんたがわたくしたちのことを知っているのかしら?」
「あらら~? 不思議ですね~?」
「……僕たち、知ってる?」
おっと、警戒心を強めさせてしまったか。
だが、これでいい。勇者に意識が向いたままだと、そのまま回復されてしまって、シナリオ通りだったなら一対四でイボエルが負ける未来しかなかったわけだし。
とはいえ、すでに勇者の傷の大半は回復されてしまっている。
苦戦は必至かもしれないが、今回は勇者がまだ全快ではなく、こちらには俺もいる。
倒すことはできなくても、追い返すことはできるかもしれない。
……いや、やらなければならないんだ。
「……あんた、怪しいわね?」
「魔法でどっかーん! ってしちゃおうかしら~?」
「……斬っていい? いいよね?」
「来るぞ、シャドウ殿!」
「分かっています!」
シルクがリンディアとルミナに強化魔法をかけると、その二人が臨戦態勢に入る。
イボエルが声を上げながら拳を握り、俺も影魔法の準備に入った。
「ひ、引くぞおおおおおおおおっ!!」
「「「「「…………え?」」」」」
そこへ勇者の大声が、戦場中に響き渡った。
だけど、今のはまさか……聞き間違いだよな?
「……ゆ、勇者様?」
「……あら~? 引くのかしら~?」
「……斬っちゃ、ダメ?」
英雄たちも困惑気味に勇者へ確認を取っている。
「俺様が引くといったら引くんだ! いいか、引くぞ!」
ふらふらと立ち上がった勇者は俺たちを睨みつけると、すぐさま踵を返して歩き出してしまった。
すると英雄たちも一度顔を見合わせたあと、仕方なさそうに勇者を追い掛けて行ってしまう。
「……これは、どういうことだ、シャドウ殿?」
「……えっと、俺にもよく分かりません」
困惑している俺とイボエルなのだが、それは王国軍も同じだった。
「ど、どうなっているんだ?」
「俺たち、引くのか? また、負けたのか?」
「勇者様や英雄様たちがいなかったら、どうしようもないもんな?」
結果、王国軍は全軍を引き、今回の戦争もなんとか魔王軍が勝利した。
「……あの勇者、いったい何がしたかったんだ?」
勇ボコのストーリーを知っているだろう、謎の口が悪い金髪勇者。
もしかすると今回は、ストーリー通りに事が進むと踏んで何も考えていなかったのかもしれないが、次からは違うだろう。
俺がやっているようにストーリーを捻じ曲げてでも王国軍に勝利をもたらそうとするかもしれない。
ハーレム……が訪れるかは知らないが、それを目標に努力を始めるかもしれない。
そうなった時、俺はもっと強くなっていなければならないはずだ。
「助かったぞ、シャドウ殿! がはははは!」
「無事でよかったです、イボエル様」
そして、俺だけではなく、死四天将や他の魔王軍も強くならなければならない。
俺の知識でどこまでできるかは分からないが、俺は俺の新しい居場所を守るため、できる限りのことをやり遂げようと、ここに誓ったのだった。
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