4、昔話と友人と例外


 事件(?)はあっさり解決した。

 ダンジョンで取得できるアイテムに、魔獣寄せの紋を付与するという悪質な冒険者は運営にライセンスを剥奪された。


 では、なぜコハナちゃんが狙われたのか。


 冒険者の界隈では、稀少なジョブを持っているとモテる。サクヤ君のジョブ【聖騎士パラディン】も、持っている人間はごく僅かだ。

 幼馴染という関係性から、女性たちはサクヤ君からコハナちゃんを引き離したかったのだろう。狙いはともかくとして、方法は最悪だった。


 付与した冒険者だけじゃなく、関わっていたメンバーは全員ライセンス剥奪されていた。どうやら余罪があったもよう。

 配信用のカメラで撮っているんだから即時対処できないの? と思ったけど、申告されないと詳しく調べないんだとか。

 意味ないだろそれ……って思ったのは俺だけじゃなくメイリも同じで、ものすごく渋い顔をしていた。


 そんなまわりの思惑はともかく、今回の件で若い二人の仲は深まり。


 サクヤ君はコハナちゃんに(驚くことにまだ恋人じゃなかった)無事告白したそうな。今後はカップル冒険者として青春をエンジョイするらしい。

  そして、『よろず屋』に入店した事で、コハナちゃんにもリスナーが付いたみたいだ。これからはダンジョン探索だけではなく、配信活動も楽しくなるに違いない。

 リア充になったサクヤ君のコメントには、少しだけ怨嗟のようなものが流れたみたい。

 でも本人は幸せオーラ全開になっていたから、「爆ぜろ!」「もげろ!」などといったコメントはきっと些細なことなのだろう。リア充め。


 【剣聖ソード・マスター】というジョブを持っているメイリは、かなり高ランクの冒険者でもある。運営からの信頼されているから、何かあった時に話が通りやすい。

 だから今回のような案件は、メイリが通報すればスピード解決する。

 持つべきものは、高ランク冒険者の友人である。


「人間関係が原因の案件、『よろず屋』やっていると本当に多いよ……」


「だから俺はソロでやっているんだ」


「メイリの場合、冒険者と組んでいないだけでしょ」


 基本、メイリは一人で活動している。

 と見せかけて、多くの「異世界人」たちとチームを組んでいたりする。


 ダンジョンは「異世界」と繋がっている。

 だから時々、異世界の人間がダンジョンに潜っていることもあり、運がいいと一緒に行動することもあるのだ。

 あくまでもそれが出来るのはダンジョン内に限っての話。お互いの世界へ行くことはできない。

 つまり、俺たちが住む世界と異世界が混じり合っているのは、ダンジョンという限られた場所でのみのことなのだ。


 なお、異世界人と俺たちの違いは、言葉が通じるか通じないかで判明する。

 その点について、俺はジョブのおかげか苦労していない。メイリなんて英語も苦手なくらいなのに、会話に苦労はしていないらしい。

 どうやって通じ合ってるのだろう。パッションで、とか?


 新人冒険者の迷子を保護した俺たちは、その後ダンジョンの運営に報告書を提出した。

 その後に打ち上げとして『よろず屋』で飲んだくれることにする。まぁいつもの流れである。


 飲む気満々だったメイリは、奥さんに持たされたという筑前煮を大きなタッパーで提供してくれたよ。やったね。

 和食なら日本酒だろうと、他に酒盗とクリームチーズをのせたクラッカーなどを適当に並べたりもしてみた。

 男だらけの飲み会でこれだけ並べば贅沢なほうだと思う。

 そして、メイリの奥さんの筑前煮が美味すぎる件。


「新人か……懐かしいな。最初の頃は狼の魔獣の牙も持って帰っていた」


「魔石以外はダンジョン通貨になっちゃうけど、それでダンジョン用の装備とかが買えるからね。新人はちりも積もれば感覚大事だよ」


 ダンジョンにいる魔獣と呼ばれる存在は、ゲームに出てくるモンスターのような存在だ。倒すと魔素になって空気に溶け込んでしまうが、火や水などをの属性付き魔石だったり、毛皮や骨などを落とすこともある。


