第11話:勇者の魔力

「おおおおっ! なんだこれは! これが貴様の切り札か、勇者!!」


 ……おいおい、マジか? お前、本当に勇者なのか? いやまあ、金色の魔力を発している時点で勇者なんだけどさ。

 魔族も人間も、それぞれが大なり小なり魔力を保有しており、それぞれの色を持っている。

 イボエルなら暑苦しい紅の魔力を、アリスディアは漆黒の魔力だった。他の死四天将も同じだ。

 時折似たような色のオーラを持つ者もいて、俺は黒い魔力だ。

 しかし、勇者が持つ金色のオーラだけは別だ。

 金色のオーラは勇者固有のものであり、似た色も存在しないはず。

 だから目の前のこいつが勇者であることに間違いはないのだが……この状態は、魔力暴走を起こしている。

 仮にも勇者だ。魔力だけではなく、全てのことにおいて器用に使いこなすことができるはずで、自らの剣に魔力を纏わせた魔法剣なんかも得意としている……はずなんだけど。


「来るな! こいつ、マジで何なんだ! さっさと死ねよ! 来るな、来るなああああっ!」


 ……あぁ、あぁ。金色の魔力を適当に飛ばしちゃって、魔力の無駄じゃないか。

 最初こそイボエルも興奮していたけど、段々と気持ちが萎えてきているように見える。


「……貴様、本気でやっているのか? 命のやり取りを、舐めているのか?」

「う、うるさい! こんなはずじゃなかったんだ! 俺は勇者なんだぞ、勝利は確定していたはずなんだ!」


 ……勝利が確定? こいつ、何を言っているんだ?


「戦争に確定した勝利などない! 常にぶつかり合い、戦った先に見えてくるものが勝利であり、敗北なのだ!」

「知るか! 何なんだ、これは! こんなシナリオ・・・・、俺は知らないぞ!」


 ……シナリオ、だって?

 なるほど、そういうことか。

 あくまで異世界からの、日本から召喚される勇者というのは、俺が知っている日本ではなく、システム上の日本からだと思っていた。

 だが、実際は違ったのだ。

 この勇者は間違いなく――俺と同じ日本から召喚された勇者なんだ!


「お前らは俺の手で殺されるだけの、単なるキャラクターじゃないか! モブじゃないか! 俺は勇者だ! さっさと死ね! 俺様のハーレムの邪魔をするなああああ!」


 ……………………ハーレムだって? こいつ今、ハーレムって言ったか?

 確かに勇ボコの勇者は人気者だった。そして、力に目覚めて一緒にパーティを組んでいた三人の英雄も全員、女性だった。

 だけど、そんなハーレム要素なんてあったか? ……いいや、なかったはずだ。

 まさかこいつが、こんな奴が、俺の知らない勇ボコのストーリーを、分岐を知っていたのか?


「……許せない!」


 勇ボコに一番詳しいのは俺だ、俺のはずだ! 攻略サイトにも一番投稿していたし、投稿した内容へのいいねの数も俺の記事が一番多かったはずだ!

 勇者視点のストーリーも何度も、何度も何度も、繰り返し繰り返し、攻略したんだ!

 その中にハーレム要素が含まれたエンドなんて、一つとしてなかった!

 それにこいつ、なんて言った? 魔王軍のみんなを、勇者に殺されるだけの単なるキャラクターって言ったか? モブって言ったか?

 ……俺が言えたことじゃないけど、私利私欲のためにストーリーを無理やり書き換えるつもりなら、絶対に叩き潰してやる!


「魔王軍も、王国軍も、単なるキャラクターじゃない。この世界を、勇ボコの世界を織りなす、大事な存在なんだ!」


 勇者が放つ金色の魔力は適当に飛ばされている。

 イボエルにはまったく影響はないものの、他の魔王軍には迷惑極まりないくらいの威力を持っている。

 それが様々なところに着弾しては爆発を繰り返している。

 これ以上は、好き勝手をやらせない!


「影魔法――ブラックホール」


 イボエルは呆れた様子で勇者を見ており、金色の魔力の行方を追っていない。

 このタイミングで俺は、金色の魔力を吸収するための影魔法、ブラックホールを発動させた。

 被害が大きくなりそうなところの魔力はブラックホールで吸収し、そうでないものはそのまま着弾させていく。

 突然、爆発音がなくなってしまったら、イボエルが怪しんで振り返るかもしれないからな。


「……もう、飽きた。貴様は俺の拳で、叩き潰してやろう!」

「う、うわああああああああっ!?」


 戦うことが大好きなイボエルが、勇者との戦いに飽きてしまった。

 それはイボエルが勇者を強敵だと認めていたからであり、それが期待外れに終わってしまったからだ。

 イボエルの拳には膨大な紅の魔力が込められていき、溜まりきったところで燃え上がるようにして膨れ上がった。


「食らえ! 紅豪飛拳こうごうひけん!」


 イボエルはその場から一歩も動くことなく、中段突きのように紅の魔力が燃え上がっている右拳と突き出した。

 すると、紅の魔力が拳の形となり、それが勇者めがけて飛んでいく。


「ひ、ひいいいいいいいいっ!?」


 紅豪飛拳を見た勇者が情けない悲鳴を上げた。

 そして――勇者は何もできないまま、紅豪飛拳を真正面から食らっていた。

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