第1章5 Operation Table Dragger II
〔ユーレイン連邦海軍 第3艦隊 艦隊司令官
〈ユーレイン西海岸 フォード島より約35km東 ―― 艦隊旗艦 プリンツ・オイゲンⅡ
「コーヒーでも入れますか、司令?」
すると私の副官 ―― エーリテス・カナリー少佐がそう尋ねて来た。
「ああ、今日はブランデー入りのを頼む」
「はい。」
「司令! 先行した偵察艦 R422から入電!」
入れ替わりに通信オペレーターがそう叫んだ。
「読んでくれ。」
「はい、
”不明艦隊を発見、フォード島北方17kmで停止中。”
です。」
「・・・了解
第1分隊の空母”ガイエスブルグ”艦載機を上げて空中偵察を行わせろ。」
「はっ!!」
〈フォード島より北方21km北東 ―― 2時間半後〉
あれから2時間少し経ち、コーヒーを飲み終え我々は特に異常もなく航行していた。
だが、
〈こちらCIC!! レーダーに不明艦隊を視認!
数は・・・なっ!! ・・・100隻以上!!〉
それは破られた。
「なっ・・・!!
分かった、直ぐにCICへ行く。副司令、ここを頼みます。」
「了解しました。」
そう言い私はCICに向かうべく、ブリッジを出た。
〈プリンツ・オイゲンⅡ CICルーム〉
「室長、状況は?」
「我々の行く手を遮る様に半包囲しています。」
「そうか・・・、彼らは上手く我々の目を欺いた訳だ。」
「・・・どうされますか?」
「どうするのも何も、仮に防水陣形で突出したとしても我々にリスクが有るのは当然。ここは一つ・・・威嚇を行う。」
「室長、今使える航空戦力は?」
「第2分隊の空母”ゼー・アドラー”、第3分隊の軽空母”レダ”ですが・・・。」
「彼らを空に上げてくれ、
そして全艦に防水陣形で待機を伝達してくれ。」
「はっ!!」
〔ユーレイン連邦海軍 第3艦隊 空母 ”ゼー・アドラー” 航空隊 エーテルワイス隊(マクドネルダグラス F/A-18D ホーネット 1機 ボーイング F/A-18E スパホ 6機)隊長 アンドリュー・セブ TACネーム : ポピー コールサイン : エーテルワイス・リード〕
〈フォード島沖上空〉
不明艦隊に示威飛行を行え、との命令を受け。俺達パイロットは空の人になっていた。
「まーた変な
赤く染まった空を前に俺はそう言った。
「ええ、でも司令官閣下も面白いアイディアが有るものね。」
ヘルメット内蔵の
〈こちら臨時管制機 ウェスターウィンド、各隊状況を報告せよ。〉
すると高空で俺達を監視・・・・、ごほん もとい管制している空軍のAWACSからそんな
「こちらエーテルワイス・リード、発艦し待機中。」
〈ウェスターウィンド、こちらハンゼンベール・リード(ボーイング F/A-18F 10機 : 軽空母レダ航空隊)。母艦の上をぐるぐる回ってる所だ。〉
〈ゲリッセナー隊(ダグラス A-4SU スーパースカイホーク 4機、グラマン F-14D トムキャット 4機:空母ゼーアドラー航空隊)よりウェスターウィンド、上空で待機中。〉
〈全隊、ウェスターウィンド了解。各隊各個に示威を行いつつ不明艦隊の上空を飛行し、偵察を行え。〉
「了解。」
〈〈了解。〉〉
AWACSからの命令を受け取り、
「よし、各自にスリー・マン・セルで行動。