 ちなみに魔石から魔力が抜けた状態の「クズ魔石」も、ここ『よろず屋』では交換の対象となっております。

 ぜひ、皆様お立ち寄りくださいませ。


「そういえばカイト、未だにその格好で戦っているのか? 知らない奴らが見たら驚くから、もう少しどうにかならないのか?」


「俺のジョブだとこれが最強なんだよね」


 バーテンダーのような装いが今のところ最強という、謎のジョブ【萬勘定師ゼネラル・テラー】は、よろず……色々なものを勘定することができる。

 そのものの価値や能力を引き出したり、時には人の流れや意思をも引き出すことが可能だ。

 どうやって戦っているのかは、機会があればそのうち説明するかもしれない。今は飲みたいので、また今度ということで。


「まぁ、カイトのおかげで俺は【剣聖】になったようなものだから、あまり文句は言えないんだよな」


「え? そうなの?」


 それは初耳だ。

 もしや酔ってるのか? と思ったけど、アバターの状態は酔っているのは外皮のみで、本体はシラフだから意識はハッキリとしているはず。


「冒険者になる前に、奥さんのことで相談しただろ? その時はまだ彼女だったが……」


「ああ、ろくに稼ぎもない俺なんかと結婚して幸せにできるのかってやつだったっけ? ごめん。俺、ちゃんとおぼえていないかも」


 あの時はリアルで酔っ払っていたから、記憶が曖昧なんだよなぁ。


「あの時はカイトから、結婚以前の問題だろって一蹴された。彼女はひとりでも幸せになれるが、ただ覚悟ができないだけのヘタレなお前が誰かを幸せにするとか阿呆か。図にのるなって言われた」


「えっ……俺、そんなこと言ったの? メイリに厳しすぎない?」


「いや、それで覚悟を決めた。金が必要なら稼げばいいだけだと冒険者ライセンス取って、その足でダンジョンに潜った。その日だけで数百万は稼いだと思う。たぶん」


「なんでそこの記憶は曖昧なの?」


「俺も酔っていたからな」


 いや、メイリが酔っているところは見たことないけど……と、話していてふと気づく。

 ダンジョン内の『よろず屋』で飲む時の話題は毎度バカ話ばかりなのに、今はセンシティブ?な会話をしていることに。


「メイリ、配信中にこんな会話をしていて大丈夫なのか?」


「とうとう運営から配信オフ設定をもぎ取った」


「えっ……」


 とうとう運営から例外の対応をされるようになった友人、とは。(真顔)


 でも俺は配信中ってなっているんだけどね。

 閲覧人数は「0」のままだけどね。


 まぁ、こういうセンシティブ(?)な話題の時は助かるから、いいんだけど……ね。







 翌朝、いつものようにメールを確認。

 返ってきた原稿のチェックして、編集の仕事をひととおり終わらせる。


 ダンジョンで『よろず屋』をやるようになってから、フリーランスでやっていた仕事は絞っている。現状、昔から付き合いのある企業だけ受け付けるという感じ。

 ダンジョン繋がりのみっていうのは危険なんだよ。実生活とのバランスって大事だからね。あんなに稼いでいるメイリも兼業で、実家の手伝いとかやっているくらいだし。

 それに、人との繋がりって切れる時は簡単なのに、繋ぎ直すのは大変なんだよ……ハハッ。


 現在、実家に住んでいるのは俺一人だから気楽なものだ。

 誰かがいると早く結婚しろだの何だのうるさいからなぁ……できれば放っておいてほしい。だけど、心配されている自覚はあるから甘んじて受け取るしかない。ぐぬぬ。


 庭にあるダンジョンの入り口は、そのまま『よろず屋』に繋がっているが、すぐに行き止まりとなっている。

 基本、ダンジョンの奥へと進むには、うちの庭以外の入り口じゃないと無理なのだ。

 近所に住んでいるメイリや知人たちが直接『よろず屋』に来るときは、わざわざ俺の実家の庭から入って来るんだよな。まぁ、それが確実ではある。

 たまに先日のカップル冒険者たちみたいに、偶然『よろず屋』に来れるパターンもあるけどね……。


 近所の商店街で食材や諸々の品をリュックに入れて、庭からダンジョンに入る。

 まとわりつくような独特の空気を感じながら、トレーナーにGパン姿だった俺の体にダンジョンの魔素が集まり外皮アバターが形成されていく。

 バーテンダーのような格好が、俺のジョブ【萬勘定師ゼネラル・テラー】の戦闘服だ。異論は認める。


 ダンジョン内では食材などの劣化が遅くなる。それでも気分的に生鮮食品は冷やしたいから、氷の魔石入りの箱に入れておく。

 仕入れた魔道具の整理やカウンターの掃除などをしていると、壁に石造りのドアが現れて男性が転がり込んできた。


『頼む! 助けてくれ!』


「いらっしゃいませ。またですか? 最近こういうパターンが多いですね……」


 不定期営業している『よろず屋』には、偶然じゃないパターンでの来店もある。

 それは……異世界からの(種族は問わない)来訪者だ。

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