16、ここでようやく公開となり


「マンドラゴラ……って何だ?」


「確か、地面から抜いたら悲鳴をあげて、それを聞いたら死ぬとか聞いたことがあります。」


 首を傾げるメイリに、優等生のサクヤ君が説明をしてくれる。

 そんなん怖すぎるだろって眉間にシワをよせるメイリに、俺は補足説明をした。


「異世界で発行されている魔獣図鑑にも同じことが記載されていたよ。引っこ抜くと悲鳴をあげるって」


「コイツは静かだぞ?」


「考えてもみなよ。いきなり頭を引っ張られて、安全な場所から切り離されたら、誰だって悲鳴くらいあげるでしょ」


「ああ、確かになぁ」


 なるほどと頷くメイリとサクヤ君。そして、植木鉢の中で正座して頷くマンドラゴラちゃん。

 この子(?)可愛いな!?


「〜♪」


 かすかに歌声のような綺麗な音が聞こえてくる。

 もしやこれがマンドラゴラちゃんの声かな? 


「かわいいですね。コハナが見たら喜びそうです」


「サクヤ君と一緒なら遊びに来てもいいよって伝えておいて」


「ありがとうございます!」


 笑顔のサクヤ君を見ていたメイリは、心配するような視線を俺に向けてくる。


「いいのか?」


「構わないよ。さすがに女の子ひとりで来られたら困るけど。一般常識的に」


「そうじゃない。お前、リア充浴びると消滅するだろ?」


「んなわけあるか」


 思わず噴き出すサクヤ君。

 そのまま俯いて肩を震わせているけど……いいんだよ? 全力で笑ってくれてもいいんだよ?


「まぁ、この家の検証は時間をかけるとして。それよりもダンジョン内で試したいことがあるんだけど、今日はもう少し付き合える?」


「おう、いいぞ」


「自分も大丈夫です!」


「ありがとう! では、さっそく……」







「祝、公開! ダンジョン『よろず屋』配信!」


「おお、やっとか」


「すごいです! おめでとうございます!」


 :えっ、ちょ、よろず屋さん!?

 :マジか! えっ、マジか!

 :祝⭐︎よろず屋さん枠主配信【10,000円】

 :夢じゃない!?【50,000円】

 :ありがたやありがたや【10,000円】


 流れるコメントを見て、自然と笑顔になるのを感じる。

 配信をして、どうしても言いたかった挨拶があったんだ。


「ご視聴いただき、ありがとうございます。ダンジョン『よろず屋』ただいまより営業いたします」


 ものすごい勢いで増えていく閲覧者数と課金、そして流れていくコメントに目が追いつかない。

 一緒に画面を見ているメイリとサクヤ君がドン引きしている。


「コメントありがとうございます。今日はメイリとサクヤ君に付き合っていただいてます」


「おう、お疲れー」


「よ、よろしくお願いします!」


 サクヤ君は配信に慣れていないらしい。配信もコメントをオフにしていると言っていたから、師匠であるメイリと同じスタンスのようだ。

 メイリは俺と一緒の時だけコメントを拾っているから、サクヤ君みたいに緊張することはない……いや、こいつは最初から緊張なんてしていなかったな。俺は最初の頃、心臓バクバクだったのに。ぐぬぅ。

 閲覧人数が増える前に、ポメ太郎が非公開にしたっぽいけど。


「それで? 『よろず屋』で配信して、何をするんだ?」


「店に来れない人も、俺に依頼を出せるようなシステムを作ろうかと思いまして」


 :わあ!!!!ありがたい!!!!

 :よろず屋っていうくらいだから、色々ありそう!

 :公開配信とはそういう…

 :あっ、課金できなくなった【現在制限中です】

 :なんでー???また非公開になったら困るよー【現在制限中です】


「課金システムって止められるんですか?」


「運営で何かしたんじゃないか?」


 自分の画面を操作しているサクヤ君に、メイリは俺に目配せをしている。

 いや、俺は何もしていないよ?


「クゥン」


 カウンターの上に飛び乗ったポメ太郎が、口に咥えていたクズ魔石を置いた。

 ふむふむ。なるほど。


「ここ『よろず屋』の公開配信では、依頼に対して課金ができるシステムのようです」


「あの、自分はダンジョンで拾ったアイテムだったんですけど……」


「直接お客様にご来店いただければ、勘定できるものなら何でも構いませんよ」


「俺も酒とか持ってきてるしなぁ」


 そしてメイリはここで飲んでいくよね。なぜか「場所代だ!」とか言いながらお金を払って。


「あの、自分の配信に流れた人が課金してくるんですけど……」


「いいじゃないか。ありがたく受け取っておけよ」


 こっそり配信を切っているメイリを、サクヤ君は恨めしげに見ている。

 運営とズブズブな関係の師匠を持つと弟子は苦労するね。がんばれサクヤ君。


 お金もらえるならいいじゃないかって思うんだけど、なんでか俺の周りの人間はそういうしがらみを持っていない。

 新婚当初のメイリは万年金欠だったけど、俺から援助金なんてものを絶対に受け取ろうとしなかったんだよな……。


 まぁ、今は金持ちの側だから、結果オーライってやつだからいいけど。


「〜♪♪♪」


「クゥン!」


 カウンターに置いた植木鉢からマンドラゴラの子が身を乗り出し、ポメ太郎と楽しそうに会話をしている。

 うむ。癒される光景だね。


 :おい……おいおいおい

 :おいおいおいおい

 :おいお略……って、何だその生き物は!?


「ああ、紹介がまだでしたね。こちら『よろず屋』の新しい従業員となりました。マンドラゴラの『ララちゃん』です。よろしくお願いいたします」


 その瞬間。


 コメント欄がすごい速さで流れていき、かろうじて「よろず屋さん、抜いたらダメー!」と心配されている文字が見えた。

 優しい世界だね。


「コメントくれている人に、ちゃんと害はないって説明してやれよ」


「店主(マスター)さんにはドSの要素があるとコハナが言ってたけど、こういう事でしたか……」


「ああ、昔からコイツ、いい性格してるんだ」


 師弟二人が何か言ってるけど、別に驚かせる気は無かったよ?

 ただ説明するのが面倒だって思っているだけで、悪意はないよ?




 ……本当だよ?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る