10、不思議な生き物の恩返し



 :剣聖と一緒にいた、よろず屋のマスターを運営局で発見! 生で見たぞ!

 :なぜここでコメントする? ウラヤマウラメシヤ…

 :画面越しじゃないマスターがイケメソすぎて昇天するかとオモタ

 :アバターになるとイケメンになる人多いよね

 :マスターって異世界人じゃないの?

 :気持ちはわかるが、配信に登場するマスターは日本語使いやで…


 今日も今日とて、コメント欄が賑わっている。

 もちろん、俺のじゃなくて……。


「相変わらず、カイトさんは人気者ですね」


「これは本当に人気なのでしょうか……ただイジられているだけかと……」


 カウンターにいるのは女子大学生のコハナちゃんだ。

 配信関係で【聖騎士パラディン】サクヤ君の恋人として有名なコハナちゃんは、最近ジョブが変化したらしい。

 今は【弓術士アーチャー・序】とのことだ。

 序っていうと、序盤ということかな? なんとなく「序破急」という言葉が浮かぶのは職業病だろうか。

 メイリも聞いたことがないと言っていたから、サクヤ君だけではなくコハナちゃんも珍しいジョブを得たのかもしれない。

 俺の知り合いは、皆そろって珍しいジョブを持っているなぁ……。


 今回コハナちゃんは「珍しい素材をゲットしたけど活用できない」ということで、『よろず屋』に来てくれた。

 ひたすら酒を飲むだけのメイリとは違い、義理堅い子だなぁと思う。

 メイリの場合、酒は自分で持ち込んでくるから、店の売上にはならないという……そのかわり新規客のほとんどはメイリ経由で、結果儲けさせてもらっているから強くは言えないのだが。ぐぬぬ。


「やっぱり、ここのクッキーおいしいです!」


「ありがとうございます。では、たくさん作っておきますね。本日はマフィンもありますが、お出ししましょうか?」


「お願いします!」


 アールグレイのミルクティーと、ブルーベリーのマフィンをおいしそうに食べているコハナちゃん。

 基本『よろず屋』はアイテムの売り買いや交換をする場所なんだけど、俺の趣味で取引のあるお客様のみ飲食可にしている。

 あとペット連れもOKだ。

 ポメ太郎もいるし、おとなしい魔獣なら入店を許可している。


 クッキーとマフィンに満足したコハナちゃんが懐から取り出したのは、つるりと丸いルビーのような色合いの魔石だった。

 これは……。


「通常、赤い魔石なら火属性がついておりますが……どうやら違う属性のようですね」


「はい。私も不思議で……。属性くらいなら私にも鑑定できるのに、なぜかこの石は分からないんです」


 コハナちゃんはジョブの能力以外も発動できるようだ。

 ダンジョンの外で経験したことも自分の能力として反映されるから、おかしくはないけど……もしかしたら普通の大学生ではないのかもしれない。

 まぁ、ポメ太郎に選ばれて『よろず屋』に来れるくらいだから、何かしらあるのだろうけど。


「どちらで手に入れられたのですか?」


「私はまだ強くないので、浅い階層で弓の練習をしていたんです。そしたらサッカーボールくらいの横穴を見つけて……」


 穴を見つけたコハナちゃんは、何があるのかと覗いてみると、小さな生き物が震えていたらしい。

 すごく怯えて出てこない小さな生き物が気になったコハナちゃんは、数日ほど穴の中に食べ物と飲み物を差し入れ続けていたとのこと。


「なんの生き物がわからないんですけど、リスみたいな感じでした。攻撃してこないし、可哀想になってきて……元気になるまでと思って差し入れしました。そしたら昨日、この石を置いて消えちゃったんです」


「つまりこの石は、その生き物のお礼ということですか」


「そんなこともあるんですね」


 :ホニャララの恩返しか?

 :魔獣使いも似たような流れで仲間になったとか言ってたな

 :コハナちゃんは弓術士だろ?

 :でもかわいいじゃん。

 :かわいい関係ないだろw 彼氏の聖騎士にフルボッコされんぞ?


