第3話:魔王アリスディア・グオウル
「……あなた、本当にシャドウなの?」
直後、魔王の雰囲気が不穏なものに変わった。
それはそうだろう。今の俺のリアクションは、シャドウというキャラのものとは異なっている可能性が高いからだ。
「えっと、本物ですけど……?」
「……まあ、そうか。それもそうよね」
しかし魔王は俺が「本物」だと言うと、すぐに信じてくれた。
……本当にありがとう、シャドウ。お前が信頼を得ていてくれたから、俺は生きることができました。
「それで、今日はどうしたの? 片づけが終わったことの報告かしら?」
美しいロングの銀髪を揺らしながら、魔王は大きな瞳をこちらに向けてくる。
「それもありますけど、これからのことを相談したいと思いまして」
「これからのこと? ……えっと、それはその、そういうことかな?」
……そういうこととは、どういうことだろうか? 何故に魔王は顔を若干赤らめているのか?
「……その、王国軍の侵攻に対しての対策についてですね」
「…………もう! そういうことならそうとはっきり言いなさいよね! バカ!」
……え、えぇぇ~? 今のって、俺が悪いのか?
「と、とにかく、そういうことなんだけど、いいかな?」
「……まあ、みんなのためだもんね。いいわよ、聞いてあげるわ」
聞いてあげると言いながら、そっぽを向くのはどういうことだろうか。
まあ、聞いてくれるならありがたいし、勇ボコのシナリオを
「俺の予想だと、王国軍が三日後に侵攻してくる」
「結構速いのね。でも、対処は完璧でしょう?」
「さっきの魔王会議でか!? 本気で言っているのか!!」
……おっと。思わず本音を口走ってしまった。
「……どういうことかしら、シャドウ?」
「えっと、それは、その……」
ヤバい。本物のシャドウは、こんなこと言わないのかも?
「そういうことならなんで魔王会議の時に言わないのよ!」
「……いや、その、死四天将もいたし、俺が出しゃばるのは違うかなって」
「あなたは私の参謀なんだから、遠慮しないで発言してって言ってるわよね!」
あ、俺ってやっぱり参謀なのね。そこがはっきり分かってよかったわ。
「まあまあ、落ち着いて。それで、今回に限っては力押しだと俺たちが負けるって言いたいんだよ」
「私たちが負けるですって? 今日に至るまで連戦連勝の魔王軍が?」
そう、その傲慢から魔王軍の連戦連敗が始まるんだ。
日本から勇者が召喚されると、それに呼応したのか秘められた力を解放した三人の英雄が誕生する。
勇者と三人の英雄が死四天将を各個撃破し、最終的には魔王も倒されてしまう。
ストーリーだけを見れば単純明快なものだが、ノーストレスで最初から最後まで、それも短時間でやり切れてしまうのだから、人気になるのも分かる気がする。
配信者がRTAを競ったりもしていたし、その影響もあったんだろうけど。
「今回の王国軍は一味違う」
「何がどう違うって言いたいの?」
当然の疑問だが……さて、どう説明したものか。
事実としては俺が勇ボコのストーリーを全て知っているからなのだが、これをそのまま説明したとして信じてもらえるだろうか。
……うん、無理だろう。俺だったら信じないし。
それなら勇者視点の内容を思い出していこう。
勇者召喚を行う時、ものすごい光が王城を包み込んでいたはずだ。それなら……。
「……人間の王がいる城で、強烈な光が観測された。あれはおそらく、異世界の勇者を召喚したんじゃないかと俺は見ている」
「異世界の勇者ですって!? まさか、そんなことが!!」
魔王が驚きの声を上げると、俺はここだと言わんばかりに言葉を続けていく。
「勇者を召喚した王国軍はすぐに鍛え始めるだろう。するとどうだ、勇者というからには元々のポテンシャルもさることながら、吸収力も高く一気に実力が開花、あっという間に侵攻を開始する……んじゃないかと、俺は予想しているんだ」
「……な、なんだか、見てきたような説明ぶりね」
「あ、あくまで予想だからな? 本当にそうなったらヤバいから、対策をしたいんだよ」
ここが本当に勇ボコの世界なら、予想とは言ったが間違いなく起きることだ。
本当は三人の英雄についても伝えておきたかったが、それを言うと本当に見て来たんじゃないかと疑われかねない。
だって、三人の英雄は勇者召喚が行われた翌日に誕生するシナリオになっているんだからな。
「うーん……分かったわ。最悪の場合にはそうなるかもしれないし、対策を考えましょう」
魔王がそう口にすると、俺は次に向かうべき相手の名前を口にする。
「ありがとう。とはいっても、対策はもう考えてあるんだ」
「もう!? ……まったく、あなたは本当に優秀な私の参謀ね」
これは褒められているん、だよな?
まあ、俺だけの知識じゃないから素直に喜んでいいのか分からないけど、できることはやっておかないとな。
「勇者が最初に狙うのは、おそらく獄炎将軍のイボエル・タンサだろう」
「イボエルが? ……その根拠は?」
「イボエルは常に最前線に立ち、多くの王国軍を屠ってきている。今回の戦争でも最前線に立つとなれば、王国軍の指揮を高めるため、そして魔王軍の指揮を低下させるため、イボエルを真っ先に倒しに来るはずだ」
事実、勇ボコのシナリオでは最初に殺されるのがイボエルだった。
先ほどの魔王会議でも発していたように、王国軍を殴り殺しに向かったところを返り討ちに遭ったのだ。
勇者、三人の英雄から集中攻撃を受けて、何もできずに死んでしまった。勇者視点からすれば完全なるノンストレスだ。
……だけど、魔王視点からすれば、死四天将の一角が殺されたことで、大きく士気が低下した。
それからの戦争は酷い有様だったので、三日後の戦争では絶対にイボエルを助けなければならない。
「というわけで魔王様。俺はイボエルのところに行ってきます」
「待ちなさい、シャドウ」
部屋を出ていこうとした俺は、魔王に呼び止められて振り返る。
「……なんですか?」
「どうして名前で呼んでくれないの?」
「……名前で、ですか?」
いや、まあ、俺は魔王の名前を知ってはいるけど、おいそれと呼んでいいものではないと思っていた。
もしかしてシャドウって、普段から魔王のことを名前で呼んでいたのか?
「……そ、それじゃあ……いってきます、アリスディア様」
「……様~?」
え? 様付けもダメなの?
「……いってきます。…………ア、アリスディア」
「いってらっしゃい、シャドウ」
魔王、アリスディア・グオウルに見送られながら、俺は獄炎将軍イボエル・タンサの部屋に向かった。
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