5、ジョブ【萬勘定師】の本領発揮


 干し草色の髪に、緑灰色の目。

 明らかに日本人ではない風貌は、無精髭や目の下の隈があっても整っているせいか、どこかの配信で「色気だだ漏れイケオジ」なんてコメントを付いたりしてるのを見たことがある。

 彼はSランクの冒険者であり、異世界……聖王国の王都にある冒険者ギルドのギルドマスターだ。

 皆は彼をギルマスと呼んでいて、一応偉い人みたいだけど気さくな性格で、冒険者たちからも慕われている。

 職場にこういう上司がいるといいよねって思う。俺はフリーだから気楽なもんだけど。


「いくら王都に『よろず屋』の入り口があるからといって、頻繁に来られても困りますよ。ギルマスさん」


『これでもメイリ以外の客がいる時は控えている、つもりなんだけどな』


「お気遣いには感謝しておきますね。一応」


 ギルマスさんは直感のスキル持ちで、判断や決断が早い。やっぱり上司になってほしいランキングで上位を狙えると思う。

 ちなみに彼は異世界人だから、今話している言語も異世界語だ。会話が成り立っているのは俺のジョブと諸々が手助けしてくれるおかげだろう。たぶん。


「それで、何かありましたか?」


『王都近くの森で魔獣が異常発生したという報告があってだな。冒険者たちに調べるよう依頼を出していたんだが、ベテランチームの『啓明けいめい』が戻ってこないんだよ。それどころか、期限がすぎているのに連絡もない』


「ランクは?」


『万年Bランクだ』


「なるほど……確かにそれは心配ですね」


 異世界での冒険者ランクは下からGで、上になるとA、S、SS、SSSという順だ。

 万年Bということは、かなり優秀ということになる。

 なぜ異世界でアルファベットがあるのか問題については、過去にこちらからの転生者や転移者がいたからだ。そのあたりの詳細は割愛させていただく。

 ランクに関してはどちらの世界も共通だ。俺がCランクで昇級試験を受けるのをやめたのは、ランクをキープするのは面倒……というか、手間がかかる。

 上になればなるほど、しがらみも増えるし、運営や国から依頼される事も多くなるんだよな。

 ちなみに【剣聖ソード・マスター】のメイリはSSSランクだったりするんだけど……相変わらず規格外すぎる友人だ。


『俺のスキルで、全員生きているのは分かっている。だから早く見つけてやりたいんだ』


「わかりました。お代はいつものでいいですよ」


『忙しいのに悪いな』


「いえ、俺の力になれる範囲ですし、きっちり対価もいただきますから」


 さて。

 ここでようやく『よろず屋』ではなく、冒険者としてのジョブ【萬勘定師ゼネラル・テラー】の説明ができる。

 言葉だけを見ると、なんとなくお金関連の何かをイメージされがちだけど、実際やっているのは「色々なこと(よろず)を勘定する(数える)」ことだ。


 依頼人から相談事を受けて、様々な事象を取り込み、数え、流れを導き出していく。

 そのためには……。


「クゥーン」


「ポメ太郎、お客様の条件に合うクズ魔石を持ってきて」


「クゥゥゥン……」


「はいはい。ブラッシングは後でするよ。おやつも付けるからね」


「クゥン!」


 俺のブラッシングを対価として、クズ魔石と呼ばれる石ころを持って来てくれるポメ太郎。

 外見は真っ白でモフモフなポメラニアンだが、ダンジョンで見つけたので普通の犬ではないっぽい。

 クズ魔石の入っている袋を器用に咥えて、カウンターに飛んできて中身をコロコロと転がしながら出していく。

 そこから前足でちょいちょいと選別してくれる姿が、とてもかわいい。見ているだけで癒される、これぞアニマル(?)セラピーってやつだ。

 最初は自分で選んでいたんだけど、ポメ太郎に選んでもらったほうが「出しやすい」から、つい頼ってしまう。いつもありがとね。


『悪いなポメタロウ。お前の分の肉も上乗せしてやるからな』


「クゥン!」


 友人のメイリには噛み付くが、ギルマスさんには愛想のいいポメ太郎。

 その条件とは、必要以上に近づかないからだと思われる。


 ポメ太郎の持ってきたクズ魔石とは、中の魔力が空になっているただの石ころだ。元々あった魔力の色がうっすらと残っていて、俺たちの世界にある天然石パワーストーンのような見た目をしている。


 カウンターの下から取り出した厚手の布には、「星」と「太陽」と「月」のモチーフが三つずつ、合計九つ刺繍されている。

 そこから「陰」と「陽」や、「過去」と「現在」と「未来」という時間を定めていく。四方の方角から割り出すこともあれば、人の感情などを引き出していくこともある。


 リソマンシーみたいな占いって言われたら、まぁそうなんだけど。

 某アニメ映画で石や骨を転がして占うのとは、似て非なるものって感じかなぁ……たぶん。


 昔からこういう事を遊び感覚でやっていたから、当たるかどうかを気にしたことはない。ところが、ダンジョン探索をするようになり久々やってみたところ、かなり有用な能力だと気づいたのだ。

