22、まさかの遭遇とうっかり配信
「まず確認ですが、今回の集まりはダンジョンの中層で魔獣退治、というお話でしたよね?」
「おう。伊勢海老をたらふく食おうぜってイベントだ」
メイリ氏の言葉に頷くまわりのメンバーに、『啓明』のリーダーであるグランディスさんが俺を見る。
はいはい、通訳いたしますよ。もちろん伊勢海老祭り云々は出さない方向で。
「こちらは今回、中層のボスクラスと戦おうとしていました」
『待て。店主らはここのボスと戦おうとしているのか?』
グランディスさんは信じられないと言った様子で、チームのメンバーを振り返る。ちなみにリオさんはフードをしっかりと被せられ、過保護な夫たちにしっかりと守られているので反応は不明だ。
そんな夫たちのひとりであるレイモンドさんが、軽く手をあげて口を開く。確か彼は斥候を担っていた人だ。
『俺の感覚だと中層じゃないよ。深層ほど危険ではないけれど、魔獣の強さは中層に比べて段違いだ』
「つまり、中層だと思って探索していたこの冒険者さんは、想定外の強さを持つ魔獣に対抗できなかった……ということですか」
俺の言葉を聞いたムサシ氏はすぐに動き出す。一緒にいるアヤメさんはポーションの在庫を確認して、今回のレイド戦に参加しているメンバーの資料を見直している。
さてはこの二人、ダンジョンの外ではシゴデキ(仕事出来る人間の略)だな?
「アンタらは冒険者を守りながらダンジョンの外へ向かうんだろ。手伝うから何でも言ってくれ」
『メイリ……』
さすがメイリ。異世界人とパッションで会話をできるだけある。
彼の笑顔と拳で自身の胸を叩いていれば、だいたい通じるだろうけど。
「メイリだけではなく、私もお手伝いしますよ。それに彼らの中から深層の経験者は残ると思います」
『すまない。感謝する』
小さく息を吐いたグランディスさんは、仲間たちから背中をぽんぽんと叩かれている。
リーダーって大変だよな。ぼっち行動が多い俺には無縁の話だ。
「では、俺らが負傷者を守りながら進む。この階層を中層じゃないと知っているメンバーが前に出た方がいいだろう。メイリ、頼めるか?」
「おう。俺は彼らと組んだことがあるから構わない。それに、このパーティーが一緒なら深層で熟睡できるくらい安心だからな。楽させてもらう」
本来ならダンジョンで「死に戻り」の設定がある外皮(アバター)持ちが前に出るべきだろう。
でも、この人たちチートって言葉が誰よりも似合うくらい強いんだよ。
ただでさえ強いのに、神官のアルベールさんが一緒だから反則に反則を重ねてる感じ。
とはいえ。
「では、私も前に出ましょう。保険とでも思ってください」
『店主は後衛ではないのか?』
「戦えますよ。戦闘については【
『わかった。危険だと思ったらすぐ下がってくれ』
「承知いたしました」
よろず屋モードで優雅に一礼する。
そしてニヤニヤしているメイリにポメ太郎から肉球パンチをお見舞いしてやる。
「ご褒美だな」
「その肉球の跡、三日くらい付いたままだけど」
「ご褒美だな」
そりゃそうなるか。メイリのポメ太郎好きは変態の域に達しているからな。
アヤメさんがメンバーを選抜し、開始人数から三分の一となった。
中層までの経験者の何人かが「壁になるから大丈夫!」と言っていたけど、異世界の人たちは死んでも平気という環境に慣れていない。
もしそれで取り返しのつかないことになったらどうするんだと、その人たちは笑顔のアヤメさんに説得(?)されていたよ。言葉が分からないはずのグランディスさんが、何かを察知してしまうくらいの説得力だったもよう。ビクンビクン。
「気をつけてくださいね! よろず屋さんの配信を見ながら応援してます!」
「あ、そうですね」
通知を切っていたからうっかり忘れていた。今回は伊勢海老祭りだからと油断して、ずっと配信していたんだった。
うーん……ま、いっか。
メッセージを確認したけど、運営から何も来ていないからね。何かあったら運営とズブズブのメイリになんとかしてもらおう。
『レイモンドは森の民の血をひいていて、その恩恵でダンジョンで迷うことはない』
「それはすごいですね」
『だが、さすがに今回は危険だった。怪我人を守りながら進むのは無理があったからな。店主やメイリたちには感謝している』
「いえいえ。困った時はお互い様という言葉が、私たちの国にありますからね。……ところで」
海へ向かって進む一行。
後衛のムサシ氏とアヤメさんも、進行方向について不思議に思っているだろう。
『ここの階層の出口は、あの海の向こうにある』
「……船を使いますか?」
『いや、船はいらない」
俺たち前衛が波打ち際まで来たところで、目の前に広がる青い海に真っ直ぐ黒い線が走った。
『来るよ!』
レイモンドさんが声をあげ、すぐさま『啓明』のメンバーが戦闘態勢に入る。
ん? 事前に敵について聞いていた魔獣の情報とは違うような気がするけど???
「レイモンドさん、ここの魔獣は海老か鮫だと聞いていたのですが」
『悪い。今回ばかりは運が悪すぎた。海老や鮫を餌にしている魔獣が出てきた』
真っ直ぐに走った黒い線は海面に「縦に」起き上がった。
見上げれば、太陽の光を受けてキラキラ光る群青色の鱗が、仄かに虹色に輝く……って、これ……。
「ドラゴン、ですか?」
『俺たちは海竜と呼んでいる』
「討伐経験は?」
『炎竜ならある』
おぅふ。
属性違いかぁ……まぁ、この人たちなら何とかするだろうな。
主に彼らの奥さん、リオさんが。
「こういう事もあろうかと、水上歩行できる魔石を用意しました。使ってください」
『助かる』
メイリたちには支給済みの魔石をグランディスさんに渡すと、とてもいい笑顔でお礼を言われた。くっ! イケオジかっこいいな!
そしてグランディスさんはレイモンドさんは親グリフォンに乗って戦うもよう。
空中戦もできるなんて、この人たちは異世界でもトップレベルの冒険者チームになっているのでは? 前に聞いた時は万年Bランクだとか言ってたよね?
水上歩行の魔石は、あくまでも救命胴衣代わりに作っていたやつだ。事前情報では、伊勢海老ボスと砂浜で戦闘する流れだったからね。
戦闘が終わったら、水に浮いた状態で風魔法を当ててもらってお手軽サーフィンで遊ぼうと思っていたんだけどな……。
親グリフォンが戦闘に入り、一緒にいた子グリフォンたちがポメ太郎のところに来て、何やらキュイキュイと訴えている。
「クゥン」
「え? ポメ太郎も戦うって?」
「クゥーン!」
ポメ太郎の遠吠え(?)は、やる気満々だということだ。
仕方がない。俺も本気出しますか。
この時の俺は、自分が配信していることをうっかり忘れていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます