8、不思議な生き物ポメ太郎


「酷い目にあった……」


 今日はオフにしようと、ベッドでゴロゴロ。

 昼近くになってもカーテンを開けず、ゴロゴロ。

 部屋を薄暗い状態にして、さらにゴロゴロ。


「クゥーン……」


「ポメ太郎は、こっちの世界にも来れるんだなー」


「クゥン」


 ふわりと飛んできたポメ太郎を、ベッドに寝転がったままキャッチ。

 うんうん。モフモフだね。かわいいね。




 昨日の過保護者(過保護な保護者の意)たちは、ちょっと元気のないリオさんを過剰なまでに心配していた。

 その気持ちは分かる。荒くれ者が多い異世界で、小さなリオさんは庇護対象にしか見えないのだろう。

 まぁ、あの感じだとリオさん自身の力で対処できそうだけど……なんて思ったのは内緒だ。

 もちろん保護者たちの前では言わなかったよ。猛獣が出てくる藪を下手につつきたくはない。


 故郷を思い出して嬉しかったというリオさんの言葉で、あっさりと彼らの怒りが消えたのは良かった。

 子グリフォンたちに必要な守りの石を作成したし、諸々の案件が解決してめでたしめでたし! となったはずなのに……。


 ここからが大変だった。


 まず、リオさんが俺に対して心の距離が近く、さらに王都のギルマスさんから信頼されていること。

 なによりも『啓明』のリーダーのグランさんが俺の事を気に入ったことにより、とんでもない申し出を受けることになってしまった。


「異世界人やばいな……一妻多夫とか、どこのラノベだよ……」


 俺はダンジョン『よろず屋』の店主だ。

 それなりに異世界の知識を得ているし、そういう文化もあることは知っている。


 けれど、まさか「異世界人(男)が自分の妻を囲う夫の一人にならないか勧誘してくる」とは思わなかったんだよな……。

 それもすごくすごく熱心に……何度も……しつこいくらいに……。


 リオさんが本気で怒らなかったら、色々とヤバかったかもしれない。


「あの人たち、聞いたことのない素材とか魔道具とかを貢ごうとするんだもんな……俺が何を好んでいるかなんて、どこから情報を得ていたんだ?」


 そうなると、あの怒りながらの登場は作戦の一つだったのだろうか。


「やっぱり、異世界人やばいな……」


 胸の上でスヤスヤ寝ているポメ太郎を撫でて、昨日の疲れを癒すことにする。

 そして今日は……いや、しばらく『よろず屋』は休業にしよう。

 メイリはうるさいからメッセージくらい送っておくか……。


 ぐぅ……。(入眠)


「クゥーン」


 あ、はい。

 おやつですね? 少々お待ちくださいませ。







 結局、昼過ぎにはベッドから出た俺は、テレビをみながらポメ太郎のブラッシングタイムとおやつタイムを堪能する。

 毎日のようにブラッシングをしているから、毛玉になっている部分はない。玉になりそうなところはハサミで切っている。

 毛を切るとキラキラ光って消えていくから、やはりポメ太郎はあっち(ダンジョン)寄りの生き物なのだろう。

 なぜこっちに来れるかは謎だけど。


「カイトー! 生きてるかー!」


「はいはい、元気じゃないけど生きてるよ。昨日助けに来てくれていたら元気だったよ……」


「悪かった! アイツら気のいい奴らだから油断していたんだ!」


「世界が違う人間に、こっちの常識は通用しないんだよ……」


 昨日、『啓明』のメンバーが押しかけてきた時、メイリに「助けてくれ」とメッセージを送ったのに「アイツらなら大丈夫!」などというお気楽な返信をしてきやがって……。


 部屋に上がってきたメイリは、さっそくポメ太郎に構おうとしてガブガブ噛まれている。

 いいぞ! もっとやれ!


