9、国営ダンジョン管理事務局
正式名称は国営ダンジョン管理事務局。
通称「運営」。
ダンジョンを探索する国民に対し、冒険者ライセンスの発行や管理、
運営はダンジョン内にあり、ライセンスを持っている人間なら日本各地にある受付から、24時間いつでも入ることができる。
どういう仕組みになっているのか不明だけど、同時刻に入った場合は知り合い以外は同じ人物だと認識できないようになっている。
外ではリュックに入っていたポメ太郎も、ダンジョン内に入れば服や持ち物は
中に入れば、赤い髪が目立つメイリのせいで周囲が騒がしい。
「いや、俺だけじゃないからな? カイトとポメ太もかなり目立っているからな?」
「心外です」
「クゥーン」
俺の装備は白いシャツに黒のカマーベストとクロスタイ、黒のスラックスと黒の革靴……まんま、バーテンダーの外見だ。
メイリは使い込まれた皮と金属を合わせた装備に、二振りの剣を腰に下げている。最近は双剣にハマッているらしい。
【
剣ならなんでもいいのか……と思ったら、短剣は違うっぽい。なんでだ?
「メイリ様、カイト様、お待たせいたしました」
「すまん。急な対応をさせて」
「よろしくお願いします」
メイリの横で、店主モードの笑顔で対応する俺。そして運営の女性の視線は俺の頭から離れない。
ダンジョンの運営に関わっている人たちの格好は、なんというか「天使」と言う感じだ。頭に輪っかが付いていて、背中には白い羽根がある。
運営の建物も白一色だから、ここが開局した当初は「すわ転生スタートか!?」なんて騒がれたものだ。
「そちらの白い毛玉様についてですね? 局長がお話ししたいとのことなので、別室へご案内します」
「へぇ、局長が出張るなんて珍しいな」
ポメ太郎、またの名を白い毛玉様……運営の人のネーミングセンスって面白いな。
本人(?)頭で不満げにクンクン鳴いているから、お気に召さなかったらしい。
「お手数おかけします。それと、この子はポメ太郎とお呼びください」
「承知いたしました」
よくよく考えてみたら、運営にペットの届け出はしていなかったかも。
【
いや、そもそもポメ太郎と契約なんてものはしていない。
俺が束縛されたくないタイプだから、基本は自由にさせている。
だから家にまで来ちゃったとか? うーむ……。
真っ白な建物の中を案内される俺たちは、どんどん奥へと入っていく。
騒がしいメイリのファン(?)たちの声が遠ざかっていき、やがて静けさだけが残った。
「この場所、メイリは来たことある?」
「いや、初めてだ」
えー、なんか嫌な予感がするんですけど?
まぁ、頭の上にいるポメ太郎の尻尾はご機嫌に揺れていて、俺の耳や首すじをくすぐるくらいだから大丈夫だろう。たぶん。
しばらく歩いていたら、とうとつに教会のような建物が現れた。
もちろん白一色で、真ん中に花模様のステンドグラスがはめられたドアがあり、案内の女性が近づくと自動で開く。
「建物の中に建物があると、ちょっとテンションが上がるな」
「俺、展示場の企業スペースを思い出した」
うっかり社畜時代のアレコレを思い出し、少しダウナーなお気持ちになってしまった。
苦笑したメイリに背中をポンポン叩いてもらったおかげで、無事に切り替え完了だ。
「局長が中でお待ちなので、ここからはお二人と毛玉……ポメ太郎様だけでどうぞ」
「ありがとな」
「お手数おかけしました」
案内をしてくれた天使は飛び立ってしまう。
運営の人、ここでの移動は飛べるんだ……いいなぁ……。
小さな教会の中に入ると、迎えてくれたのは神父……ではなく、いかにも神様って感じの男性がいた。
案内の人よりも大きい翼に、真っ白な長い髪頭には月桂樹の冠と、白い布をたくさん使った服(?)を身につけている。
『わざわざご足労いただき、感謝する』
「久しぶりだな局長。今日はこのポメ太について報告があるんだ」
「……はい?」
いやいやちょっと待ってメイリさん。
今、この局長って人(?)、異世界の言葉で話していましたよ? 気づいて???
『楽にしてもらっていい。そこの椅子に座りたまえ』
椅子なんてどこに? と思ったら、いつの間にか背後に豪奢な猫足の椅子が並んでいた。
遠慮なく座らせてもらうと、あり得ないくらいのふかふかもっちりクッションだった。すごい。
『そこのメイリ君とは、不思議と会話が成立するのだが……原因は不明だ』
よかった。やはりメイリが異世界人と会話できるのは、運営サイドでもおかしいという認識なんだな。
「本日こちらに報告したかったのは、この子……ポメ太郎が自宅に現れたことでして」
『自宅とは、ダンジョンの外ということか?』
「はい。そうです」
「くぅん!」
物申すといった様子のポメ太郎を、自分の頭からおろして撫でてやる。
そうだね。
ポメ太郎は俺に懐いている。だから、俺のいるところがポメ太郎の家ってことになるよね。
「以前、俺が報告した時は確認中とあったが、ポメ太はやはり……」
『うむ。【剣聖】メイリの考察通りだ。そこな毛玉は、ダンジョンマスターの分体であろう』
メイリだけじゃなく、俺もある程度予想していた。
他の冒険者がダンジョン内で「出来ること」と「出来ないこと」が、俺の場合まったく当て嵌まらない。
それはポメ太郎と出会ってからになる。
ダンジョンマスターに関しては、どちらの世界でも「ダンジョンを創った主」というのが共通認識だ。しかし存在の有無については未確認とのこと。
ポメ太郎の能力は、ダンジョンそのものの決まりを変えてしまうものが多い。
言葉の壁は無くなり、異世界の町や他の層から移動ができるドアが突然現れるなどなど……他の人に知られたらチートと言われそうな能力だ。
『それで、其方たちはどうする?』
「俺はダンジョンで稼げればそれでいい。カイトはどうだ?」
「んー、これまで通り『よろず屋』の店主をやれたらいいかな」
「クゥーン」
そうだね。ポメ太郎は『よろず屋』の看板犬(?)だから、これからも頑張ってもらわないとね。
『欲がない』
「いや、金は欲しいし」
「衣食住は、ガッツリ充実させたいタイプです」
『そういう事を言っているわけではない』
局長さんを困惑させたのは申し訳ないけど、俺たちは「好きなように生きれたらそれでいい」みたいなところがある。
それと、ポメラニアンのようなポメ太郎をもふもふできれば幸せという、もふもふスキー特有の
「では、これまでと変わらず、ご愛顧のほどをよろしくお願いいたします」
『委細承知した』
こうして、ポメ太郎は運営から正式に俺、明野海斗とダンジョン内外で「共存」する許可をもらえたのであった。
「……ん? 共存?」
「クゥン!」
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