第13話:勇者視点①
……くそっ、くそっ! くそったれが!!
「ど、どうしたんですか、勇者様?」
「そうですよ~? 勇者様らしくないっていうか~?」
「……斬りたかった」
「うるさい! ここでお前たちを失うわけにはいかないからな! あそこは退いておくべきだったんだ!」
こう言っておけば、こいつらは俺の言うことを信じてくれるはずだ!
「……わ、わたくしたちのためだったのね!」
「そうだったの~? 嬉しいわ~!」
「……斬る、危なかった?」
「そ、そうだ! お前たちのためだからな! 今日はあれだ……し、下見みたいなものだからな!」
そうだ。こいつらは、俺の言うことを一切疑うことなく信じてくれる。
それは俺が勇者だからであり、主人公だからだ。
そう、俺は勇ボコの勇者なんだ!
……それなのに、どうしてストーリー通りにいかなかったんだ? イボエルは最初の戦争で死ぬはずだったじゃないか!
「……それに、あいつはいったい誰だ? あんな奴、見たことがないぞ?」
シャドウと呼ばれていたあいつは、いったい誰なんだ?
「さっき兵士たちが話しておりましたが、皆さんも初めて見る魔族だったらしいですわよ?」
「新しい将軍級、ということかしら~?」
「……斬りたい!」
兵士たちも知らないということは、今まで表に出てきていない実力者だということだろう。
だが、勇ボコの勇者視点にはそんな奴出てこなかった。
……ちっ。こんなことなら、魔王視点もやっておくんだったな。
俺が勇ボコをプレイし始めたのは、発売してから半年くらいが経ってからだった。
その時点で勇者視点だけをやれば最高のゲームだというレビューを見ていたから、その通りにプレイして、魔王視点は一切やっていなかった。
だって、そうだろう? わざわざ最低なシナリオだと言われている魔王視点をプレイするだなんて、時間の無駄に決まっている。
そんなことをする奴は、リアルが寂しい負け組に決まっているんだからな。
「……俺様は勝ち組だ。だからこそ勇者に選ばれたんだからな!」
そうだ。俺は勇者だ。
今回の負けは負けじゃない。さっきも言ったが、これは下見だ。
勇ボコのストーリーではあるが、その通りに進むかどうかを確かめたに過ぎない。
事実、今回の戦争でイボエルを殺すことができなかった。これはストーリーを変えることができると決まったも同然じゃないか!
……そう、俺はこの世界でハーレムを築く!
「……あ、あら? どうしたのですか、勇者様? そんな情熱的な視線を向けてきちゃって?」
「照れてしまいますよ~? ……嫌いじゃないですけど~?」
「……ん?」
こいつらだけでもいろいろと楽しませてもらえそうなのに、勇者ならそれ以上の楽しみも期待できる。
勇ボコの勇者視点、そのラストは魔王を倒して平和が訪れるという、ごくごく平凡なものだった。
確かにレベル上げも楽に進み、ストレスなくクリアすることはできたが、俺には物足りないものだった。
それは何故か――エロが足りなかったからだ!
勇者に熱い視線が注がれる? 腕を掴まれて胸が当たる? 肌と肌が触れ合う? それだけで満足できるわけがないだろう!
微エロでは足りない、俺にはハーレム要素が必要なんだ!
俺が勇者になったなら、俺だけの勇ボコのストーリーを、そのラストを作り出してみせる! それこそがハーレムなのだ!
「……へへ、なんでもねぇよ。とにかく、今回は下見だ。ひとまず引いて、王様に報告だ。次は絶対に勝利をプレゼントしてやると、伝えなきゃならねぇからな」
「さすがは勇者様ね! うふふ、信じてるわよ?」
「次こそはぶっ飛ばしてやるんだからね~!」
「……斬る、斬る!」
今はまだ、勝利を喜んでおくんだな、イボエル! そして、魔王!
てめぇらは俺の理想の未来のため、踏み台にしてやるぜ!
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