2、3と4は俺に続け。」
〈〈了解!!〉〉
〈〈〈はい。〉〉〉
そう命令した。
[十分後]
「・・・・すごいな。」「ええ・・・。」
眼下の不明艦隊のその姿は、まさに前時代ながら驚愕の一言が似合う物だった。
俺とエーテルワイス2,3と4はフォード島近海に布陣する不明艦隊の上空をアフターバーナーを吹かしつつ飛行していた。
「ジーナ、スナイパーXRを起動させろ。」
「・・・リンク送信先は?」
「全艦隊に。」
「分かったわ。」
〔ユーレイン連邦海軍 第3艦隊司令官 森田 呉里 TACネーム : ヤン コールサイン:ウィザード・アクチュアル〕
〈艦隊旗艦 プリンツ・オイゲンⅡ CIC〉
「司令、エーテルワイス隊からのデータを受信しました。」
「よし、モニターに出してくれ。」
「はっ。」
空の方から偵察データが届き、私はコーヒーを飲みつつモニターに出す様に言った。
モニターには詳細にデータ化された不明艦隊の情報が表示され、写真やら映像やらが部分ごとに映し出された。
「・・・・室長。」
「はい。」
「これを見た君の率直な意見を聞かせてくれ。」
私は横に居る室長にそう告げた。
室長は眼鏡をクイッと上げ、
「では・・・、
現有戦力で不明艦隊・・・いえ、第二次世界大戦クラスの艦隊を全滅ないし殲滅する場合・・・。我々のリスクが大きくなるので、最低でも損耗率30%を見積もった方がいいかと。」
そう言った。
「・・・そうか。」
「不明艦隊に動き!!」
再び室内に戦慄が走った。
「詳細は?」
「半包囲から我々を完全包囲する様に陣形を変更しています。」
「映像は出せるか?」
「モニターに出します。」
するとモニターが切り替わり、上空からの映像に変わった。
「・・・室長。」
「こちらも用意しないと・・・司令。」
「・・・了解した、
全艦防空システムを起動、各艦の指令で砲弾を落とせ。」
「はっ!!
防空システム・・・CIWS、ファランクスとゴールキーパーを防空モードに・・・。」
ドゴゴゴゴゴ・・・・
するとCICはそんな轟音に包まれた・・・・。
[3分後]
・・・・何も感じない。
「示威・・・なのか・・・・?」
「空包・・・・ですね。」
室内が火薬のむんとした匂いで包まれた中、私と室長はそう言った。
「各艦状況報告!!」
「全艦ダメージ無し、オールクリア!!」
「そうか・・・・、パフォーマンスへの答礼か・・・。」
「ですね、司令。」
「ははは、こちらも空包で答礼だ・・・・
マナーは守る物だからな、室長。」
「はっ、
兵装オペレーター、各砲塔に空包を装填・・・30秒間フルオートで射撃だ。
通信オペレーター、今の文言を全艦に下令。」
「はっ!」「了解です。」
〔ユーレイン連邦海軍 第3艦隊 空母”ゼーアドラー” 航空隊 エーテルワイス隊 隊長 アンドリュー・セブ TACネーム:ポピー コールサイン:エーテルワイス・リード〕
「・・・・・何だこれは?」
キャノピーの眼下では不明艦隊と俺らの第3艦隊がドンパチしていた、
が・・・・・何かがおかしかった。
「どう思う、ジーナ?」
「おそらく・・・・空包ね。」
「根拠は?」
「これは私の予想だけど・・・私達の”パフォーマンス”に感化されたんじゃない。」
「・・・・・。」
は・・・?今なんつった?
