第4話:獄炎将軍イボエル・タンサ
廊下に出て歩いていた俺だが、実のところどうしたものかと思案中だ。
それは何故か――イボエルに話が通じるか、そこが一番の問題だからだ。
獄炎将軍イボエル・タンサを簡単に言葉で表すとするなら、
イボエルの発言は思考がそのまま口から飛び出しているもので、考えての発言ではない。
名前のイボエル・タンサも、おそらくだが
さすがに戦争のことであれば少しは話も聞いてくれると思っているのだが、どうだろうか。
「……まあ、あれでも死四天将の一角だからな。きっと大丈夫だろう」
そんな淡い期待を抱きながら俺はイボエルの部屋に到着した。
――ドンドン。
しかし、アリスディアの部屋もそうだったけど、相も変わらず豪奢な扉だな。
心は日本人である俺からすると、ここまで豪奢にする必要があるのかと思えてならない。
……まあ、勇者視点で見て王城はもっと豪奢でキラキラしていたから、まだマシな方かもしれないけど。
――バンッ!
「どわあっ!?」
そんなことを考えていると、豪奢ででかい扉が勢いよく開かれた。
「誰だ!」
「あー……魔王会議ぶりです、イボエル様」
目の前で見ると……イボエルって、めっちゃでかいな。それとも、俺の身長が低いのか?
公式が発表していたイボエルの身長は二メートル五〇センチ……うん、こいつがただでかいだけだわ。
「ん? なんだ、シャドウ殿ではないか! どうしたんだ?」
「実はイボエル様にお願いと相談がありまして、中に入ってもいいですか?」
「もちろんだ! がはははは!」
い、今の会話の中に笑う要素なんてあっただろうか?
そんなことを思いながらイボエルの部屋に入ると、そこは質実剛健……とも言い難い、完全に寝るだけの部屋を体現したような光景が広がっていた。
「……ベッドに、机と椅子だけ?」
「食う! 寝る! 食う! 寝る! それ以外に必要ないだろう! がはははは!」
「……はは、ははは」
……ヤバい。話が通じる気がしなくなってきた。
「さあ! 言うんだ! 俺への願いと相談を!」
…………何故だろう、こちらから訪ねてきたのに、言いたくなくなってきた。
しかし、イボエルは俺の両肩をがっしりと掴んでおり、このまま去るという選択肢は現状、選ぶことができないっぽい。
「……ま、魔王様にも話はしているんだけど、早ければ三日後、王国軍が侵攻してくると思うんです」
「なるほど! 殴り殺せばいいんだな! 納得だ!」
「納得するな!」
「なんだと! ならば蹴り殺すのか!」
「違う!」
「魔法は使えんぞ! ならば突進だな! 俺の肉体は鋼のように硬いからな! がはははは!」
こいつ……マジで話にならないぞ!
「違うから! 王国軍は異世界の勇者を召喚している! だからもっと慎重になってほしいんだよ!」
「異世界の勇者だと! がはははは! 張り合いのある奴が来てくれるんだな!」
俺はいったいどうやってイボエルを説得したらいいんだろうか。マジで会話が成り立たない。
……こうなったら、説得の仕方を変える必要があるな。
「そ、そうなんだ! 張り合いのある奴が来てくれるんだよ!」
「だよな! ならばやはり殴り殺す必要が出てくるだろう!」
「でも、せっかく張り合える奴が来てくれるのに、すぐに殺してたんじゃあ、すぐにまたつまらなくなってしまうんじゃないか?」
押してダメなら引いてみろ……ではないが、楽しみは長く取っておきたいんじゃないか作戦に切り替えてみた。
「そんなことはないさ! 常に全力! それにまたすぐに張り合いのある奴が出てきてくれるはずだ! がはははは!」
前言撤回、これは無理だ。
「……そ、それじゃあ、死なないように頑張ってくれ。たくさん殴り合いたいだろう?」
「俺を倒せるくらいの奴が来るのか! ならばそうだな! たくさん殴り合えるよう、気をつけるとするか! がはははは!」
……え? 今、気をつけるって言ってくれた?
「き、気をつけてくれるのか?」
「もちろんだ! 楽しみながら、長く殴り殺したいからな! がはははは!」
…………こ、ここまで悩んでいた俺の時間を返してくれ!!
「そ、それじゃあ、よろしく頼むな」
「任せろ! がはははは!」
楽しそうに笑っているイボエルの部屋を、俺は苦笑いしながら出ていく。
廊下に出てすぐに大きく、そして長い溜息を吐いてしまったが、気をつけると約束してくれたのだから問題ないだろう。
本当なら他の死四天将に協力を仰ぎたいところだが、彼らには彼らの持ち場があるからな。
簡単に動かせる戦力ではないし、それをしてしまうと勝利できる戦場で敗北してしまうかもしれない。
シナリオ外のところで何か起きてしまうと、俺にはもう対処できないからな
まずはイボエルを生き残らせることを目標にして、それ以降はまたその時に考えるとしよう。
「……本当に、大丈夫だよな?」
最後に俺はそう呟きながら、イボエルの部屋の大きな扉を横目に見るのだった。
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