第2話:状況の整理
さて、そうなるとまずは状況を整理する必要がある。
ゲームのシナリオ通りなら、今は勇ボコのプロローグだろう。
勇者視点では勇者が日本から召喚されたところ、魔王視点ではこの通り、会議とは言えないやり取りの魔王会議を終えたところだ。
こんなんだから勇者たちにボコボコにされるんだと思わなくもないが、シナリオ通りなのだから仕方がないとも言えるだろう。
……俺はそんなシナリオ通りに進んでいるストーリーを、ぶっ壊さないといけないのか。
「……できるよな、ぶっ壊すこと?」
思わず呟いてしまったが、そうしなければ俺は確実に痛い目に遭ってしまう。最悪の場合、勇者たちに殺されてしまうかもしれない。
それだけは絶対に避けなければならない。
「ってかこれ、異世界転生とか、そんな感じだよな? 俺、死んだのか? そんな記憶はないんだけどなぁ」
ため息交じりにそう呟いた俺は、隠者黒子だった頃のことを思い出そうとした。
「……うん。普通に寝てただけだよな。まあ、真夏にクーラーもなくて、扇風機の熱風を浴びながらだったし……え、熱中症? もしかして、誰にも知られずに死んじゃった感じか?」
…………よし。分からないことを考えても意味がないな!
こっちが現実になってしまったのなら、こっちのことを考えるべきか!
「年齢イコール彼女なし歴。悔いはあり過ぎるけど、どうにもならないしな」
そう自分に言い聞かせながら、もう一度勇ボコのストーリーを思い出していく。
プロローグが終わると第一章が始まり、勇者たちはレベル上げパートに移っていく。
まあ、簡単に言えば道端でエンカウントするモンスターを倒すだけなのだが、勇ボコはそこがとても簡単なのだ。
レベルも簡単に上がっていくし、上昇するステータスも桁が違う。さすがは勇者だと、モブキャラが何度も繰り返してたっけな。
ストレスなくレベル上げが終わってしまうので、勇者率いる王国軍が侵攻してくるのも早い。
「……王国軍が侵攻してくるまで、三日か」
残り三日で、俺は勇者率いる王国軍を倒すか、最低でも跳ね返せるだけの力を魔王軍に付けさせなければならない。
それをするためには、どうしても魔王の力は必要となってくる。……いや、正確に言えば、魔王からの信頼だろうか。
俺の好き勝手を許してくれるくらいの信頼が得られれば、最初の侵攻を跳ね返すくらいはできると思う。
あれは正直、完全な力押しだったもんな。
レベル上げと同じく、ストーリーを進めるストレスも可能な限り削ぎ落したかったんだろう。
勇者視点のストーリーで唯一賛否が分かれたのも、そこだったもんな。
「さて。片付けも終わったことだし、魔王のところに行ってみるか」
……行って、いいんだよな?
一応、魔王会議に参加できる人物みたいだし、面会も問題ないと思いたいんだが。
もしも面会を断られでもしたら、その時点で魔王軍は詰んでしまう。
何せシナリオ通りに進むなら、間違いなく王国軍に蹂躙されてしまうからだ。
「頼むぜ、シャドウさんよ」
俺はそう呟きながら会議室を出ると、その足で魔王の部屋へと向かう。
……魔王城、こんな感じなんだな。
画面越しに見ていたら薄暗いだけのでっかい城ってイメージだったけど、廊下はとても広いし、天井は高い。
さらに壁や天井には細かな細工が入れられており、素人目にも芸術的な建物のように見える。
こんなにも芸術的な城が最終的には全壊するだなんて、想像したくないな。
そんなことを考えていると、魔王の部屋の前に到着した。
「……さて。鬼が出るか蛇が出るか。当たって砕けろだ!」
俺は自らに言い聞かせ、一度深呼吸を挟んでから、豪奢な扉を叩いた。
――ドンドン。
『――……誰だ?』
部屋の中から、魔王の野太い声が聞こえてきた。
「シャドウです。少しお話があるのですが、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
シャドウがどんなキャラなのか分からず、俺は付け焼き刃なビジネスマナーを駆使して用件を伝えた。
『――シャドウだと!? ちょっと待て、すぐに準備をする!』
「……? あ、ありがとうございます」
何やら慌てているような雰囲気を感じつつ、中からガチャガチャと甲冑が動き回っている音が聞こえてくる。
時折『ガシャン!』と何かが倒れる音が聞こえてくるのは気のせいだろうか?
そんなことを考えながら待ち続けること約五分。ようやく扉が開かれた。
「……ま、魔王、様?」
部屋の中から顔を出したのは、甲冑の中に隠していた魔王の本当の姿だった。
「は、早く入りなさい! 他の配下に見られちゃうでしょ!」
「……え? あ、すみません! すぐに入ります!」
まさかシャドウが魔王の本当の姿を見たことのあるキャラだとは思わず、俺は慌てて言われた通りに中へと入る。
魔王も慌てて扉を閉めたのだが、その時に俺は気づいてしまった。
…………え? 美少女の部屋に、二人きり?
「か、片づけは終わったの、シャドウ?」
「……」
「……聞いているの、シャドウ!」
「は! し、失礼いたしました、魔王様」
思わず見惚れてしまった俺は、魔王に再度名前を呼ばれたことで我に返った。
……さて、気を取り直そう。
ここで魔王からの信頼を得られなければ、全てが終わってしまうのだから。
「……本当にどうしたのよ、シャドウ?」
……か、可愛い! 上目遣いに俺を見てくる魔王、可愛い!
これはもう、すでに信頼されているんじゃないだろうか、シャドウ! お前が羨ましいよ! 今は俺だけど!
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