 コハナちゃんと【聖騎士パラディン】サクヤ君は公認の仲になっている。

 変なやっかみはなさそうだし、サクヤ君はメイリを師匠とか呼んでいるから、そっち方面からも守られているのかもしれない。

 コメントを見て照れているコハナちゃん。若者たちが幸せそうで何よりだ。


 さて、この魔石は……。


「これはコハナさんが持っていたほうがいいと思います」


「えっ、お世話になっているカイトさんへのお礼にしようかと思っていたんですけど……」


「その生き物は、コハナさんにあげたかったのでは?」


「うーん……」


 なんとなく、その生き物の予想はついている。

 その答えを出す前に、コハナさんの意志を定めてほしいと思ってしまった。


 我ながら自己満足の極地だなぁとは思っていたら、カウンターでジャーキーを食んでいるポメ太郎が俺を見て「クゥン」と鳴いた。


「ほら、ポメ太郎もそう言っていますよ」


「ポメちゃんが言うなら、私が持っておこうかな……」


 俺の言葉じゃ説得しきれないのは、まだまだ未熟ということだろうか。いや、きっとポメ太郎の愛らしさが全てを凌駕するに違いあるまい。


 ああ、そうだ。


「でしたら、直接相手に確認したらいかがでしょう?」







 界隈(?)での俺は、非戦闘員だと思われているらしい……ということを、コハナちゃんのリアクションで理解した。

 メイリが俺の行動に対して何か言うことはない。アイツは「我が道を行く」タイプだし、友人であってもお互い極力干渉しないようにしている部分があるのだ。


 :よろず屋さんって、戦えたんだ…

 :前はよく剣聖と組んでたぞ。(古参ムーヴ)

 :どうやって戦っているのかわからん!教えてえろいひと!【1000円】

 :なんか光っててかっこいい!【5000円】


「すごいです! カイトさん、お強いんですね!」


「強さはそれなりかな。メイリと一緒にいれば目立たないし、いい壁役になってくれるんだけど」


 :よろず屋さんの冒険者モードきちゃぁー【10000円】

 :少しラフな感じの言葉づかいも素敵だわぁ(はぁと♂)

 :↑気持ちはわかるが、俺はそっちじゃないぞ!(断固♂)

 :剣聖を壁にするというパワーワードw

 :盾じゃないということか……つまりコハナちゃんは以下自粛

 :変なコメントすると、よろず屋さんに叱られるぞ…

 :自粛したやろがい!


 店から出た俺は一介の冒険者だ。

 口調を変えたら、コハナちゃんからは「そっちのほうが気楽でいいです!」なんて言われてしまった。お店だと店主とお客様の関係だから、そこの線引きはしっかりやりますよ。


 今回、コハナちゃんは後衛で、俺が盾役として前衛に出ている。

 相変わらず装備はバーテンダー風の服装のみという……いやだから、俺のジョブだと一番防御力が高いのがこれなんだって。

 しかも胸ポケットから出して投げるのは、武器ではなく色とりどりのクズ魔石という。いやだから、これが一番以下略。


「普段は補助役が多いけど、『勘定』済みの場所なら前衛もいけるよ」


「その『勘定』というのは、店主マスターさんのジョブ固有能力ですか?」


「新しい場所だと使えない能力なんだけどね」


 クズ魔石も事前に『勘定』済みだから、ただ転がすだけで効果を出すことができる。チート……と言いたいところだけど、事前準備が必要だし時間もかかる。

 今回は思いつきでコハナちゃんと行動している──と見せかけて、実は前日に誰かと探索に出ることは「なんとなく」知っていたんだよね。誰と一緒かまでは読めなかったけど。


 普通に剣などの武器を使って戦うこともできるけど、俺は基本的に楽をしたいタイプだ。

 投げているシトリンに似た金属性のクズ魔石は、向かってくる魔獣対しキラキラ輝く壁を生み出す。魔獣たちの足止めをしたところで、コハナちゃんが弓を射って倒してくれる。

 取りこぼしたものは、そっとお片付け(物理)をしておく。何度も言うが俺は普通の戦いもできる冒険者だ。

 なにせ昔は【剣聖ソード・マスター】直々にご指南いただいていたからね。あの地獄の日々を経験すれば、嫌でも戦えるようになると思う。(吐血)


 ここの魔獣はコハナちゃんの武器と相性がいいらしく、サクサクと倒しているから危なげない感じだ。

 俺がついてこなくても良かったか……。


「クゥン」


「ポメ太郎?」


 俺の頭の上にいたポメ太郎が、洞窟の奥へ向かってフワリと飛んでいく。

 何かを見つけたらしい。


「魔石を見つけた場所はこの奥?」


「はい。ちょうどポメちゃんが飛んで行った辺りです」


 なるほど。もしかしたらポメ太郎と似たような生き物……じゃないだろうな。そうそうダンジョンマスター絡みが落ちているとは思えない。

 やはりあれは……。


「クゥーン!」


「見つけたみたいだね」


 俺の胸に飛び込んできた白い毛玉には、青緑色の毛玉がくっついている。

 すわ毛玉の分裂か!? というのは冗談で。


「クゥーン♪」


「キュルル♪」


 真っ白なポメ太郎にくっついていたのは、青緑色のフワフワな毛並みを持つリスのような生き物だった。その額には丸いルビーのような魔石が光っている。


 その生き物は幸運を呼ぶという。

 額に光る魔石は、幻のルビーとも呼ばれている。


「……カーバンクルだ」

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