悪役転生〜俺は魔王様の黒子です〜

渡琉兎

第1話:魔王会議……?

「これより、魔王会議を始める!」


 そう宣言したのは、銀色の巨大な甲冑を身に纏った魔王だった。

 この場には魔王の他に、死四天将と呼ばれている魔王軍の四人の将軍、そして……俺だ。


「んなもん、人間どもを殴り殺したらいいんだろ! がはははは!」


 自信満々にそう告げたのは、燃えるような赤髮が特徴的な大柄な男性、獄炎将軍のイボエル・タンサだ。


「野蛮すぎるわ。もっと華麗に、エレガントに、一瞬のうちに氷漬けにしてしまえばいいのよ」


 続いて口を開いたのは、青髪と色白の肌が特徴的で、何よりお胸に目が向いてしまう女性、絶対零度のレイド・エルーザ。


「僕だったら風で飛ばして、雷でドーン! それで終わりだけどねー!」


 明るい声を発したのは、緑色と黄色の髪とオッドアイをしている、少年の見た目をした、風雷坊主のボルズ・テルティ。


「……任せる」


 最後に一言だけ発したのは、漆黒の鎧を身に纏った死四天将最後の一人、ブラックだった。


「全く、お前たちの意見はいつも変わらないな! あはははは!」

「「「「あはははは!」」」」


 そう、これはいつもの光景……のはずだ。

 魔王も当然のように笑いながらそう口にし、死四天将も同じような笑い声を会議室に響かせる。

 そんな光景を俺は、魔王が腰かけている玉座の後ろから、困惑しながら眺めていた。

 ……いや、マジでさ、なんでこうなったの? 俺、ただの大学生なんですけど?


「お前もそう思うだろう、シャドウ?」

「……」

「……どうした、シャドウ?」

「え? あ、はい、そうですね! あは、あははー!」


 ……俺、シャドウってキャラなのか。

 いきなり魔王に声を掛けられてしまい、慌てて空笑いしてしまった。


「それでは魔王会議を終了する! 解散!」

「「「「はっ!」」」」


 こうして魔王会議は、ものの数分で終了となり、会議室から一人、また一人と死四天将が退出していく。


「……どうしたのだ、シャドウ?」

「え? な、何がですか?」

「いつものお前ではなかった気がしてな」

「そんなことはないと思いますよ?」


 内心でドキッとしながらも、俺はなんでもない風を装いながら答えた。


「そうか? ……なら、いいが」


 巨大な甲冑を身に纏っているせいか、コテンと首を傾げた魔王の姿に違和感を覚えてしまう。

 ……この甲冑の中身が、まさか絶世の美女だなんて、普通は誰も思わないよなー。


「それでは我も部屋に戻る。片づけは頼むぞ、シャドウ」

「かしこまりました」


 こうしてガチャガチャと音を立てながら魔王が退出するのを見届けた俺は、盛大に頭を抱えながら状況を整理し始める。


「……待て待て待て待て! 俺はただの学生だよな! 隠者いんじゃ黒子くろこって名前の二〇歳じゃなかったのかよ!」


 そう、俺はただの大学生だったはずなのだ。

 普通に大学へ通い、仲の良い友人とふざけあいながらも楽しく遊び、時にはふざけすぎて先生に怒鳴られるような、そんな普通の大学生だったはず。

 それがいったい、何がどうなってこうなった? ここはどこなんだ? いや、なんとなく分かるんだけど、どうして俺がここにいるんだ?


「……この世界、間違いなく『勇ボコ』の世界だよな?」


『勇者が魔王をボコボコにするまで』というRPGゲームで、『勇ボコ』と略されて呼ばれていた。

 勇者視点のストーリーと、魔王視点のストーリーがあり、その中でも勇者視点のストーリーが大人気となっていた。

 それは勇者を自分に置き換え、魔王をボコボコにするという優越感に浸れると共に、サクサクと進むストーリーと難易度に、ストレスを感じなかったからだと言われている。

 しかし、勇ボコはそんな中で今年一番のゲームの頂点を決める祭典で、まさかのクソゲーアワードの大賞を受賞してしまっていた。

 大人気のはずが何故クソゲーアワードの大賞を受賞したのか。それは――魔王視点のストーリーがクソほど面白くなかったからだ。


「そんな中で俺は間違いなく魔王側! ということは――勇者にボコボコにされる方だよな!」


 っていうか、シャドウなんてキャラいたか? いなかったよな!

 だって俺は勇ボコを隅から隅までプレイした自信があるんだよ! それくらい勇ボコにハマったんだからな!

 だってさ、俺はクソゲーアワードの大賞を受賞した原因でもある魔王視点のストーリーもクリアして、さらには隠し要素がないかまで、完全攻略を目指していた人間だぞ!


「……そんな俺が知らないキャラとか、なしだろぉぉぉぉ~」


 そして俺は、最終的に大きく肩を落として息を吐き出した。


「はああぁぁぁぁ~。……これ、夢じゃないよな?」


 そう呟いた俺は、おもむろにほっぺをつねってみる。……うん、痛いわ。


「……はああぁぁぁぁ~。痛いのは、嫌なんだけどなぁ~」


 俺は痛いのが嫌いだ。注射ですら今でも嫌だと声を大にして言いたくなるくらいだしな。……まあ、大人だし実際には言わないけど。

 だから、勇者にボコボコにされる未来が確定しているだなんて、絶対に耐えられない!


「…………いや、待てよ? 俺は勇ボコのストーリーなら誰よりも把握しているわけだし、勇者たちがどうやって攻めてくるのかも分かっちゃってるんだよな?」


 ……ということは、それを逆手にとって勇者たちを追い返すことも、もしかしたら倒してしまうこともできちゃうんじゃないか?


「……いや、できちゃうじゃない。やらなきゃダメだ!」


 痛い思いなんて、絶対にしたくない!


「決めたぞ! 俺は今日から、よく分からないけどシャドウって奴に成り代わって、魔王軍を勝利に導いてやる!」


 魔王会議にも顔を出せる人物ってことは、きっと参謀とか、そこらへんのキャラなんだろう! 知らんけど!

 それならきっと、魔王にも進言くらいはできるはずだ! マジで知らんけど!


「やってやる! 俺はやってやるぞ!」


 どうしてこうなったのかは分からないが、こうなってしまったのだから仕方がない!

 俺は気持ちを切り替えて、勇ボコの魔王軍参謀……であろう、シャドウとして生きていくことを誓った。

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