23、ソレがアレになって掲示板は燃えて萌えていく…



 海竜の全体像はわからない。

 見上げても頭の部分の詳細は不明で、高層ビルのような首が目の前にあるだけだ。

 もしカメラがあれば、親グリフォンに乗っているグランディスさんとレイモンドさんに写真をお願いできたんだけど……。


「クゥン!」


「そうだった。アレで俺が撮ればいいのか」


 アレ、というのは今は置いておくとして。

 ポメ太郎との戦闘準備のため、身につけている防具を外す。

 といっても脱ぐのは上着と、装備品は魔石ホルダーくらいしかない。


「カイト! 行くのか!?」


「メイリ、魔石を全部渡しておくから、いい感じの所で使って!」


 後方にいたメイリに魔石ホルダーを投げ渡すと、俺は海へ向かって走り出す。

 青春っぽいなぁとか思っている場合じゃない。


「ポメ太郎、準備は?」


「クゥン!」


 そう、実はあの日……神の眷属であるポメ太郎を飼い主(?)になった時、俺はもうひとつジョブを得ていた。

 使ったのは数回しかないから、ちょっと緊張しつつも声に出していく。


 声に出さないと発動しないんだよな……これ……。


「ジョブ変更【萬勘定師ゼネラル・テラー】から【式師ライト・マスター】へ! 天狼式シリウス・モード発動!」


「クゥーン!」


 ポメ太郎は遠吠え(?)と共に光の玉になって、俺の額に吸い込まれる。

 いつも黒系だった俺の髪や服は、ポメ太郎と同じく真っ白なモフモフに包まれて、ふわっと感じる風とともに和装へと変化した。


 襟や裾にポメ太郎のモフモフが付いた、ファンタジー陰陽師って感じの衣装の俺は、まずは海竜の頭へ向けて飛んでいく。

 ポメ太郎は飛行能力を持っているから、天狼式の時は俺にも使えるのだ。


 いきなり飛び上がってきた俺を見て、驚いた表情のグランディスさんとレイモンドさんに、とりあえずは挨拶をしておこう。


「どうも。よろず屋改め、【式師】のカイトです。助太刀します」



 


 


【レイド戦】よろず屋さんを語ろうPart.36【見学会場】


001:名無しの客人

よろず屋さんについて語る場です。

ファンの方々は落ち着いて語りましょう。

ファンじゃない方々も落ち着いて語りましょう。

ここで情報交換をしてもいいけど、スレタイ無視の発言は禁止です。

999踏んだ人は、次スレッド作ってくだしゃ。


002 :名無しの客人

スレ立ち上げありがとー。


003 :名無しの客人

中層ボスのレイド戦、配信楽しみだー!!



455:名無しの客人

海竜?ドラゴンとは違うのか?

ほのぼのピクニック感覚のレイド戦と聞いていた俺は…


456:名無しの客人

伊勢海老に喜んでいたポメ太郎かわいそう。

かわいそうすぎて、友達と一緒に食材を狩って貢ぐ!!


457:名無しの客人

トップランカーたちがいてよかったよな。異世界人って死に戻りできないんだろ?


458:名無しの客人

ポメちゃんは、よろず屋さんと一緒なら幸せでしょ(ほのぼの

>457、異世界人はアバターじゃないからね;


459:名無しの客人

「こんなこともあろうかと」って、よろず屋謹製の守り石を出してくるのすこ。


460:名無しの客人

謹製www

適当に転がしているだけに見えるけど、効果はすごいらしいよな。

今回の水上歩行できるアイテムとかすごいし、さっきもバフかかるやつとかなかったか?

あれ、売り出してくれないかな……


461:名無しの客人

>460は運良く店に辿り着くか、配信で運良く作ってもらえるよう頑張れ。すべては運だけど。


はぁ、子グリフォンちゃんたち和むぅ〜


462:名無しの客人

え?よろず屋さんも戦うって、あの装甲で?


463:名無しの客人

よろず屋さんのジョブでは、今のところ最強の装備だって本人が言ってたよ?


464:名無しの客人

ちょ、ポメちゃん光った?

いやいやいや、待って待って。どうしたポメちゃん???


は?


465:名無しの客人

は?


466:名無しの客人

は?


467:名無しの客人

はぁーっ!?!?!?


468:名無しの客人

ギャーッ!!神々しいっ!!

目がっ、目がーっ!?!?!?


469:名無しの客人

普段の洋装からの和装!?!?!?

ジョブチェン!?!?!?


470:名無しの客人

【緊急速報】よろず屋さん、複数ジョブ持ちだった!!!!


運営は!?何か出してるのか!?


471:名無しの客人

【悲報】公式サイト、サーバーダウン


いや、ほんと、よろず屋さんさぁ……







 海竜は強かった。

 しかしこちらも、異世界で炎竜の討伐経験がある冒険者チーム『啓明』と、現代日本でのトップレベルな冒険者【剣聖ソード・マスター】や【拳聖ナックル・マスター】がいたのだ。決して弱いわけではない。


「えげつない体力がある。さすが竜だ」


「こちらも水上歩行の魔石がなかったら、手も足も出なかったわね」


 戦闘態勢のままで海竜と向き合うムサシ氏と、暗器のナイフを構えているアヤメさん。

 そんな二人の後ろで、カレーライスを食べている俺がいる。


「それ、まだあるのか?」


「ありますよ。すみません、先にいただいてしまって」


「持参してきたものを食べているんだから文句はない。ただ、うまそうな匂いが腹にくるだけだ」


「その白い着物にカレーが付いたら、ちゃんと早めに洗うのよ……」


 なぜアヤメさんは俺がカレーをこぼす前提で注意してくるのか。

 俺はひそかにトンカツを加えて、サクサクの衣にカレールーをまとわせてパクつく。


「お二人の分もありますので、交代の時にでもどうぞ」


「おう……ありがとな……」


 チラッと俺を見たムサシ氏は、ため息をついてから再び前方へ注意を向ける。

 そんなにお腹がすいているのかな? 早く食べて交代してあげよう。


 戦闘開始から三時間は経過していた。

 現在はメイリと『啓明』のリオさんが海竜の相手をしていて、剣と魔法のファンタジーな戦いが繰り広げられている。


 遠距離攻撃ができる者たちは交代で海竜の顔あたりを狙っていて、アタッカーの注意を逸らして決定打を与える作戦だ。

 そして俺もうっかり忘れていたんだけど、今の状態だと守りに徹するモードになっていて、攻撃に特化させるには段階を上げる必要があった。


「あ、あの、カレーに意味はあるんですか?」


「はい。スパイスが効いていたほうが、攻撃力が上がるんです。なんとなくカレーの気分で持ってきたのですが、ちょうど良かったですね」


 遠慮がちに質問してきたサラリーマン冒険者に返しているけど、そういえば今の俺はわりと神々しい外見をしているんだよね。なにせポメ太郎という神の眷属が降りてくれているからね。


 さて、そろそろ段階をあげられるかな?

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