〈
するとゲリッセナー隊のトムキャットが1機、近づいて来た。
「よう、調子はどうだ?」
〈こちらゲリッセナー2、見ての通りだ。〉
はぁ・・・・・、相変わらずか。
「そちらの隊長さんは?」
〈・・・・・下でアクロバットしてる。〉
「・・・・そうか。」「・・・・・ええ。」
・・・言う言葉もないな・・・、ゲリッセナー隊は変人奇人の集まりだからな。
〈何か言ったか?〉
げっ・・・・。
「い、いや・・・何も。」
〈・・・そうか。〉
〈こちら臨時管制機ウェスターウィンドよりエーテルワイス、ゲリッセナー隊、帰って来い。〉
すると口うるさいオヤジもといAWACSからそんな命令があった、
いやはや・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
〔ユーレイン連邦海軍 第3艦隊 司令官 森田呉里 TACネーム:ヤン コールサイン:ウィザード・アクチュアル〕
〈艦隊旗艦 プリンツ・オイゲンⅡ CIC〉
[2分後]
あれから何だかんだ言って、結局の所私達第3艦隊と不明艦隊との空包の撃ち合いは2分も続いた。
「さて・・・・どう出るかな、室長?」
「さあ・・・・。」
室内から火薬のむんとした匂いが消え、ただただ静寂のみがCICを支配した。
5分・・・・
10分・・・・
20分・・・・、そして25分・・・・。
「出ないな・・・。」
「はい。」
「司令!! 不明艦より発光信号です!」
「読めるか?」
「はっ・・・では、
” こちら・・・えーっとジャーメルライヒ? 帝政共和国海軍、貴艦隊の活躍にいたく感動した。謁見を求む”
です。」
「ふーむ・・・室長。」
「は。」
「
「
室長はそう頷くとCICを出た、
だが彼がCICを出たと同時に。
「司令!! 不明艦隊から通信が発信されています。」
「掴めるか?」
「はっ・・・・微弱ですが即に特定されています。」
「・・・・分かった、スピーカーに出せ。」
「はい。」
するとCICのメインスピーカから大量のノイズを伴った音が聞こえてきた。
〈ザー ザザザーッ、 ガガピピピーッ・・・・
こ・・・ら、ジャーメルライヒ帝政共和国・・・軍副元帥のリヒャルト・ヴォン・カイテルパウアー。
貴・・・隊の奮闘に感・・・した、よしんば・・・答されたい。〉
「オペレーター、マイクを。」
私はCIC内の通信オペレーターの所へ歩き、そう言った。
「どうぞ。」
オペレーターからマイクを受け取った私は、PTスイッチを押し込み話し始めた。
「ユーレイン連邦海軍 第3艦隊司令官の森田呉里中将です、通信の感度を上げられたい・・・・副元帥閣下。」
〈ザザッ・・・これで良いか?〉
「はい。」
〈では・・・・ウェンリ中将、一度会談を行わないか?〉
「・・・はい、こちらからそちらへ行きましょうか?」
〈ふむ、そうされたい。〉
「了解しました、いつ頃に致しましょう?」
〈では・・・30分後でいいか?〉
「・・・はい。」
〈では・・・また会おう、中将。〉
そう声の主 ―― 副元帥は言うと、通信は終わった。
「ふう・・・ありがとう。」
「はっ。」
「これから忙しくなるぞ・・・・
格納庫のシーホークをいつでも出せるように、人選もだ。
本艦のみ乗員用武器庫を開放、各兵装も実弾を装填しいつでも使用できるように。
百が一、万が一の為だ・・・・ブリッジに戻る。」
「「「「「「「「「了解。」」」」」」」」」
私はそう令すると、CICを出た。
〔ユーレイン連邦海軍
〈艦隊旗艦 プリンツ・オイゲンⅡ 後方ヘリ甲板〉
仲間からマージャンで金を巻き上げている所に
「よう。」
「あ、アッテンボロー。」
俺の士官学校からの旧友は、白い将官礼服を着て他の人員と共に居た。
「お前さん、どう思うよ?」
「何が?」
「・・・今回の事だ、この功で消されるか昇進するか・・・・な。」
「・・・その状況による・・だな。」
「はは、お前さんらしいや。」
すると格納庫から白色塗装の シコルスキー MH-60R LAMPSⅢ シーホークが出てきて、ローターが回転し始めた。