 少なくとも、今回のような緊急案件を受けるくらいには役立っていると思う。


 ギルマスさんから得た情報では、『啓明』は4人で組んでいる冒険者チームとのこと。

 瑪瑙っぽい石を四つ用意して人間に見立てる。王都を水晶として、魔獣はコハナちゃんからもらったスケルトンの骨を使ってみよう。

 アメジストっぽい石は事象、フローライトっぽい石は可能性、他にもいくつか用意する。もちろんポメ太郎チョイスから使わせてもらう。


「ギルマスさん、彼らはまだ大丈夫ですか?」


『ああ。まだ生きている』


 俺の使う『勘定』は「生きている人間」にのみ有効だ。それを知っているギルマスさんも、依頼を出す時は事前に生死を調べてくれている。

 ダンジョンの外では、死んだら生き返らないからね……回復魔法は万能ではなく、異世界でも死は全ての人間に等しく訪れるらしい。


 今回は時間との勝負だ。しかし慌てず深呼吸をしてから、手に乗っている石ころたちを布の上にゆっくりと落としていく。


 石同士がぶつかると、チリンチリンと鈴のような音が鳴る。

 わずかに残った石の魔力が反応したのか属性の色でぼんやりと光り、やがて消えたのもあれば光り続けているのもある。


「まず場所ですが、王都から北のほうですね。四人とも一緒にいます。魔獣の脅威は……それに見立てたスケルトンの骨は崩れたので問題ないようです」


『そうだな。アイツらが対処できない魔獣なんて出てこられたら、王都は壊滅しちまう』


「……本当にBランクですか?」


『万年Bランクだな』


 この言い方は、実力はもっと上ということか。

 となると、魔獣の脅威がない中で彼らから連絡がない、ということになるけど……。


 崩れた骨をゴミ箱に捨てて、ふたたび石ころたちを布へと落としていく。

 少し大きめのフローライトっぽい石が砕けて、彼らを現す石のまわりを取り囲んだ。


「害意はないものたちに囲まれて、彼らは動けないみたいです」


『動けない? 怪我をしているのか?』


「彼らの石の光はそのままで、欠けてもいません。怪我ではないようですね……連絡手段はありますか?」


『ギルドで配布している、連絡用の魔道具を使っているはずだ』


「そうですか」


 彼らを取り囲んでいる石に、アメジストっぽい石を当ててみる。

 すると先ほどとは違う強い光が発し、キィーンと耳に響くような音が鳴った。


「魔道具を使うと、無害だったものが違う流れになるようです。魔道具は魔力を使用しますよね? 魔力を使わないタイプの冒険者に、彼らの現状を調べてもらったらどうでしょう」


『ああ、わかった。動けないようなら食料が尽きている可能性もあるか……魔力を使わない冒険者を集めて、救援部隊を結成させよう』


 ギルマスさんの言葉を受けて、ふたたび彼らに別の石を落としてみる。さきほどと同じく鈴のような音が鳴った。


「それなら大丈夫そうですね。あと、この四つのクズ魔石を持っていって、彼らに渡してください。お守りがわりです」


『おう! 感謝する『よろず屋』。対価は今日中に送る!』


「急がなくてもいいですよ。毎度ありがとうございます」


 慌ただしくギルマスさんが出ていったドアは、入ってきた時と同じ石造りのものだ。ドアは彼が出て行くと同時に消えてしまう。

 この場所はダンジョンであり、元の世界と異世界が交じり合った場所でもある。

 外皮(アバター)を身にまとっている俺が出られるのは、元の世界にある自宅の庭でしかない。


 それでも。


 異世界にいる彼らも「人間」であり、俺たちと同じように生活をしている。

 現代日本とは違い魔獣という脅威にさらされながらも、毎日を懸命に生きているのだ。


「それにしても、動けない理由ってなんだろうね。ポメ太郎」


「クゥーン?」


 こてりと首を傾げる真っ白な毛玉を抱き上げる。

 ポメ太郎の毛並みはもふもふがもふもふで、とても癒されるさわり心地だ。


 約束どおりにブラッシングをしてあげてから、おやつのササミジャーキーは少しお高めのものにしてあげたらたいそう喜ばれた。

 また買ってこよう。



—————


お読みいただきありがとうございます。

今さら(?)ダンジョンものです。

隙間時間に少しずつ書いていたものを、せっかくなので放出することにしました。

応援していただけると嬉しいです。

よろしくお願いします(*´∀`*)エヘヘ…


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