11、幸運の行く末


「カーバンクル、ですか?」


「うん。その魔石は『幻のルビー』とも呼ばれていて、持ち主に幸運をもたらすとされる……と、異世界の人からもらった魔獣図鑑に書いてあったよ」


「そんな図鑑があるんですね」


 :さすが人脈オバケのよろず屋さん…

 :その図鑑、読んでみたいです!

 

「リスナーの皆様、ぜひ『よろず屋』にお越しくださいませ。図鑑だけではなく、様々な商品を取り揃えておりますよ」


 :うがーっ! どうやって行けばいいんだー!【10000円】

 :↑すぐお金で解決しようとするやん…【5000円】

 :↑お前もな!

 :カーバンクル並みに幻の店、よろず屋さん…


 幻の店っていうか、客の選別はポメ太郎がやってるっぽいんだよなぁ。

 俺はポメ太郎の雇われ店主って感じだと、常々思っていたり。


 そのポメ太郎は、自分の毛にくっついている青緑色の毛玉と一緒に遊んでいる。

 えっ、なにこの毛玉たち。かわいすぎるんですけど。


「見てるだけで癒されますね……」


「ここがダンジョンってこと忘れそうだよね……」


 俺の腕の中で、フワフワモフモフと戯れあっている毛玉たち。

 それを羨ましそうに見ているコハナちゃんだったけど、はたと本来の目的を思い出す。


「そうでした! あの、カーバンクルさん? この魔石、私が持っていていいんですか?」


「キュルー♪」


 コハナちゃんの声かけに反応した薄緑色の毛玉は、俺の腕から飛び出す。その勢いのまま、彼女の肩に飛び乗り、頬にすりすりと体を擦り付けている。


「かっ……かわっ……」


「うん。気持ちは分かるよ。俺もポメ太郎と遊んでいると、よくそうなるから」


 :かわいい女の子と小動物という最強のコンボ…【3000円】

 :てぇてぇ…【5000円】

 :イケメソとワンコも忘れないで…【10000円】


 コハナちゃんのリスナーは平和な人たちが多い。そして相変わらず課金のタイミングが謎すぎる。

 閲覧人数を見れば、コメントせずにロム……「見ているだけ」のリスナーもかなり多そうだ。

 念のためコハナちゃんの配信を使って、カーバンクルの生態を説明しておこうか。


「カーバンクルってどういう生き物か知ってる?」


「私は初めて聞きました」


「俺たちの世界でも創作やゲームでよく出てくるファンタジーな生き物なんだけど、額にある宝石が幸運を呼ぶみたい。異世界の魔獣に関する資料は、かなり正確に記載されていると運営の人が言ってたよ」


「もしかして、運営にある基本の魔獣についての本も……」


「そう。異世界にあったものを翻訳したんだと思う」


「なるほどー!」


 :魔獣のいる世界のほうが生態に詳しいのは当たり前か

 :そういえばジョブ一覧に翻訳家があったのは、そういうことかー。

 :よろず屋さんは異世界の本をそのまま読んでるっぽいけど…

 :それはほら…よろず屋さんだから…


 つくづく【萬勘定師ゼネラル・テラー】が反則っぽい件。

 いや、俺だって色々と経験してるし、それなりに勉強しているんだよ? 知識は持っていて損はないから、とにかくたくさん本も読んでいるし……。


 それはさておき。


「カーバンクルはおとなしい魔獣で、異世界では幻獣とも呼ばれている。幸運をもたらすことから、多くの人間が『幻のルビー』を求めてきたんだけど……」


「なんか嫌な流れを感じます……」


「うん。残念ながらカーバンクルを狩った人間たちは、誰ひとりとして生き残っていないんだ。持っていたはずの魔石も塵になったのを見た人がいるみたい」


「こんな愛らしい生き物を狩るなんて……生きたままだとしても、無理やりなんて酷いです」


「そうだね。だから君には懐いているんだよ」


 コハナちゃんの腕のなかにいるカーバンクルは、優しく撫でられて気持ちよさそうに目を細めている。

 こんな小さな生き物を私利私欲のために殺せるなんて、人間とはどこまで欲深い生き物なのだろうか。

 うんざりとした気持ちになりながらも、俺は話を続ける。


「カーバンクルは幸運を与える対象を自分自身で選べるんだ。それは人だけじゃない。動物でも植物でも、建物とかもあったみたいだよ。それを無理やり捻じ曲げようとすると、カーバンクルの幸運も捻じ曲がるんだ」


「あっ、なんかその先は分かるような気がします……」


「捻じ曲がった幸運なんて、不運以上に厄介なものだ。財を求めた人は愛する家族を失って遺産が入ってきたとか、女性が夫を家に繋ぎ止めたいと願ったら、足を失って戻ってきたとか……これはまだ軽いほうみたいだけど」


「怖すぎます!」


 :ひぇ…

 :なんか猿の手を思い出すなぁ…

 :やめれ。それはこわすぎる

 :この件は拡散したほうがいいのかな?

 :運営も動くだろうけど、ダンジョンの外が怖いよな…


「ああ、ちなみに。カーバンクルが認めた人間に手を出して、国が滅びた事例があるみたいだよ。怖いよね」


「えっ!? ちょっ、ええっ!?」


 まぁ、こればっかりはしょうがない。

 これだけ懐いてしまっているし、このカーバンクルは自分の親の魔石らしきものまでコハナちゃんに渡すくらいだ。

 文献に載っていたのは魔石ひとつだったけど、コハナちゃんは二つ持つことになるからなぁ……運営にはこっそりメッセージ出しておいたし、あとのフォローはお願いしておこう。


 この件に関して俺は悪くない。

 配信経由で釘を刺しておいたし、できるだけのことはやった。

 後のことは、それこそ「人間の善意」次第だと思う。


「そういえば、俺と一緒にいて彼氏君に怒られない?」


「店主さんと一緒だと言ったら羨ましがられました。また機会があれば、サクヤも一緒に素材集めの探索とかどうですか?」


「それはありがたいかも。メイリだと色々と雑でさ……」


「あはは……」


 コハナちゃんがもらった『幻のルビー』は、カーバンクル本人(?)の希望で、弓に取り付けることになった。

 それならばと後日、腕のいい職人を紹介することを約束した。

 ポメ太郎も新しい友達ができて楽しそうだったし、コハナちゃんのおかげで色々と得たものもある。

 めでたしめでたし……で、いいのかな?(不穏)


 ちなみに。


 今回の報酬については、カーバンクルが潜んでいた穴の中にあった植物の種にしてもらった。

 何が育つか楽しみだ。

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