「よし・・・行くぞ。」
旧友はそう告げると、俺と他の随伴員に搭乗する様に促した。
〔ユーレイン連邦海軍 第3艦隊 司令官 森田呉里 TACネーム: ヤン コールサイン: ウィザード・アクチュアル〕
[10分後]
〈フォード島沖上空 - プリンツ・オイゲンⅡ所属 シコルスキー MH-60R LAMPSⅢ シーホーク(コールサイン: ベクター)機内〉
甲板からシーホークに乗り込んで十分経った所で、
「機長、発光信号は使えるか?」
ローターの消音装置が効いている機内で、私はそうパイロットに聞いた。
「はい、どういたしますか?」
「こう信号を送ってくれ、
”こちら森田呉里中将、通信求む。”
これを2回だ。」
「了解です。」
すると機長は機首のリモート式ライトを操作し、信号を送った。
[さらに2分後]
「司令、不明艦隊から通信です。」
機長が発光信号を送ってしばらく、シーホークの機内は静寂その物だったが機長の声によって元に戻った。
「貸してくれ。」
「はい。」
そう言うと彼はヘルメット内蔵インカムの使用権限を移してくれた、私は自分のヘルメットの側面に付いているPTスイッチを押しこう告げた。
「こちらは森田呉里。」
〈おお、中将か。〉
「我々のヘリ・・・・、ごほん 回転翼機が見えますか?」
〈ああ、ハブスチラウバー・・・いや回転翼機を誘導すれば良いか?〉
「はい。」
〈では・・・(サーチェンテを点灯させろ)(全てですか?)(ああ。)
今私の座乗している
するとシーホークの窓から見える薄暗い艦隊に、戦艦サイズの光の塊が見えた。
「はい。」
〈それの後方に着陸してくれ。〉
「了解しました、では。」
そう言うと私はヘルメットを取り、こうパイロットに言った。
「彼の言った通りだ、着艦させてくれ。」
「はっ。」
シーホークは高度を下げ、上空を一回転する様に飛行すると着艦準備に入った。
しばらくして、シーホークは副元帥が指示してきた戦艦級船舶の後方 ―― つまるところ艦尾に着艦した。
「ドア開けますよ。」
「ああ。」
私と共に付いて来た随伴員の一人、司令付参謀のコンパイル少佐がそう言いシーホークのスライドドアを開けてくれた。
「ありがとう。」
「いえ。」
外は即に夜で、暗くなっていたがこの戦艦級船舶とその周囲が出す明かりで何も問題はなかった。
しかしながら、今私が立っている戦艦クラス船舶 ―― いやもうこの際戦艦と言うべきか ―― はかなり異様だった。
そう、戦艦の要である主砲を搭載した砲塔が存在していなかったのだ。
1906年にかつての大英帝国が世界初の弩級戦艦 ―― ドレッドノートを建造してからというもの、戦艦には大小差異はあれど主砲は搭載している物だ。
―― いやこれは異世界から来た艦だな、まあいいか。
さらに深く考えると、旧日本帝海の扶桑型にも少し似ている。
そんな考えに耽っていると、数人の男女がブリッジかこちらに歩いて来た。
一人は金髪の中年男、
一人は茶髪でスポーツ刈りの若くあどけない男、
一人は黒と茶のミックスでセミロングの髪を持った女性士官、
一人はガリヒョロなインテリ系男子、
そして、一人はボーイッシュな女性士官であった。
「あ・・・・。」
「モリタ・ウェンリ中将かな?」
金髪の中年が私達の前でそう言った。
「はっ、そうです。」
私はそう言い、中年に対し敬礼した。
すると中年は答礼し、
「そうであるか、
私はジャーメルライヒ帝政共和国海軍副元帥、リヒャルト・ヴォン・カイテルパウアー。
貴官に会えて光栄極まる、ヘール。」
「貴方が・・・・、こちらこそ私のような物が。」
そう会釈した。
「中に案内する前に紹介したい、よろしいか?」
「はい。」
「では・・・、
右から私に付いている参謀のカーテライト・クライツェル少佐。」
「カーテライトです、会談の間は書記として同道します。よろしくお願い致します、ヘール方々。」
ボーイッシュな女性士官がにこりとしてそう言った。
