17、終わらせないという圧力を感じる
「〜♪」
「クゥン♪」
植木鉢から出たり入ったりしている、頭に双葉が生えている小人ことマンドラゴラのララちゃんと、それを迎えたり見送ったりしている真白狼族という種族こと毛玉のポメ太郎。
その横で注文された守り石を作成するため、クズ魔石を選んでいる『よろず屋』店主の俺がいる。
うん。すっかりカウンターが二人(?)の遊び場になっているね。
「ポメ太郎、今回は手伝ってくれないの?」
「クゥン」
「やっぱりダメ?」
「クゥン」
いつもなら守り石になるクズ魔石を選んでくれるポメ太郎だけど、今回は「お気に入り」の人間じゃないらしい。
オーダーを聞いてる間に選んでくれることもあるから、人じゃなくて気分なのかもしれない。
ええい、この気まぐれ毛玉様め。
:えっ、今作ってもらってるの、俺のなんだけど? もしかして効果低い感じ?
:しゃーなしだよ。毛玉様の気分が乗らないんだからさ。
:その代わり安くしてもらえるよー(経験者)
「申し訳ございません。またこりずにチャレンジしてみてくださいね」
「クゥン!」
ポメ太郎の抗議するかのような鳴き声に、なんとなく感じたことを伝えてみる。
「もしかしたら今は必要ない、という場合もあります。ボス戦に持っていくとのことですが、苦戦しない流れになるかもしれませんよ」
:そういやボス戦、トップランカーと一緒に行くんだった…
:楽勝の流れじゃん。
:掲示板で募集していた、拳聖ムサシのとこか?
:パートナーのアヤメたんのファンです!
:おいやめとけ、ムサシにコロコロされんぞ…
「剣」じゃなくて「拳」の方のジョブ【
もちろん【
【
ちなみに俺のジョブ【
俺だってピュアッピュアだぞ? 本当だぞ?
「ところで、お客様はどこの階層のボスを討伐する予定ですか?」
:最近になって発見された、中層の海があるところだよー。
:そこのボス、伊勢海老のデカいのって話だよな。いいなぁ、伊勢海老…じゅるり
:煮てよし! 焼いてよし! だよなー…じゅるり
「クゥン!(じゅるり)」
「お客様の情報でポメ太郎が釣れましたよ。割高ですが、ポメ太郎チョイスの守り石にしますか?」
:やった!オネシャス!
:まさかの伊勢海老でwww
:欲望に忠実なワンコ、嫌いじゃないwww
「ああ、そういえばポメ太郎は狼系と判明しまして、少しショックなんですよね……」
こんな小型のポメラニアンみたいな外見で、まさかの狼とは……今年一番の衝撃を受けたよ。
そしてコメントの流れも速い速い。野性をどこに捨てたとか書かれていて、ポメ太郎は「野性って何?」とでも言いたげに俺を見ている。
うんうんかわいいね。モフモフだね。よーしよしよし。
配信中に受ける注文数は決めている。
一時間につき三人までとし、守りの石は一人三つまで。比較的安定する「三」という数字は、俺にとって縁起がいいものなのだ。
今日の最後は伊勢海老と戦う予定のお客だった。ポメ太郎チョイスのクズ魔石を加工していると、目の前の壁がドアに変化し始めていることに気づく。
しばらくして勢いよく開くドアに、ポメ太郎は驚くこともなく欠伸をしている始末。
ポメ太郎が呼んだのかな……うん、呼んだみたいだね。やれやれ。
「やっと来れた? ここが『よろず屋』か?」
「すみませーん。お邪魔しまーす」
現れたのは、先ほどまで話題の中心人物だった【拳聖】のムサシ氏と、パートナーのアヤメさんだった。
ムサシ氏は短髪と見せかけて襟足を長く伸ばしていて、アヤメさんもショートボブと見せかけて同じように後ろは長くしている。
そして二人とも銀まじりの紫髪という特徴があり、わりと目立つのだ。そしてパッと見でわかるムサシ氏の筋肉量たるや。
いや、俺だって頑張ればそれくらい……いやなんでもないです。
「いらっしゃいませ。ダンジョン『よろず屋』へようこそ」
「わっ! 本物だ!」
「失礼よ、ムサシ」
「お気になさらず……配信などをご視聴しただいていたのですね。ありがとうございます」
「ああ、【剣聖】や【聖騎士】の配信から追っていた。ダンジョンのどこかに現れるドアにチャンスありって情報掲示板にあったから、ずっと探していたんだ」
「私が【聖騎士】に繋がりがあると言っているのに、自力で探すと聞かなくて……」
「こういうのは誠意が大事だろ?」
確かに、彼らならポメ太郎が好きそうだ。
それにしても、なぜタイミングが「今」なのだろうか。
まさか伊勢海老……?
「クゥン?」
キュルンとした目を俺に向けてくる真っ白毛玉がいる。
やはりか。やはり伊勢海老には勝てなかったのか。
「今やってるのは、依頼の守り石か?」
「そうですよ。ちょうど、お客様とボス戦に挑むという方に向けて加工しております」
「すげぇな!」
「ムサシ! ……すみません。この人、昔から言葉づかいが悪くて」
「構いませんよ。私も店の外では適当ですし」
さすがに仕事相手には丁寧な言葉を心がけているけど、リア友のメイリには適当だし、最近はそこにサクヤ君も入りそうな勢いだ。
親しい仲にも礼儀ありというけど、相手が不快にならない程度なら緩くていいのでは? とは思う。
さて。
そろそろ畳もうとしていたところ、思わぬ大物のお客様がご来店してしまった。
これはまだまだひと波乱ある感じかな?
「クゥン」
そうだね、ポメ太郎。
まだもうちょっと続く感じだね……やれやれ。
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