「茶は自分で用意すること。今日の俺はオフだからな」


「了解」


 さすがに悪いと思ったのか、冷蔵庫に用意してあったアイスティーをボトルごと持ってきて、俺の分のコップも用意されていた。

 店にあるのはノンシュガーだが、俺しか飲まない自宅のアイスティーにはハチミツが入っている。

 メイリは甘いものを苦手としているのに、なぜかこのアイスティーは好んで飲む。奥さんにはレシピを渡しているから、自分の家で飲めばいいのにと思ったり。


「それで? なんでここにポメ太がいる?」


「え? 今? 散々構い倒しておいて、今聞いてくる?」


「俺は大事なことを最初に済ませておくタイプだからな」


 うん。意味がわからない。

 でも大雑把が服を着て歩いているようなメイリが気にするということは、相当なことだ。たぶん。

 寝起きのせいか一杯目のアイスティーを一気に飲み干した俺は、メイリにおかわりを要求する。


「なぜか俺の持ち物になっているから、なんとなく分かるんだけど……ポメ太郎はダンジョンの生き物というよりも、ダンジョンの一部みたいな扱いらしい」


「ほう、つまり?」


「もしかしたら、この家もダンジョンの一部になっているとか?」


「今の俺たち、外皮アバター付いてないぞ?」


「そんなことになったら大騒ぎになるよねぇ……」


 だからこそ、ポメ太郎はそうならないよう「設定」したのではなかろうか。


「お前のチャンネルが外から見れないようになっている、アレみたいなものか」


「そうだね。アレっぽいね」


 アレだのなんだの適当に言っているようで、今の俺たちはかなり真剣にやり取りをしている。

 なぜポメ太郎は俺に懐いたのか、なぜ俺と異世界人との会話を助けてくれるのか、なぜダンジョンの外に出てこれたのか……。


「運営は把握しているのか?」


「さぁ……ポメ太郎のことは報告してるけど、そのままご自由にって感じだった」


「そうか。怖いな」


「怖いよね」


 その怖さを理解できるからこそ、メイリには色々と話している。

 メイリもダンジョンに関しては、溺愛している奥さんにさえ言ってないことが多くあるようだし。


 当時、恋人だったメイリの奥さんから、俺たちの関係に対して変な勘ぐりをされたのも今ではいい思い出だ。

 メイリの奥さん曰く「R指定のないビーエルならオッケーです!」とのこと。そんな許可はいらないし、鳥肌がたつのでやめてほしい。

 なぜかメイリが「愛はあるぞ!」とか言い出したので(物理的に)シメておいた。二度目はないと思え。

 

「しばらく『啓明』には気をつけておく。でもなぁ、そもそも俺たちは異世界に行けないはずだし……」


「こっちの人間が異世界人と恋愛関係になることってある?」


「ちらほら聞くが、実際どうなったのかは知らん。そもそも他人の恋愛に興味はない」


「俺だって興味ないよ。たまにこっちの繋がりで恋愛相談の依頼は入るけど」


「お前のわらじ、何足あるんだ?」


 兼業していると「二足のわらじ」なんて言われたりする。俺はフリーランスの仕事とダンジョン『よろず屋』の店主、他にも色々と手を出している。

 ダンジョンの外で実入りがいいのは占い稼業だ。

 その多くは恋愛相談で、相手の気持ちが知りたいだの浮気していないかだの、気になるなら本人に聞けって流れを占ったりしている。

 知りたい気持ちは分かるけど、占いで問題は解決しないから、参考程度にとどめて欲しいなと思う。切実に。

 

「こっちではタロットカードで占ってるけど、脳のトレーニングになってちょうどいいんだよね」


「そのカード、『よろず屋』で使わないのか?」


「異世界は本物の皇帝や魔術師がいるから、微妙に読みづらいんだよ」


 だから試しにクズ魔石を使って「勘定」してみたら、意外と視えて驚いたんだよな。


「確かに異世界はファンタジーな案件が多いもんな……。それで、どうするんだ?」


「どうするって……面倒だけど運営に行くしかないでしょ」


「おう。俺が付き添いしてやる」


 今日は完全オフの予定だったんだけどな。(吐血)

 風邪と面倒事は早めに対処すべしってやつだ。仕方がない(自論)


 本当、持つべきものは(高ランク冒険者の)友だな!

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