「次に情報将校のマクペル・ブレーザー少将。」
「ブレーザーです。」
「次にこの高速情報艦”ドライケンプブルグ”の副艦長、エリカ・デートルリッヒ・ヴォン・バーベルファイザー大佐。」
「エリカです、見学してくれてありがとうございます!」
セミロングな女性士官がスマイル全開でそう言ってきた。
「最後に、”ドライケンプブルグ”の艦長、アルバート・フロンツェ中将。」
「どうも。」
「おいおい・・・・中将、他にも言ってくれ。」
「はぁ・・・・まあ・・・なんか中将しています。」
「・・・・という事だ、彼は艦運用の仕事があるので別行動となる。
さて、中へ案内しよう。ヘール。」
そう副元帥は言い、艦内へと案内し始めた。
〈高速情報艦”ドライケンプブルグ” 艦内 ―― ブリッジ〉
シーホークから我々は副元帥達に案内され、左舷から艦橋構造物に入ってエレベーターでブリッジに上がった。
ブリッジでは士官・下士官などが
私はつい、
「変わりませんね・・・・。」
そう思わず呟いた。
「おや、中将・・・驚かないのですか?」
すると副元帥がそう尋ねて来た。
「いや、私も新任の頃はこの様な艦の艦長をしておりました。」
「ほう。」
「今でも私の旗艦は古風でして、7、80年前に建造された艦なのです。
ま、中身はほぼ別物ですが・・・。」
「ヘール中将閣下。」
するとセミロング士官、もといエリカ大佐が尋ねて来た。
「はい?」
「質問いいですか?」
「どうぞ。」
「中将閣下の・・・ユーレイン?連邦では戦艦を
「戦艦ですか・・・軍事機密故多くは語れませんが、予備役艦隊一個で残りは”軍事遺産”として各地に保存されています。」
「ええっ!! それだけですか?」
「はぁ・・・、そうです。」
まさかとは思ったが・・・・大艦巨砲主義か・・・。
「そうですか、ありがとうございます!! ヘール。」
「はい、そう言えば」
「はいっ?」
「ヘールって、どんな意味があるんです?」
「あ、ごめんなさい。
ヘールっていうのは、古ジャーメルライヒ語で”様”っていう意味があります。」
「そうか、ありがとう。」
「勿論です!!」
この人、スマイルマシーンだな。ニコニコの加減がない・・・・。
「・・・・中将、次の場所へ案内しよう。」
するとスマイルマシーン、もとい大佐を待っていた副元帥がそう言って来た。
「はい。」
「と言ってもすぐドアの向こうだがな、どうぞ入ってくれ。」
副元帥はそう言い、加密性の高いドアを開けた。
・・・・なんだこれは?
ドアの向こう側は青色灯のみが付いており、モニターや電算機器などが配置された一種の
オペレーターが十人、この場所に詰めており彼らはヘッドホンを耳にモニターへと向き合っていた。
「これは・・・?」
他の随員も似た様な考えのようで、周りをキョロキョロしていた。
「これは ―― 」
「副元帥、これは私から説明致します。」
「・・・そうか。」
するとガリヒョロもといブレーザー少将が副元帥にそう告げた。
「ヘール方々。」
少将はこちらを向いた、そして
「この区画は我々ジャーメルライヒ帝政共和国海軍が開発・実用化に漕ぎ着けました
考えるに、この計画は既存の戦闘体系を大きく変化できる可能性を秘めています・・・・。ヘール方々、特に中将閣下。」
「はい?」
また私か。
「閣下はどう思われますか?」
「我々の運用思想に少し似ていますね、本当に。
ですがこれ以上の事は軍事機密故、発言できない事をお許し下さい。」
このままペラペラ言ってしまったら、あかん。
俺のカンがダメだと言っている。
「そうですか・・・・感謝しますヘール中将。」
「では次の所へ・・・・。」
[一時間後]
「そろそろ晩餐の準備も揃うところか・・・・どうです?」
会談より何か観光ツアーの様な事をして1時間、副元帥がそう言って来た。
「よろしいのですか? 私の様な・・・・。」
「いいのだよ、ヘール中将。いやウェンリ中将。」
「では・・・・お言葉に甘えまして。」
「向こうで”本題”について会談と・・・・会って貰わなければならない御方が居るからな。」
