違和感

午前の授業が終わり、教室内は騒がしくなる。

いつもなら佐倉と一緒に食べるが、彼氏と食べるからと断られてしまった。

1人だと、この騒音はきついものがある。

どこか静かに食べれる場所を探すために教室を出る。


「そういえば、外のベンチいつも人いないから丁度いいかも」


いつも人のいないベンチがあることを思い出し向かう。

向かってる道中は視線をあまり感じなかった。

すれ違ったのが、男子ばかり、というのは関係あるのだろうか。


「やっぱり朝のは気のせいなんだろうなぁ」


なんて考えながら歩いていると目的地のベンチへ着いた。

いつもは誰もいないそこに、今日に限って先客がいた。


「まじか」


誰もいないと思っていたばかりに、誰かいることを想定していなかったので、つい口から思った事が出てしまった。


「あ、嫌じゃなかったら隣、どうぞ?」


制服のリボンが緑の彼女はどうやら、私の1年上の3年生のようだ。

いや、でも話したことは無い人の隣で昼食を食べるというのは少しばかり気が引ける。

だが今から他の場所を探す時間も惜しい。


「じゃあ、失礼します。」


少し戸惑いながらも、なるべく近づきすぎないよう隣へ座り袋からパンを食べていると、


「もしかして、お昼ご飯それだけ?」


と、話しかけられた。心なしか心配しているようにも見える。

話したことはない人だが、悪い人には見えない。


「一人暮らしで、いつもこんな感じです。」


「そっかぁ、でも、足りなくない?」


足りなくないかと言われれば正直、少し足りない。

しかし一人暮らしの為、少しでも節約しなければならないのも事実の為、これ以上買い食いする訳にもいかない。

まぁ、買わないで自炊するのが一番なのだろうが。


「まぁ、少し物足りない気もしますが、慣れたので平気です。」


口では平気と言ったがどうやら身体は正直なようで大きな音を鳴らす。


「あ、はは、気にしないでください。そして、やっぱり私ここじゃない所行きますね。」


恥ずかしさのあまり、その場を離れようとするが、隣に座る彼女に手を握られた。


「まって、放っておけるわけないでしょ。せっかくここで出会えたのも何かの縁だし、もう少し一緒にお話しましょ?私のお弁当分けてあげるから」


彼女の手元には手作りのようなお弁当があった。

そして、とても、美味しそうだ。


「じゃあ・・・少しだけ。」


そう言うと彼女は嬉しそうに、微笑んだ。


「ふふ、じゃあ、もう少し近くに寄って?」


彼女の言うまま、さっきより近くに座る。

近づくと、とてもいい匂いがした。


「はい、あーん」


弁当箱に入っている卵焼きを箸で私の目の前に運んでくる。


「恥ずかしいんですけど・・・。」


まさかの行動に恥ずかしさがどっと押し寄せてくる。

しかし、食べるまでこのままと言いたいような彼女の瞳に、押し負けてしまい渋々卵焼きを食べた。


「あ、美味しい」


ふわふわとして少し甘い。

手作りの食べ物を食べたのはいつぶりだろうか。

それぐらい久しぶりに食べたのもあって、とても美味しく感じた。


「次はどれ食べたい?」


まるで、他のものも、食べさせてあげると言うような感じで話すが、私としては恥ずかしいので自分で食べたい。


「もう大丈夫です。お腹膨れましたし、何より恥ずかしいので」


ならいいけど、と少し不服そうな顔をしながら言う彼女に、今更ながら名前を聞くことにした。


「今更になって、申し訳ないんですけど、先輩の名前って聞いてもいいですか?私は立花恵って言います。」


「そういえば、自己紹介してなかったね。私は3年の霧島希きりしまのぞみっていうの。よろしくね、恵ちゃん」


自己紹介を済ませ、お互いに自分の残っている昼食を軽く話しながら食べる。

そうしている内に時間も過ぎ、昼休みが終わろうとしていた。


「じゃあ、今日はありがとうございました。霧島先輩」


「先輩って付けなくていいよ、というかむしろ名前で呼んで欲しいかも。私、恵ちゃんの事、好きみたい」


「またまた、冗談が上手ですね」


今日初めて会ったのに私好きだなんて、冗談でしかないだろう。いや、冗談じゃないのだろうか?朝のコンビニ店員の事もあり、良く分からない。


「冗談じゃないよ。だって、ドキドキしてるもの。確かめてみる?」


そう言う彼女の顔は真剣そのものだった。

冗談、あまり言うと失礼になりそうなので、友達なら、と伝えた。

「分かりました。その、友達からでもいいですか?まだ、付き合うとかよくわからないので」


「ありがとう!これから恵ちゃんに好きになって貰えるように頑張るね」


嬉しそうな笑顔を浮かべ、私の手を握り、上下に振る。

そうしてる間に昼休みの終わりのチャイムがなる。


「またね、恵ちゃん。今度ゆっくり話そうね」


霧島先輩と別れ教室へ向かう。何度も色んな人とすれ違ったが、男子はこちらを見向きもせず、学年関係なく、女子生徒からはやたら視線を感じた。


「なに?この違和感は・・・」


教室へ着き、席へ座り、授業が始まるまで、考えるが、もしかしたら、と1つの可能性を思い付く。


「もしかして、同姓にだけモテるようになった・・・?そして、恋人ってもしかして彼氏じゃなくて彼女?」


いや、いやいや、私は彼女じゃなくて彼氏が欲しいんだけど?そして、モテたいと思ったけど女子にモテたい訳じゃないんだけど!?




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