14、真っ白毛玉犬の正体とは


 どうやらポメ太郎の関係者っぽいので、家に招くことにした。

 ……モフモフに心惹かれたから、ではない。ないったらない。


 ここは祖父が建てた家で築年数はそうとうなのに、なぜかやたら天井が高いし、あの時代の建築にしては洋風でハイカラ(?)なデザインになっている。

 畳の部屋は祖父母の寝室くらいで、あとは全部フローリングなんだよね。


 それで、だ。


 ポメ太郎の関係者……灰色の大きなモフモフ侍は「ありがたき幸せ!」などと言いながらポメ太郎と一緒に足を拭いてから上がってもらった。

 ギリギリソファーは行けそうだったけど、慣れているからという理由で床に座っている。なぜか正座で。

 どう見ても獣の足なんだけど、その座りかたで大丈夫?


『お初にお目にかかる。拙者は真白狼族に仕えている灰色狼族の、若長という役割を担っているでござる。最近になり、坊っちゃまが貴殿のお宅で大変ご迷惑をおかけしていると知り、急ぎ馳せ参じた次第でござる』


「ましろおおかみ?」


『然り。坊っちゃまは我らが主君、真白狼族の長のご子息でござる』


 坊っちゃま呼びから偉い人の子どもっていうのは予想していたけど、俺が引っかかったのは嫡男とかじゃなくて「狼」の部分だから。

 どう見ても犬にしか見えないし、犬種で例えるならポメラニアンの外見だ。

 真白狼……うーん……狼だったのかぁ……。


「クゥン?」


「ええと、種族のことは後にするとして。その灰色狼の若長さんが俺に何の用です?」


『誰にも懐かない一匹狼の見本のようだった坊っちゃまが、まさか貴殿のような人族と一緒におられるとは思ってもおらず……こちらの認識が遅れてご迷惑をおかけしたでござる』


「一匹狼……」


「クゥーン!」


 俺の頭の上から肩に移動したポメ太郎が、何やらドヤ顔で鳴いているのだが。

 この白いモフモフ毛玉が、一匹狼……違和感しかない。


『おお、坊っちゃまが遠吠えを! ここまでご成長されたのもの貴殿のおかげでござる! 重ね重ね感謝するでござる!』


「遠吠え……?」


「クゥーン!」


 ずっと甘えているのかと思っていた「クゥーン!」の鳴き声が、まさかの遠吠えだった件。

 衝撃的事実に慄きながら、俺は本題に入ることにする。


「それで、若長さんが俺に謝罪したいのはポメ太郎……この坊っちゃまを保護したことじゃないですよね?」


『うっ、なぜそれを……』


「侍が土下座をするのは、命をかけているからだと聞いたことがあります」


 昔、メイリが貸してくれた「トンデモ⭐︎サムライ読本」に書いてあったのもあるけど……主君の子どもが世話になっているからといって、土下座をするのはおかしいでしょうて。


 ちなみに、そのトンデモ本の最後には「ここにある内容はフィクションです」って書いてあった。トンデモ本なのに。


『実のところ、真白狼族は我らの世界では「神々の眷属」でござってな。もちろん坊っちゃまも神々の力の片鱗を御身に宿しておられ……』


 ポメ太郎が神々の眷属? いや、今は考えるのをやめておこう。

 灰色の大きな毛玉は再び土下座状態になり、一心不乱にモフモフと語り続けている。


『こちらで認識した時に判明したのでござるが……貴殿の近しい存在となられた坊っちゃまの御力が、こちらのダンジョンから漏れ出ているのでござる』


「そうか……」


 だからポメ太郎と灰色毛玉侍がダンジョンから出られるのか。


『あちらの世界でダンジョンとは魔素が集まってできたもの、竜などの大きな魔力を持つ存在が創り出すもの、そして神々が手ずから創ったものなどがあるのでござる。貴殿の庭にあるダンジョンの入り口は、坊っちゃまが創った非常口のようなものでござってな……』


「ポメ太郎、いや真白狼族のご子息がここにいることが、そもそも「力が漏れている」状態だということですか?」


『さようでござる。拙者がここにいるのも坊っちゃまが許したからでござる』


 あーーー、なるほどねーーー。

 そういうことだったのかーーー。


 でもまぁ、ダンジョンで留守番するのが寂しいポメ太郎が、俺がいる家に来るだけなら別にいいのでは?


「クゥン」


「大丈夫だよ、ポメ太郎。俺は迷惑とか思ってないから」


 申し訳なさそうに鳴いているポメ太郎をモフモフ撫でてやる。すると、灰色侍が申し訳なさそうに鼻をスピスピ鳴らした。


『こちらの世界でいうハイシンとやらができなくても、でござるか?』


「え? ハイシン……配信ですか?」


 確かに、冒険者では義務化されているダンジョン配信について、なぜか俺のは非公開状態になっている。

 まさか……と、ポメ太郎を見ると「クゥン?」と首を傾げていてモフモフかわいい。許す。


『それだけではないのでござる。ダンジョンの外で他に何か起きてはござらんか? 例えば貴殿のご友人はどうでござる?』


 俺の友人といえばメイリだ。他にもいるけど今はダンジョンの話をしているからメイリが一番近い存在だろう。


 変わったことといえば……腰痛持ちだったメイリ絶好調とか?

 最近よく店に来てくれるサクヤ君が深層に行ったり、コハナちゃんのジョブに変化が起きたとかも?

 そんなことをつらつら話していると、灰色毛玉侍はガクブルと震え出した。どうしたどうした?


『かくなる上は切腹を……』


「そういうのは他でやってください」


 ダンジョンで冒険者が「戻るの面倒だから死に戻りする」とかいうのも、俺は無理です。

 死に戻りというシステムがあるからって、生きることを諦めるなんて危険な兆候だと思う。それが当たり前になったら、リアルにも影響ありそうで怖すぎる。


 ちょっと待って。


 こっちの世界からダンジョンに持ち込んだ食材は劣化しない。

 ポメ太郎が「うち」をダンジョン化させているとしたら……。


「梅酒が! 果実酒が! 寝かせている酒たちが!」


「クゥン」


『坊っちゃまが『発酵食品に関してはそれぞれいい感じになっているはず。状態維持させたい食材にのみ適用させている』とのことでござる』


「あのひと鳴きで、そこまで長文の説明してました?」


『坊っちゃまは案外おしゃべり好きなのでござるよ』


 ポメ太郎の新たな一面を知ってしまった。

 そしてポメ太郎は梅酒だけじゃなく、他の果実酒も狙っていたらしい。

 漬物や手作りのヨーグルトや味噌も範囲に入っていたから、酒だけじゃなさそうだけど

……ご都合主義万歳って感じだなこれ。


 取り急ぎ上に報告すると言い、灰色侍はふたたびダンジョンへと帰っていった。

 そこだと『よろず屋』に入ることになるけど……。


『出入り口として使わせてもらうだけでござるよ。拙者が入れば我らの里に出るようになっているでござる。ご安心を』


「あ、そう、ですか」


 不法侵入……と思わなくもないけど、灰色毛玉侍もいい感じのモフモフだし許すことにした。

 俺はモフモフに対して寛容なのだ。


「クゥーン……」


「一番はポメ太郎だよ」


「クゥーン!」


 うーん、この鳴き声は遠吠えだったのか……そしてポメ太郎は狼とは……。

 只者じゃないと思っていたけど、ポメ太郎の正体は色々な意味で予想外だったなぁ……。


 

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