「はぁ・・・・。」
そんな話を副元帥としていると煌びやかに外装が施されたドアの前にたどり着いた、ドアの前には執事らしきスーツの老人が立っていた。
「セバスチャン。」
「カイテルパウアー様、晩餐の御準備が出来ております。」
「そうか、入る。」
「かしこまりました。」
そんな会話が副元帥とその男の間に続き、その老年の男はドアを開けた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
〔ユーレイン連邦海軍 第3艦隊 司令官 森田呉里 TACネーム: ヤン コールサイン: ウィザード・アクチュアル〕
〈高速情報艦”ドライケンプブルグ” 艦内 - 晩餐室〉
老年の男 ―― もとい副元帥付き執事がドアを開けた、
その先には物凄く豪華で高額そうなインテリアに囲まれたロングテーブルや椅子が見え、テーブルの上には人数分の銀食器。そして天井にはシャンデリアが吊るしてあった。
「・・・・すごい。」
私は思わずそう口走ってしまった。
「どうぞどうぞヘール方々、お好きな席に。」
そう副元帥に言われ、私、アッテンボロー、コンパイル少佐とCIC副室長のウェッセンシューロン中尉はそれぞれ好きな場所に座った。私が座った正面には副元帥、そして右横にはアッテンボローとその隣にウェッセンシューロン中尉が居た。
「まるで小さな宮殿ですね。」
私は正面に居る副元帥にそう言った。
「そうですなヘール・・・・元は言うとこの晩餐室、皇家関係者専用に設計された物なんですよ。」
「へぇ・・・・・皇家ですか。」
「ええ・・・来ましたよ。」
すると私の前 ―― 副元帥の後ろに位置するドアが観音開きに開き、白黒フリルのメイドが十人 ―― 一部は銀メッキなカートを押しつつ ―― 出て来た、そして彼らは我々の前に前菜の肉のステーキとサラダを出した。
「ヘール中将、頂きましょう。」
「では・・・・。」
私はそう促されば拒否する訳にも行かず、ステーキをカットしてサラダと共に口に運んだ。
「これはうまい!!」
「うまっ!!」「美味いですね。」「素晴らしい。」
私を見た他の3人はその料理をそれぞれ口に運び感想を述べていた、
それを皮切りに晩餐は始まった。
「副元帥、これは貴国の何という・・・・?」
「その前菜はアンテイルペウザーと言いまして、ジャーメルライヒ産ロトブッレの肉を塩でまぶしアンテイルというソースに漬けて焼いた物に、アンテイルをゲルミューズ・・・・食用菜にかけた・・・まあ我々にとって朝食で食すほどの国民食です。
中将の口に合った様で、良かったです。」
すると刹那、
「皇女殿下の、ご入来ぃー!!」
そんな声と共に右奥のドアが開き、人が出て来た。
そう、皇家である。
出て来たのはまだ女性とも呼べぬ年若な少女であった、白を基調とした青と赤のまるで軍服のデザインの様な服とジャケットに。また
まあ・・・・・・可愛らしい美少女である。
「このお方は ―― 。」
すると彼女はそう言おうとした副元帥に制止を掛け、
「
そして妾の晩餐会を楽しんでもらって嬉しい、ヘール方々。」
そう言うと彼女はその緑色の目を私に向けてきた。
私は、
「フロイライン殿下、我々一同この晩餐会を楽しんでおります・・・・・ありがとうございます。」
そう言った。
すると彼女はモジモジし、
「そ、そうか・・・・それは良かった。」
「? どうかされましたか、殿下。」
「い、いや・・・。
妾も食べるかの。」
そう言い、トトトと奥に空いていた席に座りアンテイルペウザーを食べ始めた。
[一時間後]
「このアンテイルペウザー、素晴らしく美味でした殿下。ありがとうございました。」
晩餐会も終わり、私はそう殿下に礼を言った。
「そうか、妾も嬉しいぞ。」
さっきから彼女は何か・・・少し顔を赤くして照れている、何なんだろうか。
「では殿下、我々は会談が ―― 。」
そう言いかけた副元帥をまたもや彼女は制止し、
「カイテル、妾はこのヘール中将と一対一で会談したいのだ。」
「しかし、殿下・・・・・。」
「カイテルパウアー ・・・、二度は言わぬぞ?」
「・・・殿下の御心がままに。」
すごいなー殿下パワーは、こっちまで気圧されるな。
私は直ぐ様、
「アッテンボロー、コンパイル、ウェッセンシューロン。」
「「「はっ。」」」
「副元帥閣下との会談に臨んでくれ。」
「はい。」「了解。」「そちらも頑張れよ、ニヒヒヒ。」
ちっ、アッテンボローはいつも一言多いな・・・・悪友め。
そう言う間にも私と殿下を除く他は晩餐室を出て、残ったのは私と殿下だけとなった。残るものと言うとただ一つ、静寂だけである。
「さて・・・・殿下、会談はここで?」
「いや、妾の部屋で。」
彼女 ―― もとい殿下は私にそう告げ、晩餐室のドアを開けた。
殿下に案内され晩餐室を出て、彼女と一緒に歩くとやけに豪華に装飾された廊下にたどり着いた。
「ここが妾の部屋じゃ。」
そしてその廊下の奥に位置している観音開き式のドアの前でそう言い、ドアノブをひねり開けた。
ドアを開けた先には、まさに宮廷映画や歴史長編ドラマなどでよく見かける光景が広がっていた。
広々とした部屋にレースをつけたクイーンベッド、
「お帰りなさいませ、殿下。そちらの殿方は・・・・。」
すると白黒フリルなメイド服を着た2、30代のメイドが近寄り、礼をすると殿下にそう聞いてきた。
「こちらは妾の客人・・・あの艦隊の司令官じゃ、シュレンネイダー。」
「!! あらあら、これは大変ご無礼を。」
殿下の返答にメイドはそう驚き、
「ヘール閣下。エリン殿下の従者をしております、エヴァンチェリンと申します・・・どうぞお見知りおきを。」
私の方に向きそう言って礼をした。
「は、はぁ・・・・。」
「ではヘール閣下、
そう言いそのメイドは別の部屋へと消えていった。
「さて・・・”本題”の前に、”妾”の話をするかの。」
メイドが去るのを確認するかの様にそう言い、彼女はフゥ、と一息付いた。
「ここからはお堅いのはなしじゃ、そう・・・・・妾の事はフロイライン、と呼んでくれ。」
「では・・・・フロイライン様」
「様、もなしじゃ。」
「はぁ・・・では、フロイラインと。」
「うむ、くるしゅうない。
・・・妾の父上と母上はジャーメルライヒを統治しておった。」
そう言う彼女の顔は・・・・、そう・・・回想に耽る少女の物だった。
〔ユーレイン連邦海軍 第3艦隊 旗艦 プリンツ・オイゲンⅡ CIC副室長 ヤマモト・ウェッセンシューロン中尉 TACネーム: ローレライ コールサイン: チャーリー2〕
晩餐の席で司令と別れた私達は、会議室で副元帥との会談に臨んでいた。
「さて、デーム・ウェッセンシューロン。会談を始める前に紹介したい。」
そう、この会議室には別に数人の将官が居るのだ。
「まず共和国海軍第2艦隊のオーギュスト・ザムエル・ワーレン上級大将。」
「どうぞよろしく願う、デーム。」
赤茶の大柄な男がそう言い、
「共和国海軍第1遊撃艦隊のショルツ・ビッテンフェルト中将。」
「よろしく、デーム。」
赤色のイノシシみたいな男が言い、
「共和国海軍 第2近衛艦隊副司令のアマデウス・バイエルライン少将。」
「どうぞよろしく、デーム嬢。」
「共和国海軍参謀局のタレントル・ヴォン・グレービー少将。」
「どうも。」
年若な男2人がそう言った。
「そして共和国海軍元帥付参謀のシークフリート・アイゼナッハ准将。」
最後にガリヒョロな中年が礼をした。
「ではまず我々ジャーメルライヒ帝政共和国について説明しよう、
ジャーメルライヒ帝政共和国はスイース大陸の東北部にあり、南にコルリス帝国と北にウスリタン王国が面しています。人口は300万、代々世襲の国家元首が国を治めております。
軍事力に関しては、海軍が大陸第四位の強大な物で、陸軍もそれなりにある。
さて、グレービー少将・・・・今回について説明を。」
「はい、
さること3週間前、フリッツ陛下宛にコルリス帝国国王の名で書簡が送られて来ました。その内容は”盟国になり領土を明け渡せ”という、何とも理不尽な物でした。陛下は当然お怒りし、これを無視いたしました。
その1週間後、再び同じ書簡が送られ。そして先週、コルリス帝国軍は宣戦同時攻撃をして来ました。
陸軍はほぼ総崩れ、頼みの綱だった海軍も半数がコルリスの息がかかっており降伏いたしました。
私の居た参謀局は幸いフリッツ陛下の下で動いておりコルリスの息はかからず、しかもこの事をすぐに察知致しました。陛下の勅命で首都に居た艦隊の内、第2近衛、第3近衛そして第2親衛艦隊は我々参謀局、少数の陸軍そして殿下を連れ出港致しました・・・・しかし第1近衛、第1と第3親衛艦隊は陛下の
しかしナイトハルト・ミュラー准将の第362戦闘群とアルベルト・メッツァー中将の第3艦隊の行方が不明です。
これが今回についての概要です。」
「・・・・。」
つまり彼らは隣国に潰された訳か・・・何とも悲しい。
「・・・・ありがとう、では貴国について聞こうか。」
すると何とも言えない顔の副元帥がこちらに振って来た。
「了解しました、では・・・・
我々ユーレイン連邦国は今朝、原因不明の事情によりこちらの世界に移転いたしました。」
「何だと!?」
「「えっ!?」」「「「「「「「何!!」」」」」」」
「そんな事が・・・・あるのか!!!」
ビッテンフェルト中将がそう叫び、テーブルを叩いた。
「言葉を慎め中将。」
そんな中将に副元帥は鬼面でそう告げた。
「はっ・・・すみません閣下。」
「しかし・・・そうですか。」
鬼面から神妙な顔つきに戻った副元帥は、そう言った。
「はい、副元帥閣下・・・
そして、貴国は我々ユーレイン連邦に亡命を希望しておられるのですね?」
副元帥に対して私はそう言い、彼らの本音をぶつけてみた。
〔ユーレイン連邦海軍 第3艦隊 司令官 森田呉里 TACネーム: ヤン コールサイン: ウィザート・アクチュアル〕
メイドの出した紅茶を2杯も飲み終わる頃には、彼女の話もほぼ聞き終わっていた。
「・・・・・・。」
彼女と私との間にはただ静寂だけが残っていた。
「・・・・頼む、」
すると彼女はその緑色の瞳を私の目線に合わせ、そう沈黙を破った。
「は・・・・?」
「頼む!! 妾・・・・いや妾達を救ってくれ!!
必要とあらば・・・そなたに妾の体を捧げても良い!!」
体を
「ちょちょちょ・・・殿下、つまり貴方方は亡命を望んでいると?」
すると彼女はコクリ、とウルウル目で頷いた。
「はぁ・・・・ちょっと時間を・・・。」
そう言いポケットから軍用タブレットを出すと、電話帳からある人物に連絡を付けた。
〈こちらコヤブ、・・・ヤンか、どうした?〉
その人物とは、私の兄で海軍元帥の森田三辻である。
「ちょっと問題が。」
〈問題か・・・珍しいな、どした?〉
「今
〈亡命か・・・少々厄介だな・・・
(ブルーコバルト・・・・総帥、フォード島沖の不明艦隊が亡命を希望していますが・・・・如何いたします?)(今は情報が求められているし、傷ついている他人を無視できないわ・・・・亡命の件は許可するわ、あとは第3艦隊に任せて。)(了解。)
・・・・亡命の件はこの通りだ、残りはヤン・・・・・頼んだぞ。〉
「了解しました。」
〈ではな。〉
そう言って電話は切れ、私は息を吐き出した。
「フロイライン。」
すると彼女は悄気た頭を上げ、私を見た。
「亡命の件ですが、今上層部に確認した所・・・・認めるとのことでしたので我々第3艦隊が責任を持ってその言葉を実行致します。」
そう告げると彼女の顔がぱぁ、っと明るくなり。
「ありがとう、ヘール!!!」
私に抱き付いて来た。
女性特有の柔らかい匂いと温かい体温、そしてそれに混じって香水を感じれ。CかDあるその豊満な胸が私に押し付けられた。
「・・・・あの・・・・。」
「あ、ああ・・・・すまないヘール。」
しかし彼女の顔は、何か不満か?という顔だった、
いやはや・・・・。
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